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音質に影響するのか

【解説】誤解していませんか?「Bluetooth 5対応」の真の意味とは

2018/05/21 海上 忍
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ワイヤレスイヤホン/ヘッドホンが広く利用されるようになり、“Bluetooth”というワイヤレス通信規格の存在も認知されるようになったが、ここ1 - 2年ほどで誤解を招きかねない表記も見かけるようになった。「Bluetooth 5 対応」がそれだ。

ワイヤレスイヤホン/ヘッドホンの人気にともない認知が広まった“Bluetooth”、だが誤解を招きかねない表記も多い…?

製品に「Bluetooth 5 対応」などと謳うのは問題ないが、最新版のBluetoothに対応していることがアドバンテージであるかのような説明は、事の本質を突いておらず、エンドユーザーの誤解を招きかねない。Bluetoothイヤホン/スピーカーはもちろん、パソコン/スマートフォンを含むBluetoothオーディオ機器全般において、「Bluetooth 4でも5でも音質には全く影響なし」ということを念押ししておきたい。

まず、前提として「BluetoothのHi-Fiオーディオ用通信規格は何年も前から存在し、アップデートされていない」ことを理解してほしい。Bluetoothという通信規格は、用途ごとに「プロファイル」と呼ばれる仕様が定義され、Hi-Fiオーディオ用には「A2DP(Advanced Audio Distribution Profile)」が用意されている。Bluetoothでオーディオ信号を扱えるプロファイルは他にも存在するため(ヘッドセット用の「HFP」など)、Hi-Fiオーディオ再生に言及するときには「Bluetooth(A2DP)」や「Bluetooth/A2DP」などと表記することになる。

Bluetoothイヤホン/ヘッドホンのパッケージに記載されている「Bluetooth 5.0対応」の意味は……(写真はイメージです)

このA2DPは、「Bluetooth 1.1」の時に定義された10年以上の実績を持つ規格だ。ビデオ/オーディオストリーム配信用のプロファイル(GAVDP:General Audio/Video Distribution Profile)を基礎とし、モノラルおよびステレオの音声データを高品質に配信する目的で利用されはじめた。その後何度か改訂され、最新版は2012年公開のものだ(A2DP v1.3)。

その後、Bluetoothのコア規格も改訂を重ね、バージョン2.0の時には従来の通信速度(Basic Rate:BR)に加えて、最大3Mbpsの拡張通信規格「EDR(Enhanced Data Rate)」を追加。対応機器には「Bluetooth 2.0+EDR」と表記されるようになった。

さらに改訂が行われて「Bluetooth 2.1+EDR」となり、最大24Mbpsというより高速な拡張通信規格「HS(High Speed)」を追加した、「Bluetooth 3.0+HS」が2009年に策定されている。この頃Bluetoothは、拡張規格を用意することにより転送速度の高速化を目指していたのだ。

しかし、音楽再生にそこまでの高速性は要求されなかった。A2DPで必須とされるコーデック「SBC」のビットレートは規格上512kbpsが上限だが、輻輳を原因とする音飛びやノイズを避けるため、実際には345kbps/ステレオ以下で運用されている。音質で有利とされるaptXは上限384Kbps、aptX HDでも576kbpsだ。EDRを利用するLDACの場合、2種類定義された転送レート(2Mbpsと3Mbps)のうち2Mbpsを使用するが、通信環境を考慮すると1Mbps以下での運用が現実的とされる。それがLDACのビットレート上限が990kbpsとされている理由だ。

そして今なお、Bluetooth/A2DPは「Bluetooth 2.1+EDR」の範囲で運用されている。現在使われているコーデックでいう限り、受信・送信側ともBluetooth 2.1+EDRに対応した機器であれば、SBC以外のコーデックへの対応は別として、オーディオ機器として利用できるというわけだ。Bluetooth 4/5非対応の古いスマートフォンが手もとにあれば、ペアリングをして音楽を再生してみてほしい。最新のBluetoothオーディオ機器が問題なく動作することだろう。

Bluetooth 4/5非対応の「IS11S」でOptoma / Nuforce「BE Sport3」(スペックシートには「Bluetooth 4.1」と表記)とペアリングしたところ。もちろん問題なく音楽再生できる

LDACの最大ビットレートは、Bluetooth 2.1+EDRの範囲に収まる990kbpsに設定されている

ところが、業界団体のBluetooth SIGはバージョン4で方針を転換する。通信速度よりも消費電力低減を重視した規格「Low Energy(LE)」を追加したのだ。しかし、BRやEDRと仕様が大きく異なるため、Bluetooth 3以前とは互換性がなく、新しい通信モードとして用意された。これは「Bluetooth 3以前のBluetooth(BRおよびEDR/HS)」に「LE」という別の通信モードが加わったという意味だ。

前述した通り、A2DPは「Bluetooth 2.1+EDR」の範囲で運用されるので、当然Bluetoothオーディオ機器はBluetooth 4対応機器でも「Bluetooth 3以前のBluetooth」のモードで通信する、ということになる。LEだけに対応したBluetooth機器(シングルモード)も存在するが、A2DPを利用するオーディオ機器とは無関係と考えていい。

Bluetooth 5も拡張/変更が行われたのはLEの部分のみで、「Bluetooth 3以前のBluetooth」のモードに変更はない。物理層でのデータ転送速度がBLEの2倍となり、約2Mbpsの倍速通信モードも用意されたが、それも「LE」の話で、Bluetooth 3以前で動作するA2DPとは無関係だ。冒頭で「Bluetooth 4でも5でも音質面には全く影響なし」と書いた理由がこれだ。

なお、Bluetooth 4/5対応自体がオーディオ再生に全く無関係ということではない。たとえば、iPhoneなどのスマートフォンにはBluetooth機器のバッテリー残量を表示する機能があるが、これはBluetooth 4以降(LE)でサポートされる「Battery Service Profile」というプロファイルによるものだ。

スマートフォンにBluetooth機器のバッテリー残量が表示される機能は、Bluetooth 4以降(LE)でサポートされている

音質には影響しないが、Bluetoothオーディオ機器を“快適に利用すること”に貢献してくれているのだ。こういった付加価値も期待できるから、より新しいバージョンのBluetooth機器を選ぶ方が無難とは言えるだろう。

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