現時点で理想の「フォノ」と「ライン」〜考えうる最高品位のパーツを吟味

プリアンプの“音”と“機能”を問う管球モデル、エアータイト「ATC-5」レビュー

井上千岳
2018年03月15日
昨年創業30周年を迎えたエイ・アンド・エム(株)が擁する、真空管とアナログへのこだわりを徹底して突き詰める、国内生産のブランド「エアータイト」。三極管211によるフラッグシップ・モノラルパワーアンプ、「ATM-3211」に続く新作となる、フォノイコライザー内蔵のステレオコントロールアンプが「ATC-5」。初代機「ATC-1」以来約30年のブラッシュアップを込め、プリアンプとしてのいまを問う意欲作を井上千岳氏がレビューする。

AIR TIGHT/プリアンプ「ATC-5」(¥740,000/税別)

30年を経てなお進化するエアータイトの象徴的存在

エアータイトは1986年の創設で、CDの発売から4年後にあたる。デジタルが隆盛に向かおうという時期にあえて真空管を素子に選択し、大量生産ではない手作りのオーディオを世に送り出す姿勢が、30年を経てなお生かされ続けていることに注目したい。

薄型の管球式プリアンプは初代「ATC-1」以来、エアータイトの象徴にもなってきた。同機はマランツ7型のフォノイコライザー内蔵、続く「ATC-3」はライン専用、そして本機「ATC-5」はふたたびフォノイコライザー内蔵としながらラインソースにも入念な配慮を施している。

使いやすく配置されたリアパネルの高品位端子群

フォノイコライザーはMM専用で、2系統の入力を持つ。12AX7を3本使用したNF-CR型で、低域をNF、高域をCRで構成し、両者の干渉を避けて正確なRIAA特性を確保する設計だ。特に最低域のカーブを積極的にコントロールし、レコードの反りなどの影響を排除しているのが特徴である。

熟練の女性技術者により、美しく手配線された内部。最高水準パーツを奢った採用も目を引く

選別品の真空管を搭載

ラインアンプ部は12AT7によるオーソドックスな2段構成。厳重なデカップリングにより、各部の干渉を避けている。シャーシは肉厚スチールのモノコック形状とし、PCボードを排し、純銅製の基板を吊り下げ式のインナーシャーシに取りつける構造。ボリュームはアルプス社製黄銅削り出しケース入り。電源部は大容量コンデンサー搭載で余裕を持たせている。

一般的な管球式とは違う次元の再現力

S/Nが良く、また切れ味にも富んだ鳴り方だ。澄んで目の詰んだ感触が清々しい。聴く方の気持ちも引き締まる思いがする。フォノ入力はMMだけだが、レスポンスが均一で高低両方に無理なく伸びている。このため頭を押さえられたような息苦しさや引きつったような刺々しさを感じることがない。

バロックは弦楽器やオーボエの音色が大変艶やかで潤いに富んでいるが、それが通り一遍のものではなく、芯がしっかり締まって密度の高い肉質感に伴われているのが目覚ましい。そのうえでアンサンブルが精密にほぐれて、起伏に富んだ再現を展開する。単に音色に頼った出方ではなく、信号の精度と情報量を基礎に30年を経てなお進化するエアータイトの象徴的存在しているところが、柔らかさだけを求めた一般的な管球式とは違う次元の高さである。

ピアノも音数が多い。弱音部のきらめくようなタッチと、これ以上ないと思わせるほどのデリケートな表情が、少しも崩れずに描き出されて多彩に変化するフォルテの強く華麗な響きも立派だし、低音部もリアルだ。オーケストラは弦楽器が滑らかでしかも力強い。トゥッティの強音がずっしりと沈んで表情が深く、ヴァイオリンや木管はハイスピードで瞬発力豊かだ。

CDではさらにレンジが広く、レスポンスに力が入る。エネルギーがひとりでにみなぎってくるような出方だ。ピアノは凹凸が豊かで、表情が生き生きとしている。室内楽も引き締まった質感と響きが楽々と出てくる。にじみがないためハーモニーが濁ることがなく、それていて当たりは瑞々しい。オーケストラは抜けが良く、峻烈で分離もいい。ジャズも鮮やかだ。

色々な意味で次元の違いを感じるアンプだが、デジタル時代の管球式というスタンスを確立した同社らしさが際立つ。面目躍如とした完成度である。

開発者から

エイ・アンド・エム株式会社 代表取締役 三浦篤 氏

「コントロールアンプの音、機能、姿をエアータイトが問い直す意気込みでATC-5を発売します。2系統のフォノMM入力を備え、フロントパネルで2つのトーンアームを切り換えできる構成です。イコライザーは正確なRIAAカーブの再現性を求めてNF-CR型を採用。その上で、アナログ再生に悪影響を与えるレコードの反りや可聴周波数以下のアームの共振点などの影響を排除するべく、最低域を積極的にコントロールしてスピーカー(ウーファー)の不要共振を排除するように設計しています。フォノの利得は音質と汎用性から40dBとし、またフォノEQ出力も装備して、高品位な単体EQとしても使える設計です。各部が極力干渉のないように配慮し、音の抜けの良い、開放ある音に仕上がっています。LPからデジタル音源まで存分にお楽しみ下さい」

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