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デュアルDAC搭載/性能を大幅向上

【レビュー】Astell&Kern「AK70 MKII」 ー フラグシップの思想を継承した“プレミアム”なエントリーDAP

2017/10/17 山本 敦
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・内田真礼『Drive-in Theater』から「5:00AM」

ミディアムテンポのしっとりとしたバラード。内田真礼のボーカリストとしてのタレントが存分に発揮されている楽曲だと思う。アンバランス接続からバランス接続に変えるとボーカルの張りと艶、鮮度がケタ違いに高くなる。AK70ではアンバランスとバランスのヘッドホン出力がほぼ同じレベルだったので気にならなかったが、AK70 MKIIではバランス接続に変えた時にボリュームを少し絞らなければならないほど高出力化を果たしている。

内田真礼「Drive-in Theater」

比べて聴いてしまうとアンバランス接続のサウンドが平板に感じられるほど、バランス接続では起伏に富んだ豊かな楽曲の世界が広がる。高音が爽やかに抜けて、余韻がきめ細かく広がる。大人の女性ボーカリストとしての内田真礼の巧みなテクニックが浮き彫りになり、イヤホン越しのアーティストとの距離がグンと近づいてきた。ハイレゾ再生を楽しんでいる実感と手応えも沸いてくる。

バランス接続では、楽器の音は肉付きが格段に良くなった。例えばシンバルがただ金属を擦り合わせたような音から、楽器として華やかで色気のある音に変わるようなイメージだ。楽曲の後半、ぶ厚いバンドの演奏にかき消されそうになるフィンガースナップの音もはっきりそれとわかる。タイトに引き締まったエレキベースが体の芯にぶつかってくるような弾力感もいい。

SP1000譲りの高い解像感はAK70 MKIIが獲得した大きな強みのひとつだと思う。細かな編曲の妙技やボーカリストの新鮮な声の魅力を、あらためて本機で何度も繰り返し味わってみたくなる。

・Hiromi『SPARK』から「Wonderland」

AK70 MKIIではピアノのメロディがさらに活き活きとして聴こえる。広い空間の中で3人のプレーヤーの音が自由に暴れ回っているようだ。S/Nがとてもよく、空間の器をひと回りもふた回りも大きくみせてくれる。上原ひろみが弾く音数の多いピアノのメロディがダマにならず、ひとつひとつの指の動きにまでフォーカスが合ってくる。自分の脳が覚醒して処理速度が高くなったのではないかと錯覚するほど、細部までが見えてくる感覚が心地よい。

Hiromi「SPARK」

バランス接続に変えると、音楽の生っぽさがまた一皮むけた。漆黒の夜空に広がる星空を見るような解像感に息を飲む。フラグシップのSP1000から贅沢に継承するキャラクターだ。ピアノのメロディが荒々しい波のように押し寄せてくる。

荒々しいと表現したが、暴れがしっかりとコントロールできているので、描き出される感覚はまるでアーティストが演奏する空間に自身が迷い込んでしまったようだと例えた方が正確かもしれない。例えばエレキベースは、弾いた弦が空気をスムーズに押し出す実体感が得られる。ドラムスは別々の楽器が一つひとつ違う音を鳴らしていることが明快にわかる。AK70 MKIIで自分の演奏を聴いたら、きっとサイモン・フィリップスも満足するに違いない。

・Daft Punk『Random Access Memories』から「Lose Yourself To Dance」

現行モデルのAK70でも十分に力強くアクセントの効いた演奏を聴かせてくれるのだが、AK70 MKIIになって、期待値をはるかに超えるサウンドを楽しませてくれた。

Daft Punk「Randum Access Memories」

やはりほかの楽曲と同じように空間定位の鮮明度が格段に上がっている。低域は俊敏で、リズムを正確に刻んでくる。AK70では「バスンッ」と余韻を残していたドラムスの音が、「バンッ」と鋭く立ち上がる。音の輪郭線が明瞭になり、張り詰めた緊張感が伝わる。


MKIIで着実なステップアップを遂げている
バランス接続に変えると、そのサウンドはまた一段と華やぐ。特にファレル・ウィリアムズの声の艶っぽさは明らかにひと味違う。ハイトーンが心地よく伸びて、余韻の快調感がとてもきめ細かくなるのだ。エッジの効いたエレキギターのカッティングが、真っ暗な静寂を切り裂くように演奏が向かう道標を刻んでいく。ハンドクラップの音が肉厚になって、演奏に人肌の体温感を与えた。

EDMのエフェクトによるアソビをこれほど自然に、かつ楽しく聴かせてくれる同価格帯のプレーヤーはほかにないと思う。気がついたら体が自然に踊り出すのを止めることができていなかった。わが家で試聴していて良かったと思った。



わずか1年のインターバルを置いてアップグレードされたAK70 MKIIは、期待以上の飛躍を遂げたハイレゾDAPだ。SP1000譲りの新しいコンセプトに立った音づくりは、最新鋭のハイレゾ再生のトレンドにぴたりとはまっていたし、Astell&Kernからは明言がないものの、音質については「第4世代」に相当するレベルへ見事にステップアップを遂げていると確信できた。これからのAstell&Kernの標準型となり、またプレミアム・エントリークラスのハイレゾDAPの進化を引っ張るリファレンスになるだろう。

(山本 敦)

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