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[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

【第176回】Astell&Kern×JH Audioコラボの“末っ娘”「Michelle」をじっくりレビュー!

2017/01/27 高橋 敦
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Michelle、そのサウンドは

それでは、やっと実際の音の話に入ろう。まず概要として印象的なのは、JHのハイエンド多ドライバー機が届けてくる音色や響きの「圧巻の豊かさ!」のようなところは、このMichelleではけっこう大胆に削ぎ落とされていると感じたこと。ただそれは同社ハイエンドのそれが圧巻だからこその話で、このモデルの音色や響きが乏しいというわけではない。というか普通に考えれば、そしてこの価格帯のモデルとしては見事と言えるだろう。

また、響きの豊かさをある程度削ぎ落としたことで、音の芯や骨格は上位モデルよりくっきり強めに出てくるとも感じる。音の配置やリズムのわかりやすい明確さはこのモデルの持ち味だ。

例えばトリオ編成のロックバンド、ペトロールズの「表現」という曲。この曲ではギターのクリーンからクランチの音色のパキッと硬めの感触が心地よい。長岡氏のギターはスモールというかコンパクトというか、最小限の数のレゴブロックを効率的に組み合わせて必要な形を得るようなフレージングなのだが、その「ブロックのカチッと感」みたいなものをより実感させてくれる音だ。ミュートカッティングのキレも、そのほど良い塩梅の硬さのお陰で際立つ。

トリオ編成のロックバンド、ペトロールズ

対してベースはスケールの大きなグルーブが持ち味。もちろん音もぶっといが、Michelleはそのファットさも十分に再現。エレクトリックベースという楽器の太さを出すローミッド、中音域と低音域の中間あたりの帯域をこれまた良い塩梅にプッシュしてくれている印象だ。

その帯域は下手にプッシュすると音に不要な膨らみやぼやけが出やすく、音を伸ばす音符ではそれが特に顕著になりやすい。この曲は音を短く切ったフレーズが中心だが、音を伸ばすフレーズの多い別の曲で確認しても、Michelleのプッシュはロックやポップス、そこでの4弦エレクトリックベースについては下手ではないようなので安心だ。

イヤーピースはシンプルにシリコンの3サイズが付属

低音の他のポイントとしては、空気を揺らす超低域みたいなところまでは出してくれない。そこはまあ仕方ないだろう。だがトリオのロックバンドとかなら超低域なんてなければないでOK……とまでは言えずとも、大問題と言うほどでもないと個人的には思う。

ドラムスでは、ハイハットやライドなどシンバルの音の芯がやはり強めに出てくる。仮にシンバルの音を「打点」のその瞬間その箇所の音と打点から広がっていく「響き」に分けた場合、Michelleは打点でのカツンとかコツンというアタックの方を強めに届けてくれる感じだ。試聴印象の冒頭で「音の豊かさよりも音の芯が強め」と伝えたのはこういうところ。

楽器の響きの高域の柔らかさやほぐれの表現は、同社ハイエンドなどの領域には達していない。しかし代わりにアタックは実に明確。イコール、リズムが実に明確だ。

ボーカルは明るめでクリア。長岡氏の他に女性シンガーの曲も多く聴いて確認したが、共通してそういった印象だった。

全体を見てポイントなのは音の配置の明確さ、その見え方のくっきり感だ。配置される音の芯が強いこと、背景の空間の響きの成分が濃すぎないこと、そうした要素からか、どの音がどこに置かれているという様子が見えやすい。楽器と空間の全体がナチュラルに馴染んだ感じがお好みの方には合わないかもしれないが、これはこれで良い。

さて、こうしたMichelleの持ち味から想像できて、なおかつ実際に試してみて利用シチュエーションとして特にハマったのは、「街中とか電車内とか」というイヤホン利用シチュエーションの王道定番だった。

ケースもいい感じの革製で、コストダウン感はない

というのも、Michelleが得意とはしない「豊かな響き」や「空気を揺らす超低域」といったところは、街中や電車内などの騒々しい環境では、そこが得意なイヤホンを使ったところで存分にと言うほどには楽しめない場合も多い。

一方そういった騒々しい環境では、Michelleの持ち味である「芯が強く明確な音」「的確にプッシュされた太いベース」「これまた明確な音の配置」というのが、「周りが騒々しくても届きやすい音と空間表現」という強みになる。さらに前述のように、Michelleは遮音性と装着感にも優れている。

なので「毎日いつでも街中でも電車内でも音楽を楽しみたい!できるだけよい音で!」という、イヤホン本来のニーズにMichelleはかなりぴたりと適合する。「通好みではなく、わかりやすくよい音な高級イヤホン」とも言えるだろう。

同シリーズ上位モデルのように強烈な豊かさや強引なまでの迫力は備えていない。しかしその代わりにもっとシンプルな魅力を備えている。それが「THE SIREN SERIES」の末っ娘「Michelle」だ。

高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi
趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。


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