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独ゼンハイザー本社訪問記(2)

イノベーション・スピリットから生まれる革新的なヘッドホン − アンドレアス・ゼンハイザー氏・単独インタビュー

公開日 2015/09/29 12:46 山本 敦
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順調に躍進を続けるゼンハイザーブランド

アンドレアス・ゼンハイザー氏は、兄であるダニエル・ゼンハイザー氏とともに2013年の7月、実父ヤルグ・ゼンハイザー氏から引き継ぐかたちで同社3代目のCEOに就任した。

(写真左)ダニエル・ゼンハイザー氏  (写真右)アンドレアス・ゼンハイザー氏

人気と実力、規模ともに世界トップクラスの音響メーカーであるゼンハイザーの旗印を掲げ、企業をマネージメントしていくことの重圧は、おそらく万人がたやすくイメージできるものではない。にも関わらずダニエル、アンドレアスの両3代目CEOは順調に会社の成長軌道を維持・発展させている。

2014年度の売上高は前年比から4,430万ユーロ(+7.5%)伸ばした6億3,480万ユーロを達成。純利益については3,470万ユーロを計上し、企業のトップマネージャーとしての確かな実力を示した。このように好調な成績を残しながらも、アンドレアス・ゼンハイザー氏(以下 アンドレアス氏)の姿勢は「創業から3代に渡って続く家族経営のスタイルを貫き、オーディオファンに最良の製品を届けたいという揺るぎないビジョンを描いてきた賜物。何より一丸となって取り組んできた社員の功績を労いたい」と謙虚だ。


なお、2014年のゼンハイザーの成長を牽引した地域については、地元であるヨーロッパを含むEMEA地域(Europe/Middle East/Africa)が安定したベースの成長を支え、これにアメリカが4.0%の元気なセールスアップを記録した。だが、とりわけ成長が著しかった地域は日本を含むAPAC地域で30.9%と大きく伸び、「特にハイエンドに強い日本市場のセールスがブランドの成長に貢献した。全体の収益性も大きく向上している」と、ゼンハイザー氏はコメントを付け足した。

同社のビジネスの中軸については、ヘッドホンやイヤホン、ヘッドホンアンプを含む「コンシューマー部門」と、ワイヤレスマイクロホンなどを扱う「プロフェッショナル部門」に大きく二分され、それぞれの売り上げの比率はほぼ半々だ。どちらの部門も前年比で7〜8%の成長を遂げている。

研究開発への大きな投資が高品位な製品を生み出す礎

ゼンハイザーブランドをさらに力強く前進させるため、CEOであるアンドレアス氏は2014年度にとある成長戦略を実行したのだという。それは、R&D(研究開発)の部門に大きな投資をしたことだ。R&Dに携わる従業員を増強したほか、投資金額は前年比で6.4%増え、4,430万ユーロを支出した。この数字はゼンハイザーグループ全体の売り上げにおいて実に「6.8%」を占めるほど大きなものだ。さらに今年の3月には本社敷地内に新施設「イノベーション・キャンパス」をオープンした。

ゼンハイザーの本社に新しく誕生したイノベーション・キャンパス

コンサートなども開催できる多目的ホールも隣接する

R&Dのセクションを強化していくということは、ゼンハイザーは今後も先進的な商品開発に邁進するということのステートメントでもあります。新しいイノベーション・キャンパスには多くのミーティングスペースを設け、そこで全社員が自由に集まって新しいアイデアを広げられるようにしました。この施設は70周年を迎えたゼンハイザーが前に進むための重要な戦略的事業と位置づけています。人材を育てることはゼンハイザーのルーツであり、最も大事な取り組みの一つです。全ての社員がクリエイティブな環境で働けるようになることは、これからも引き続き魅力的な商品をカスタマーに届けることに結び付いています」(アンドレアス氏)

約7,000平方メートルの広大なイノベーション・キャンパスの1階には、ゼンハイザーの現行ヘッドホン・イヤホンが揃い試聴できるショップのほか、外部からの来訪者もくつろげるカフェが設けられている。ガラスの天井からは、初秋のドイツの柔らかな陽射しが注ぎ込み、真新しい白い壁を照らす淡い光はレセプションに訪れた来訪者を暖かく歓迎する。とてもモダンでオープンなスペースだ。

イノベーション・キャンパス内にはカフェテリアも用意されている

1階にはゼンハイザー製ヘッドホン&イヤホンのほぼ全ラインナップが揃う旗艦店も

ショップの一角には、いまゼンハイザーが最も力を入れて開発を進める技術の一つである「Sennheiser 3D Immersive Audio」の体験展示スペースがある。同技術について、アンドレアス氏はこのように説明している。

「Sennheiser 3D Immersive Audio」のデモを紹介してくれたDirector Spectrum Affairs & System Design Strategic Collaborations担当のNorbert Hilbich氏

今後ゼンハイザーの新しいキーテクノロジーになるものとして、いま力を入れて開発を進めている録音・再生の新技術です。最大9.1chまでの“Immersive(包み込む)”ような立体音響を録音し、ヘッドホンやイヤホンで自然に再現することを目指しています。完成度はまだ道半ばといったところで、ネーミングについてもブランディングを含めて検討している途中ですが、私たちは近い将来この技術をベースとして、ヘッドホンを使ったよりリアルなオーディオ体験、バイノーラル録音・再生の普及展開の足がかりを作りたいと考えています。

現在、クラシックやロックのコンサートで当技術を使った録音を色々実験しながら技術検証を重ね、ソースを蓄えています。おそらく来年のCESに出展するゼンハイザーのブースでは、初のパブリック・デモンストレーションが公開できるものと私も期待しています
」(アンドレアス氏)

イノベーション・キャンパスでは、9.1chのネイティブ録音によるソースの再生だけでなく、2chステレオ音源から9.1chへのアップミックス、ポストプロダクションによる9.1chサラウンドのデモンストレーションなどが体験できた。デモンストレーションは音楽ライブものが中心だったが、いずれのデモンストレーションもスムーズな音のつながり感と、いわゆるドルビーやDTSが先行して世に送り出しているオブジェクトベースのサラウンド・サウンドのような、ピンポイントでサラウンド効果を引き立たせる音の鮮やかさ、そして何よりゼンハイザーがつくる立体音響らしい濃厚な音楽のエッセンスが味わえたことが印象に深く残った。

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