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【特別企画】OPPO連続レビュー 第1回

“4極グランド分離出力”はなぜ高音質なのか? OPPOのポタアン「HA-2」とヘッドホン「PM-3」で検証

公開日 2015/05/13 12:09 山本 敦
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■「3極グランド共通出力」に対する「4極グランド分離出力」の効果とは?

HA-2が対応する「4極グランド分離出力」について説明を始める前に、そもそも現在のヘッドホンの標準仕様である「3極グランド共通出力」、ならびにOPPOのHA-1など据え置き型ヘッドホンアンプに採用事例の多い「バランス出力」がどのようなものなのか、整理しておこう。

音楽信号の電流をアンプからヘッドホンのドライバーへ伝えて音を鳴らすためには、通常は【+】(ホット)と【ー】(グランド)の2本の信号線が必要になる。これは一般的なアンプとスピーカーシステムを接続する場合を考えてもらえれば良いだろう。音楽信号は【+】からスピーカーへと流れ、【ー】(グランド)へと戻ってくる。スピーカーケーブルは、Lch/Rchそれぞれに【+】と【ー】を接続することになる。

ヘッドホンのドライバーを駆動する原理も基本は同じである。しかし、一般的なヘッドホンやイヤホンは「3極グランド共通出力」をとっている。アンプ回路はLch/Rchで1台ずつのペア構成となり、音楽信号の電流はヘッドホンのLch/Rchの【+】側には個別に送られるのだが、【ー】(グランド)側はラインがLch/Rchで共通化されているのである(図1)。

<図1>3極グランド共通出力の伝送イメージ

ただしLch/Rchのグランドが共通でも、電圧が0ボルトと不動であることから回路上は問題がない。しかし、 Lch/Rchの各音声信号がグランドで合流することによりクロストークが発生し、ひいては聴感上のセパレーション低下につながってしまう。

3極グランド共通出力の場合は、ヘッドホンのプラグの形状は3極構造となる。メリットとしては、ヘッドホンケーブルを細く取り回し良く作ることができ、プラグに線を固定する手間が軽減できること、シンプルな構造ゆえに製造が容易でコストも下げられることなどが挙げられる。そのため、そもそもの出自がオーディオ機器の“アクセサリー”であったヘッドホンやイヤホンでは広く採用されてきた。

一方で最近のアンプに採用されているDACチップはS/Nやセパレーションの良さを謳うものが多くある。にも関わらず、3極グランド共通出力の場合はそもそもセパレーションが確保されておらず、その特長が十分に生かし切れていないということになるのだ。

「4極グランド分離出力」と「バランス出力」の共通点とちがい

次に、いわゆるヘッドホンのバランス出力の仕組みを見てみよう。バランス出力は、ヘッドホンのLch/Rchドライバーを駆動するために2台ずつ、合計4台のアンプを用意して差動出力する仕組み。バランス出力に期待されるそもそもの効果は、オーディオでいうBTL(ブリッジ)接続と同様だ。つまり、ドライバーを駆動する出力電圧が2倍になるということである(図2)。

<図2>バランス出力の伝送イメージ

ヘッドホンにおける「バランス出力」という言葉は、オーディオ機器における「バランス接続」と混同しやすいので注意が必要だ。そして事実、この混同が多くの誤解の原因にもなっているので、この点も整理しておきたい。

オーディオ機器におけるXLR端子を用いたバランス接続は、片chに【+】(ホット)と【ー】(コールド)、そして信号を差動伝送する際に電位の中点を取るための【GND】(グランド)がLch/Rchに設けられている。電源を搭載するオーディオコンポーネントにおけるバランス接続では、Lch/Rchで合計6つのラインが必要となる。

一方で、ヘッドホンにおける「バランス出力」には【GND】(グランド)がなく、片ch【+】(ホット)と【ー】(コールド)の合計4つのラインで伝送される。電源を有する機器同士(例えばCDプレーヤーとアンプ)を接続する「バランス接続」であればグランドが必要になるのだが、ヘッドホンにはそもそも電源回路がないため、グランドの配線は不要となる。

であるから「3極 XLR端子×2」によるバランス出力を採用するヘッドホンアンプも多いが、実質的に【GND】(グランド)は使用していないのである。よってHA-1のように「4極 XLR端子×1」でもバランス出力は可能なのである。

ここでヘッドホンの「バランス出力」には、出力倍増の他に「もうひとつのメリット」がある。音楽信号の電流はLch/Rchそれぞれ【+】(ホット)と【ー】(コールド)に分割された4本の線でやりとりされる。そして、ヘッドホンからアンプへと電流が流れる【ー】もLch/Rchで信号が分離されている。よって前述の「3極グランド共通出力」のようにLch/Rchの電流が干渉することなく、明瞭なチャンネルセパレーションが確保できるのである。

■4極グランド分離出力は、バランス出力と同様に「グランド分離」される

そしてHA-2が採用する「4極グランド分離出力」である。この4極グランド分離出力という言葉に、耳馴染みがない方も多いだろう。4極構造の3.5mmステレオミニ端子1本だけでアンプとヘッドホンを接続して、「グランドを分離」することで高音質が得られる伝送方式だ(図3)。

<図3>4極グランド分離出力の伝送イメージ

HA-2の内部には、Lch/Rchに1台ずつ、合計2台のアンプが搭載されている。【+】(ホット)側の信号がヘッドホンに送られ、アンプ側に返される【ー】(グランド)の信号も4極プラグを経由して、アンプ内部に独立構成で配置されたグランドに戻されるため、通常のバランス出力と同じようにセパレーションの悪化を招くことがない。

バランス出力と4極グランド分離出力を比べると、【ー】側の回路とそこを流れる信号に違いがある。通常のバランス出力の場合、【−】側は【+】側の信号と同じレベルの逆位相信号で振幅している。4極グランド分離出力の場合は、【ー】側には【+】側の信号の振幅基準となるグランド電位がおかれることとなる。

ここで言えるのは、バランス出力と4極グランド分離出力を比べれば回路テクニックは異なるものの、ヘッドホンの駆動電圧の生成という点で両者に絶対的な優劣は存在しないということだ。そして4極グランド分離出力は、アンプの数がバランス出力と比較して2台少なくなる分、アンプの出力を2倍に上げれば、バランス駆動と同様のヘッドホン出力を生成できる。4極グランド分離出力とバランス出力の間には本質的な仕組みの差はなく、つまりは回路設計のアプローチが異なっているというだけなのである。

4極ステレオミニ端子は上記の写真のように各極性が割り振られている

ポータブル用途を想定したヘッドホンアンプの場合、本体のコンパクト化を推し進めれば内部スペースに制限が生まれる。特にHA-2のようなポケットサイズのヘッドホンアンプの場合、限られたスペースにバランス出力用として4台のアンプを収めるよりは、2台のアンプで高出力を実現したほうが音質面でも有利であるとの判断がOPPOにはあったはずだ。HA-2がバランス出力と同様に高品位な音質を得るために4極グランド分離出力を搭載したことは、極めて合理的な判断なのだ。

なお、HA-2のヘッドホン出力端子は4極グランド分離出力に対応した3.5mmステレオミニ端子となるが、3極の3.5mmステレオミニ端子とも互換性があり、通常のヘッドホンも共用することができる。さらにHA-2の出力に3極のステレオミニ端子を接続した場合でも、グランドの接点が増えるためインピーダンスが下がり、音質向上も期待できる。

次ページ「PM-3」と「HA-2」の組み合わせで4極グランド分離出力の音質を検証する

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