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連載第5回

藤岡誠のオーディオワンショット - MCカートリッジのバランス伝送・昇圧方式への誘い<その2>

公開日 2014/12/28 12:48 藤岡 誠
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(2)バランス伝送対応昇圧トランス

「バランス伝送対応昇圧トランス」は、徹底的にS/N感を重視する人にお薦めだ。製品数が少なく、選択肢が限られるなど幾つかの問題はあるが、SN比については確実な信頼性、安定性が確保できる。これを採用する場合は、当然のことだが、MM型カートリッジ対応のEQ(イコライザー)を内蔵したプリメインアンプやプリアンプなどと、前述したバランス伝送対応フォノケーブルを組合せるだけでOKだ。EQに対応していないライン入力専用アンプの場合は、別途フォノEQアンプを必要とする。例えば、一連のアキュフェーズなどではオプションのアナログEQボードを増設すればいい。

前記の通り、現在はMC型カートリッジ出力のバランス伝送に問題なく対応する昇圧トランスの製品数は少ないが、これまで得られている私の感触としては、今後増加傾向を見せることになりそうだ。

テクニカルブレーンのバランス伝送対応昇圧トランス「TMC-Zero」

さて、私の知る限り“ピュアオーディオ向けバランス伝送対応昇圧トランス”はテクニカルブレーンの製品が最初だと思う。2003年頃のことだ。あまり広告・宣伝をせず、関連する周辺の環境も整っていなかったこともあって、オーディオファイルの話題になることは少なかったし追従するメーカーもなかった。いわば、テクニカルブレーンならではの強烈な信念に基づく孤立無援の状況下での発売だった。

当時は、1982年に発売されたCDが順調に普及。その一方、アナログレコードの生産が著しい減少を見せている時代だ。一般的(アンバランス)な昇圧トランスはアナログレコードファンの根強い支持の下でそれなりの展開があったが、テクニカルブレーンのそれは一部好事家の意識に留まっただけだった。しかし、これからのテクニカルブレーンは違う。MCカートリッジ出力のバランス伝送対応昇圧トランスの先駆的メーカーとしての佇まい、存在を誰もが認めることになるからだ。“玉に瑕(きず)”は途方もない高価さである。内容を知れば、止むを得ないのだが・・・。

そして長い空白があって、今年2014年の9月に突然に姿を現したのがフェーズメーションだ。同社は幾つものMCカートリッジや真空管方式を含むフォノEQアンプなどを製品化しているから、MC型のより高度な再生を志向することに何ら不思議はない。そして、発売前からのプロモーションで話題を演出し、急激に存在感を高めた。入力端子はXLRとRCAの2系統でバランス対応。出力端子はRCAでアンバランス伝送である。価格はそれなりに高価だが、テクニカルブレーンと比べれば格段に付き合いやすい価格である。

フェーズメーションのバランス伝送対応昇圧トランス「T-500」

現時点ではこの2社の製品が本格的なバランス伝送対応昇圧トランスということになるが、高級MC型カートリッジで有名なマイソニックラボから、見掛けは入出力が共にRCA端子なので一般的な昇圧トランスだが、発電コイルの片側のアースラインを専用スイッチでON/OFFしてコイルをフローティングできる製品がありバランス伝送が可能なことを記しておこう。

上記以外の他社の動向はどうかといえば、来春までにはオルトフォンの参入が予定されている。同社は周知の通り、MC型カートリッジの真の大御所。また、これまで優れたアンバランス用昇圧トランスを数多くラインアップしているから、バランス伝送対応型についても大いに期待するところだ。特にオルトフォンファンは待ち望んでいるはずだ。

繰り返すが、バランス伝送対応昇圧トランスのメリットは組合せや使い方が簡単。特に発電コイルがアースラインから完全にフローティングされた環境下で昇圧されるから圧倒的なSN比とこれに伴うダイナミックレンジの確保が容易。空間再現性も良好で信頼性も高い。デメリットは、後述するバランス伝送対応フォノEQアンプに比べ、周波数帯域や分解能、透明度が若干劣る傾向にあることだ。

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