【特別企画】
5人の評論家が語る、ウィーン・アコースティクス「リスト」の魅力
2014年12月17日
井上千岳
Chitake Inoue
音楽的感性に自信がなければ完成しない
本機の他に得難い表現力を持っている
これまでのハイファイ・スピーカーとは、少し行き方を変えた設計と言っていい。入ってきた信号をただそのまま出すだけでは飽き足らず、そこに独自の表現力を積極的に乗せて、別次元のような鳴り方を実現してみせる。そうしたいわば創造的な再生のしかたが、本機の他に得難い魅力である。
こうした作り方には、大きな危険性も含まれる。ソース本来の音を、全く変質させてしまう可能性があるからだ。それではハイファイ・スピーカーにはならない。さすがに本機の場合は、そうした失敗は犯していない。本質的な再現力の正確さはきちんと押さえたうえで、さらに発展的な創造力を発揮させている。そこに多くのファンが惹きつけられる所以があると言うべきだろう。
基本的な再生音に加えて豊かな残響成分を備えた音調は、コンサートホールの広い音場空間を再創造する。このため特にクラシック・ソースでは、広がりと奥行きのたっぷりした響きが目の前に展開される。オーケストラではもちろんだが、ピアノなどのソロや室内楽でも、ちょうどホールでの実演を聴くとこういう感覚になるなという印象に富んでいる。それが人工的な強調ではなく、自然な手触りで実現されているのが聴きどころである。
ヨーロッパではいまでも無指向性スピーカーが時々出現する。それはホールの音場感を家庭の小空間でも実現したいという欲求の表れだが、本機の作り出す空間性はまさしくそれに近い。そしてそれ以上に質感や音色を正確に保っている。リアリティという点で、いわゆる音場型スピーカーと呼ばれるものが持つ弱みを克服した設計であるとも言える。
こうした作りは技術的な水準とともに、音楽的な感性に対する強い自信がなければできないもので、そこにも伝統の強みを感じるのである。
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