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AKG「K712」レビュー − “K701シリーズ”の最高峰とも言えるクオリティ

2014/06/02 野村ケンジ
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AKGはエントリー向けのカナル型イヤホンから密閉型ハウジングを持つ本格派のスタジオモニターまで、様々な種類のイヤホン/ヘッドホン製品をラインナップしているが、そのなかでも本流といえるのが「Kシリーズ」と呼ばれるモニター系のヘッドホンだ。特に「K500」を起源とし、「K701」へと発展。コラボモデル「Q701」やプロ用モニター「K702」など、幅広いバリエーションを取りそろえることとなった「K701シリーズ」と呼べるプレミアムクラスのヘッドホン群は、特に強い存在感を放っている。その最新モデルにしてフラグシップに位置するモデルがこの「K712 PRO」である。

K712 PRO

弟モデルの「K612 PRO」と同時リリースされた「K712 PRO」だが、位置づけ的にはプロユースの「K702」のプレミアムモデルとなる。外観は「カラーバリエーション?」と思うくらい一緒で、全面にメッシュパーツを採用しているハウジング部から、誰もにベストフィットするバネ式のヘアバンドも変わりない。随所にオレンジをあしらったカラーコーディネートによってひと目で「K712」と分かるものの、ハードウェア的な違いは感じられない。

ただし、実際に装着してみると、ずいぶんと印象が変わっていることに気がつく。イヤーパッドは生地が変更されているほか、低反発パッドを採用しているため、良好な装着感となった。このあたりは限定モデル「K702 65th Anniversary」に近い印象といえる。


イヤーパッドには低反発パッドを使い、装着感を高めている
しかし、既存の「K702」と最も異なっている、というか進化が見られるのは音質面、サウンドクオリティの向上だ。「Q701」と「K702」も、基本的なサウンドキャラクターは同じものの、サウンドチューニングが微妙に異なっていて、「Q701」はヴォーカルの煌びやかさが際立った、いっぽうの「K702」はややフラット志向のサウンドだった。そういった“キャラクター”の違いではなく、確実に音質的なクオリティレベルの差を「K712 PRO」は持ち合わせているのだ。それは、実際に音を聴いてみると分かる。クラシックのフルオーケストラなどを聴くと、音場の広さもやや大きくなり、編成の人数がすこし増えたかのように、音数の多さ、音の厚みが増している。同時に、歪み感もずいぶんと抑えられているのだろう、弦の音にもさらなる伸びやかさと響きの美しさが感じられるようになった。

いっぽうで、高域の素直さ、倍音成分の揃いの良さも特筆もの。「K702」でもそれほど気にならなかったのだが、聴き比べてみると「K712 PRO」のほうにだいぶアドバンテージがある。ピアノの音を聴くと、自然で伸びやかなホールへの広がりがさらに強く感じられるようになったほか、完璧なチューニングが施されたピアノに入れ替えたかのように、安定した階調を持つ演奏へと生まれ変わっている。

一方、中域と高域は解像感の高さやフォーカス感が向上している。バスドラムやベースの音は明らかに解像感があがっていちだんと印象的な、グルーヴ感の高い音になっている。また、中域もフォーカス感が高まり、きめ細やかな音がしっかりと伝わってくるようになったおかげで、エレキギターだとエフェクターの種類まで分かりそうなくらい、表現力が増している。

しかしながら、中域における最大のメリットは、やはりヴォーカルだろう。「K702」では淡々とした表現のぶん、モニター的な使い方には向いているのだが、素っ気ないと感じる人もいたはず。だからこそ「Q701」の艶やかな歌声に惚れる人もいたわけだが、「K712 PRO」はダイレクト感が増してくれたおかげで、素直なキャラクターのまま、細やかなディテールが感じられる、距離感の近いサウンドとなってくれた。客観的な歌声の「K702」と、艶やかさや煌びやかさが感じられる「Q701」、そしてダイレクト感が増してより細やかなディテールが感じられるようになった「K712 PRO」と、いずれがベストかは純粋に好みの範疇となるが、「K712 PRO」が一歩抜きんでたクオリティを持ち合わせているのは確かだ。


新世代φ40mmドライバーが生み出す音質的アドバンテージ
「K701シリーズ」の最高峰モデルとも言える高い完成度を持つ


こういった違いや「K712 PRO」ならではの音質的なアドバンテージは、同じ40mm口径ながらも新世代のドライバーユニットを搭載していることが大きいだろう。また、イヤーパッドの変更も、音質に少なからず影響を及ぼしているはず。現在、この3製品は価格的にも立ち位置の差を設けられているが、それが充分に納得できる、音質的なアドバンテージを「K712 PRO」から感じ取ることができた。

そう、「K712 PRO」は「K701シリーズ」の最新モデルであると同時に、シリーズの最高峰に位置するプレミアムモデルでもあるのだ(K812は同じKシリーズではあるが「K701シリーズ」とはまったく別のもの)。価格改定によって大幅にコストパフォーマンスが向上した「Q701」も魅力的だが、「K712 PRO」ならではの一段とグレードアップしたサウンドクオリティには、絶対的な説得力がある。そういった「K712 PRO」ならではの完成度の高さを、大いに歓迎したい。

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