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30年にわたるディスクプレーヤーの歴史の集大成

【レビュー】デノンの新フラグシップSACDプレーヤー「DCD-SX1」を山之内正が聴く

2013/08/22 山之内 正
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■USB-DACによるDSDはまさに生音の再現

次に本機のUSB入力にMacBook Airを接続し、ハイレゾ音源(PCM)を聴いた。ジェーン・モンハイト《ハート・オブ・ザ・マター》は声のイメージにまったくブレがなく、静寂の中からいきなり声が立ち上がる様子がハッとするほど生々しい。モンハイトのボーカルを包み込むように広がるストリングスやギターの響きはタッチが非常になめらかだが、声と同様に豊かな表情をたたえていて、けっして単調にならない。

デジタル入力はUSB、光/同軸デジタルを搭載。メモリー/iPod用のUSB-A端子も背面に用意

192kHz/24bit音源を再生中のディスプレイ

表情の豊かさはウェーバーのクラリネット協奏曲からも聴き取ることができた。独奏楽器とオーケストラいずれも冴え冴えとした抜けの良い音色を引き出しつつ、転調した瞬間の陰影豊かな音色の変化など、ここぞという聴かせどころでは意外なほどコントラスト豊かに表情を切り替えてみせる。表情を克明に引き出す点はディスク再生にも共通していたので、これは本機の長所の一つと言えるだろう。ハイレゾ音源の優れた録音を聴くと、表情の豊かさがいっそう際立つようだ。

本機のUSB入力はPCM信号に加えてDSD信号の伝送にも対応しており、2.8MHzと5.6MHz両方のDSDデータを再生することができる。ゲルギエフ&ロンドン響のマーラーは残響が広がる空間に制約が感じられず、パースペクティブの深さと広さを実感、低弦とティンパニの立ち上がりに強いエネルギーが乗り、深々とした低音を引き出すことにも感心した。残響は短めだが、余韻が広がる空間はとても大きく感じる。

2.8MHz DSD再生時の表示(左)と5.6MHz DSD再生時の表示(右)

5.6MHzの音源はプエンテ・セレステの《NAMA》を聴いた。アコースティック楽器の柔らかい音色は文字通り生音の感触に近く、強調感や誇張が一切感じられない。輪郭や立ち上がりを故意に強めると聴き栄えの良い音に聴こえるかもしれないが、本物の音はアタックの音速で生々しさを実感するものだ。本機の音はその違いをしっかり伝えており、ライヴ演奏から伝わる音楽の本質をしっかり再現する力をそなえている。

■圧倒的にナチュラルな描写力を持つフラグシップにふさわしいモデル

これまで発売されたデノンのフラグシッププレーヤーをすべて聴いているが、本機の音からは、そのどれとも異なる自然な描写力を実感することができた。クロック精度を極限まで高めると、ディスク再生とハイレゾ音源の音調が互いに近付くという事実も、今回の試聴の大きな成果の一つである。

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