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山之内 正がクラシックを中心に試聴

ゼンハイザー「IE 800」レビュー − 音楽を生き生き鳴らす最上位イヤホン

2013/07/05 山之内 正
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■粒立ち感と柔らかさを両立したサウンド

もう一度DACをFireface UCXに戻し、ジェーン・モンハイトの最新作『ハート・オブ・ザ・マター』をやはりハイレゾ音源で聴いた。モンハイトの声はどの音域にもくせがなく、スローテンポでじっくり歌い込むうまさ、表情の起伏の大きさがストレートに伝わってきた。IE 800はダイナミック型ドライバとしては異例といえるほどスピード感と解像度の高さが際立っているが、このアルバムのような潤いと温かみのあるサウンドとも意外なほど相性がいい。粒立ち感と柔らかさは特にイヤホンではなかなか両立しにくい要素なのだが、IE 800はその相反する2つの志向の間のバランスが絶妙だ。

高級感溢れるケースも付属する

ケースを開けるとメタルプレートが現れ、シリアルナンバーが刻印されている

ボーカルを支えるアコースティック楽器群は控えめだが浸透力のある音色が美しく、特に潤い豊かなチェロはモンハイトの歌と同じように表情豊かに歌う。『Sing』のギターとパーカッションが刻むリズムは一つひとつの音の粒子感が細かく、アタックが澄み切っている。倍音の音域まで歪みを抑えると同時にボディの共振を巧みに抑えているのだろう。

最後にIE 800本来の使用スタイルであるアウトドア用途を想定し、PHA-1にiPhoneをつないで聴いてみた。低音の量感はMacBookAirでの再生時に比べると一段階控えめになるが、自然な音域バランスと粒立ちの鮮明感を確保し、細部の情報量にも不満は感じない。チャイコフスキーのピアノ協奏曲第3楽章終結部のピアノ独奏は低音の和音に十分な重さと厚みがあり、力感や推進力の強さはダイナミック型ドライバならではのものだ。第2楽章カデンツァの和音がくもらず、純度が高い響きを聴かせる点にも感心する。いい意味でのモニターライクな正確さと忠実な音色はクラシックファンの多くが歓迎するに違いない。

ボーカルは中高音域で声量を上げるフレーズでも音像と音色がむやみに広がらず、引き締まった感触を引き出してきた。これは筐体の共鳴を的確に抑えたことの成果だろう。IE 800はカナル型のなかでも十分な遮音性を確保しているが、周囲の騒音レベルが高い状態では音量が大きめになることもある。そんなときにも声や旋律楽器がにじまず、ベースのピチカートがふくらまないのは本機の大きな利点の一つだ。

今回はハイレゾ音源を中心にじっくり聴き込むことで、IE 800にそなわるポテンシャルの高さを聴き取ることができた。特にクラシックではバランスの良さと忠実な音色再現は絶対に譲れないポイントなのだが、本機はまさにその点で特筆すべき性能を持っている。

(山之内 正)

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