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いずれの従来モデルとも異なる音調の最上位機

ヤマハ AVアンプのプレミアムライン“AVENTAGE”「RX-A3020」を大橋伸太郎が徹底レビュー

公開日 2012/08/29 14:33 大橋伸太郎
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昨年登場したヤマハAVアンプのプレミアムライン“AVENTAGE(アベンタージュ)”シリーズが、今秋第二世代に進化する。今回は最上位モデル「RX-A3020」の試聴レポートをお届けしよう。

RX-A3020(ブラック)

RX-A3020(ゴールド)

まずはA3020の内容をさっと紹介しておこう。基本構成や定格出力(200W/ch)、実用最大出力(230W/ch)などの仕様は従来モデル「RX-A3010」と同じだが、本機では改めて内部配線を見直し、デジタル電源基板の部品等を変更している。目立つのは、ヤマハのフラグシップ Zシリーズに搭載した「DACオンピュアグラウンド(D.O.P.G.)」設計を採用した点。DACのグラウンドをアナログオーディオ基板に落とすことでS/Nを向上させている。

RX-A3020の背面端子部。インターフェースなどの外観は従来モデルから大きな変更点はない

しかし内部は改めて配線を見直し、デジタル電源基板の部品等を変更。細かいブラッシュアップを図っている

一方、機能面では新提案が目白押し。もっとも注目されるのが「ハイレゾリューション・ミュージックエンハンサー」機能だ。これは、44.1/48kHzの非圧縮ステレオ音源(PCM、FLAC、WAV)を、アンプのデジタル回路内で88.2/96kHzにアップサンプリングしてハイレゾ処理するもの。

音場補正機能「YPAO」には、積極的に部屋の一次反射を抑え込むよう改良された「YPAO R.S.C.(Reflected Sound Control)」が搭載された。ピーク&ディップが減り、F特上の暴れの少ない補正パターンを得られるという三角形状の新マイクを付属している。また、音場関係では「VPS+ダイヤログリフト」と「ダイヤログレベル(エンハンス)」の採用も注目ポイントだ。

三角形状の新マイク

なお、「ハイレゾリューション・ミュージックエンハンサー」や、「VPS+ダイヤログリフト」「ダイヤログレベル(エンハンス)」については、既に公開している下位モデル2機種RX-A2020/1020のレビューの中でその効果をレポートしているので、ぜひそちらをご参照頂きたい。

ちなみに最上位モデルであるA3020だけの特徴として、本機のシネマDSPはフラグシップZ氏シリーズと同じ「シネマDSP HD3」を搭載している。さらにHDMIがZONE2出力に対応している点も、下位モデル2機種には無いポイントだ。

最上位モデルである本機のみ、HDMI ZONE2出力に対応する

映像関係では、内部にHQV VMD1900を採用。4Kアップスケール&パススルー機能も搭載する。このほかに、下位2機種と同じくAirPlayにも対応した。

■ヤマハが展開してきたいずれの従来モデルとも異なる、RX-A3020の音調

A3020を試聴しての結論を先に述べると、Zシリーズとも従来のヤマハ中級機種とも“別物の音調”がそこにあった。

最初に聴いたのは、田部京子(pf)のSACD『ブラームス後期ピアノ小品集』。重厚な中低域に支えられた高域の息づくような自然な表情に引き込まれた。深い奥行きの音場に、ピアノの音像が深い彫りでくっきり描写される。グランドピアノの筐体の立体感も見事だ。従来のZシリーズでは、同じ演奏でも倍音成分を強調し、ヤマハのイメージ通り高域に「輝きをまぶした」ブリリアントなサウンドを聴かせていた。開発担当者によれば、Zシリーズはリッチなニュアンスを付け加えたりある種の音質調整を行うが、A3020はあくまで素材の持ち味を引き出すソリッドで実直な高音質を狙ったという。

次にBDのサラウンドを聴いてみよう。最初はミラノスカラ座の舞台を収録したヴェルディ『マクベス』。すでに何度も聴き返したこのディスクをA3020で聴いて痛切に味わったのは<もどかしさ>だった。これはA3020の音質のことではない。本ディスクのサラウンド音声はDTS-HD Master Audio 5.1chだが、サンプルレートは48kHz/24bitに止まる。マクベス夫人役リュドミラ・モナスティルスカの声の肉付きや倍音の響きがどこか痩せていて、ホールトーンを伴った空間表現も物足りないのだ。「ロスレスの48kではもう満足しない」。A3020の解像力によって、私の耳にそういった感覚が印象付いたのである。

続いて、注目のドルビーTrueHDアドバンスド96kHz/24bitを採用した『サンフランシスコ交響楽団百周年記念コンサート』から、ジョン・アダムスの現代曲「ショート・ライド・オン・ア・ファストマシン」を聴いた。さすがにパーカッションの音の立ち上がりと収束が実に鋭敏で、音ににじみや揺れがない。空気に突き刺さる金管の鮮鋭感も申し分がない。背景のS/Nも非常に高く、楽器セクションの定位が立体的に描写される。SFのシンフォニーホールの独特の形状(鰐の頭部のような形)から生まれる、深く高々としたステージ残響も現実感たっぷりに再現している。

最後に映画BDはどうか。スティーヴン・スピルバーグの2011年作品『戦火の馬』は、DTS-HD Master Audio7.1ch作品。この日はフロントプレゼンスを使用して「シネマDSP HD3(9.1ch構成)」で再生した。ここでは、本機のアンプとしての基礎体力を強烈に印象付けられた。

映画の山場の一つ、第一次大戦仏戦線の塹壕戦のシーンでは、戦場の移動描写に“あいまいさ”が皆無で舌を巻く。兵士たちの頭上を砲弾は高々と行きかい、前後左右斜めの音源移動がカメラの動きから推察されるオフシーンの事象と精密に一致する。着弾音の轟きとその後の衝撃波の広がりが試聴室の天井を波のように伝わって恐ろしくリアルだ。

デコードIC(バーブラウンDSD1796×4、1791×2)の演算精度の高さ以前に、アンプ電源部の瞬間供給能力が高く、チャンネル間のクロストーク、Dレンジの鈍りがないためにこの表現が引き出されるのだろう。

RX-A3020を上から見たところ

フラグシップZシリーズは、再現性の高さと同時に音楽を美麗かつ肉感的に響かせるという、他機にない唯美的な個性があった。映画の何気ない背景音楽がミュージカル音楽のように躍動的に聴こえる瞬間さえあった。RX-A3020はそれとは違う道を選んだ。いたって直截で客観的、澄明で飾り気のないニュートラルサウンドである。ヤマハの開発担当者によれば「A3020が狙ったのは<素顔の美>」だという。この選択は成功したといえるだろう。AVENTAGE(表現者)の名に相応しい厳しさを併せ持った清新な音がここにある。ヤマハが本機RX-A3020でAVアンプの新境地に踏み出したことを感じた。


<大橋伸太郎 プロフィール>
1956 年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして講演多数。2006年に評論家に転身。

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