未来を見越した新しいトランスポート&DACシステムが登場

PS AUDIOが提唱する新世代のオーディオ再生

山之内正
2010年05月26日

【PSオーディオが提唱する再生方式】
■CDのデータを一旦メモリに保存 - DDCを経由してDACに伝送


ハイエンドオーディオを中心にメカニズムレスのデジタルストリーミング再生が大きな話題になっている。リンのDSを導入してすでに実践している読者なら、音質と使い勝手の両面で様々なメリットを実感しているに違いない。

ストリーミング再生の長所はわかるが、ディスクが手元にないのは寂しいという人もいるかもしれない。PSオーディオのPWT/PWDは、そんなディスク派をも納得させるトランスポート&DACシステムとして開発された。


外見上は従来のトランスポート&DACと変わらないのだが、デジタルデータの送り出しと伝送方法には大きな特徴がある。トランスポートのPWTはCD用ではなくDVD-ROMドライブを搭載し、読み込んだデータを64MBのバッファメモリに保存、内蔵するDDコンバーター「デジタルレンズ」で同期クロックを供給してDACに伝送するというのが基本動作だ。ドライブの動作はPCでリッピングを行う場合と同様で、データ読み出し時、訂正不可能なデータがあった場合は補間ではなく再読み込みを行う。リッピング機能はPS Audioが開発をしたEAC(ExactAudioCopy)と同等のオリジナルソフトを内蔵している。

Perfect Wave Transport(PWT)

Perfect Wave DAC(PWD)

【トランスポート-DAC間の接続】
■データとクロックを独立伝送 - HDMIケーブルが利用できる


クロックを付け替えているのでDACへの伝送に既存のSPDIFを利用した場合も低ジッター伝送が期待できるが、PEDとの組み合わせに対し、PSオーディオは独自の伝送システムを搭載することによって完璧を期している。ジッターレス伝送を実現するI2S(InterIC Sound)接続がそれだ。

「PWT」のリア部。デジタル出力はI2S、TOS、コアキシャルS/PDIF、バランスAES/EBUを各1系統装備

I2S接続では、データとクロック信号3種類を統合して伝送するSPDIFとは異なり、データとクロックをすべて独立して伝送するため、ジッターを排除することができる。接続に4本の配線が必要になるのを避けるため、HDMIケーブルを利用している点がPSオーディオのユニークな点で、PWDは2系統のI2S入力を搭載している。

■WAV形式の高音質ファイルがパソコンを使わずに再生可能

I2S接続は192kHz/32bitまでの信号をサポートするが、そこにも大きな理由がある。DVD-ROMドライブを搭載するPWTはDVD-Rの再生にも対応しているため、176.4kHz/24bitの「HRx」(ReferenceRecordings)など、高音質WAVデータを楽しむことができるのだ。

パソコンを使わずにWAV形式の高音質音楽ファイルを再生できる機種は事実上他に例がなく、貴重な存在といえる。なお、ファームウェアのアップデートによって対応フォーマットはさらに広がる予定だ。

【アップグレード情報】
■NASなどの音楽データもLAN経由で再生できる予定


PWDはさらに大きなアップグレードが予告されている。背面の専用スロットに「PS Audio Network Bridge」を組み込むことにより、NASなどの音楽サーバーのデータをLAN経由で再生できるようになるのだ。対応フォーマットはWAVのほかFLAC、MP3、AIFF、WMAなどを予定している。リンのDSと同様、DLNA規格に準拠するので、同規格共通の操作系が利用できるはずだ。なお、DLNA規格については、アップル製のデバイスでの操作を予定しており、有料か無料かはまだ不明だが、最終的にアプリケーションはアップルストアにてダウンロードできるように開発しているという。

「PWD」のリア部。デジタル入力はI2Sが2系統の他、TOS、コアキシャルS/PDIF×、バランスAES/EBU、それから96kHz24ビットが受けられるUSB入力も1系統装備

ネットワーク機能の一部は現時点でも利用可能だ。PWTをネットに接続した状態でCDを読み込むと、専用サーバーに自動的に接続し、曲情報とジャケット画像を取得する機能が利用できる。PWDもそうだが、タッチ式カラー液晶パネルは基本操作と様々な情報表示の両方に対応している(液晶は消灯可能)。

「PWD」には録音されたソースに合わせた5つのフィルターを装備(自動選択するAutoモードもあり)。一般のフィルターで問題とされた位相の反転やプリエコー問題にも対応

【「PWT」+「PWD」の音質を探る】
■インターネットにつなぐだけで曲情報とジャケット画像も出る


先進的機能の紹介はこのぐらいにして、音を聴いてみることにしよう。CDは再生直前に一瞬ドライブが高速回転するが、すぐに無音になり、再生が始まる。この時点で実際にはメモリーから読み出した音を聴いているのだが、操作は通常のCDプレーヤーとなんら変わらない。インターネットにつながっていれば、曲情報とジャケットの画像がすぐに操作部に表示される。

イーサネットに接続することで、ディスク情報やジャケットカバーの表示も可能

再生音は広がりのある音場感と低重心の安定したバランスに特徴がある。最初の数フレーズで気付くのは、遠近感の描写が緻密で各楽器の音像ににじみがなく、楽器間、パート間のセパレーションが優れていることだ。空間情報の再現力が高いことはジッターレス伝送に共通する特徴だが、本機のI2S接続もそこに大きなメリットを実感した。オーケストラのサウンドステージが深々としているだけでなく、ピアノとソプラノのような小編成の曲では歌手の微妙な動きが聴き取れるほど前後感をきめ細かく再現する。

■マスターでしか再現できない奥の深い表現が聴き取れる

PWDはアップサンプリング機能を内蔵するが、I2S接続の場合はサンプリングレートコンバーターをパスする「ネイティブモード」の音が一番良い。PSオーディオが推奨する通り、PWTとPWDを組み合わせ、ジッターレス伝送を利用することで本来の実力を引き出すことができる。

PCに取り込んである96kHz24ビットのデータもUSB伝送にて再生してみた。DAコンバーター「PWD」はディスクリート出力段とボリュームコントロールを備えているので、試聴時はプリアンプ無しで、パワーアンプに直結した

なお、メモリーの内容を読み出しているので当然だが、再生中にディスクを取り出しても数分間は演奏が途切れることがない。そこで同じCDを読み込ませれば演奏は途切れなく続く。不思議だが理屈には合っている。

HRxのDVD-RもCDと同様に再生可能だ。ラフマニノフの舞曲は深さに加えてプレゼンスが上方に浮かび、驚くほどの立体感を引き出す。HQMのWAVデータを焼いたDVD-Rも同様に再生が可能で、『驚異のデュオ』のなめらかな音色と躍動感、独奏チェロ(コダーイ)の実在感あふれる演奏など、マスター音源でなければ引き出せない奥の深い表現を聴き取ることができた。

リンのDS以外のデジタルプレーヤーからここまで透明感の高いサウンドが聴けたのは本機が初めてだ。「ネットワークブリッジ」導入後、PWDで実現するメカレス再生の音もぜひ聴いてみたくなった。

両機の操作は本体部でのタッチパネルか、リモコンでの操作が可能

(著者プロフィール)
神奈川県横浜市出身。東京都立大学理学部卒。在学時は原子物理学を専攻する。出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、東京フィルハーモニー交響楽団の吉川英幸氏に師事。現在も市民オーケストラ「八雲オーケストラ」(http://home.catv.ne.jp/pp/yakumo-o/)に所属し、定期演奏会も開催する。また年に数回、オペラ鑑賞のためドイツ、オーストリアへ渡航。趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。

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