「HD DVDは終わった」のか − 東芝DM社藤井社長 単独インタビュー【前編】

2007年07月20日
東芝から普及価格帯のHD DVDレコーダー“VARDIA(ヴァルディア)”「RD-A600」「RD-A300」が発売された。これまで、HD DVD陣営の録画機は、2006年7月に発売された“超”高級機の「RD-A1」しか選択肢がなく、ライバルであるBlu-ray Disc陣営のソニー、パナソニック、シャープが製品を次々と市場に送り出すのと比べ、活気が感じられなかった。しかし、待望された普及機が今回投入されたことでHD DVD陣営の本格的な巻き返しが期待される。

選択肢が増えることは歓迎すべきだが、我々ユーザーはHD DVDとBlu-ray Discの両規格をどのように選び分ければいいのか、深刻な疑問を抱えることになる。しかしメディアの容量や一般的な市場での価格を比べると、現時点ではHD DVDが不利であり、一部の録画マニアからは「HD DVDは終わった」とのネガティブな声もささやかれるようになった。果たして、実際のところはどうなのか?筆者は今後のHD DVDの動きを探るべく、(株)東芝 執行役上席常務 デジタルメディアネットワーク社 社長の藤井美英氏に単独インタビューを行った。

(インタビュー/鈴木桂水)


(株)東芝 執行役上席常務 デジタルメディアネットワーク社 社長 藤井美英氏
発売後「RD-A600/A300」の売れ行きも順調ということもあってか、藤井氏の晴れやかな表情が印象的だった。これは今回、かなり実のある話が伺えそうだと筆者は直感した。そして今回の前・後半にまたがるインタビューの中で、筆者は幾つかの注目すべき発言を藤井氏からうかがうことができたのだ。

まずは本題に入る前にHD DVDのメリットをおさらいしておこう。以下、東芝が主張するHD DVDのメリットをまとめ、筆者が中立の立場で解説をした。このあとのインタビューを深く理解するためにも大切な部分となるので、予備知識を仕入れるためにもぜひご一読いただきたい。

【1】過去に録画したDVDから音声・映像ともに無劣化でHD DVDに高速ダビングできる(HDD経由、コピーフリーの番組のみ)。その逆(HD DVDからDVDへの高速ダビング)も可能。(現在のBDでは実時間がかかる機種もある)
【解説】DVDに保存したコピーフリーの映像を、HDDにダビングし、さらにHD DVDに無劣化でダビングできることを指している。BDの場合は機種によってダビングに実時間が必要。

【2】HD DVDはメディアの生産ラインが既存のDVDと共通化できる。これにより既存のDVDメーカーが参入するにあたり、設備投資費を抑えられるので参入リスクが低く随時生産を切替えられるので製造効率が高い。

【3】市販ソフトや録画用ディスクを発売する場合でも、BDよりも安価で製造できるので利益率が高い。
【解説】HD DVDがDVDの生産ラインを利用できるメリットの一つ。ただし「BDとHD DVDの生産数が同程度なら」という注釈が必要だろう。

【4】市販ソフトの機能「HDi」によるアドバンスト機能はインターネット上で利用されている標準規格を組み合わせているため、ネットワークとの親和性が高い。BD陣営が採用する同様の機能BD-Javaと比較したした場合、オーサリングの難易度が低く、テンプレート化やネット拡張もしやすいというメリットもある。
【解説】HDiのアドバンスト機能とは、HD DVDビデオに収録されるインターネットを使ったインタラクティブ機能。たとえば、バンダイビジュアルのHD DVDビデオ『FREEDOM』(作品情報)はHD DVDプレーヤーを介してインターネットに接続することで新しい動画の追加ダウンロードや、あらかじめ記録されている“隠れ”動画の再生が可能になる。東芝はHD DVDが採用する方式だと、これらの仕組みを作るプログラムが、従来のインターネット用のプログラムを応用して、簡単につくることができる点がメリットだとアピールしている。

【5】HD DVDタイトルは、PinPやネット機能などが充実しており、既存DVDと貼り合わせた「Combination Disc(片面2層DVDと片面2層 HD DVD)」や「Twin Format Disc」の作成が可能。
【解説】PinPとはピクチャー・イン・ピクチャー機能のこと。特典映像のオーディオコメンタリーを映像付きのビデオコメンタリーとして表示できる。Combination Disc(コンビネーションディスク)は片面がHD DVDで、もう片面がDVDという変則ディスクのこと。1枚でDVDとHD DVDとして使えるので海外では人気がある。しかし国内版はレーベルを印刷できないことから発売されていない。

【6】信号を記録する部分が表面から0.6mmの深さにあるので振動に強くモバイルに適している。
【解説】HD DVDとBDの規格統一を阻んだのが、この記録面仕様の違い。HD DVDは表面からDVDと同じく0.6mmの部分に記録面がある。そのため複数のディスクを貼り合わせることで作成し、キズにも強い。一方BDは記録密度を高めるために、表面から0.1mmの場所に記録面がある。


はじめにHD DVDのメリットをおさらいしたところで、筆者は改めて藤井氏にHD DVDの魅力とは何か問いかけてみた。


藤井氏:私は特定の記録メディアに対しての思い入れは持っていないんです。まずは「コンテンツありき」だと考えています。映画や音楽などのコンテンツを安価で、美しく、手軽に利用できるようになるのであれば、どんなメディアに入っていても良いと考えているからです。映像の流通や家庭での録画文化は、VHSビデオに始まり、DVDへ引き継がれてきました。DVDは価格面や普及率を考えれば、今後50年間は使われ続けるメディアだと考えています。私自身は特にDVDにこだわりは持っていません。ただSD画質(従来のアナログ放送画質)のコンテンツを扱うには現在、DVDが最も適しているメディアだと思っています。これ程までに普及していのですから、まずはDVD規格が映像記録の基本であるのは当然です。しかしながら、今後映像の流通や放送がフルHD画質(デジタル放送のハイビジョン画質)になるとDVDの容量では追いつきません。そこでDVDの使い勝手を継承しながら、大容量記録が利用できるHD DVD規格が必要になるわけです。


デジタルコンテンツのダビング(ムーブ)についてのイメージ図 <資料提供(株)東芝>
▲録画したデジタル放送をHD DVD、BDに保存した場合と、DVDメディアに保存した場合の違いを図にした。HD DVDはDVDの上位規格なので、TS画質(メーカーによってはDRと表記。デジタル放送をそのままで記録した画質)とVR画質(アナログ画質)の混在が可能。BDは再変換が発生し、メーカーにより変換条件に違いが出る。<資料提供(株)東芝>


DVDとの相互互換についてのイメージ図 <資料提供(株)東芝>
▲HD DVDはVRモードで録画したコピーフリー(地上アナログ放送)の動画を、無劣化高速ダビングでHDDを経由しHD DVDに記録できる。これはHD DVDがDVDの上位規格であるゆえに可能となっている。一方のBDはメーカーごとにVRモードの扱いが変わってきており、規格として操作性に一貫性がないとしている。<資料提供(株)東芝>

━━容量という意味ではライバルのBlu-ray Disc規格の方が有利なのではないでしょうか。

藤井氏:それは違います。コンテンツを記録するメディアをHD DVD、もしくはBDという光メディアだけに限ろうとするから、将来が見えづらくなるのだと思います。現在、大容量の映像を記録する手段はまずHDDがあり、そしてHD DVD、BDなどの光メディアがあります。そして、最近では大容量、低価格化が進んだフラッシュメモリーもその候補になっています。この3種類のメディアに対して、最適な録画をすれば良いのではないでしょうか。HDD&DVDレコーダーを使っている方は、まずHDDにテレビ番組を録画して、視聴後は消してしまう使い方がほとんどではないでしょうか。そして必要な番組だけを光メディアに保存するという用途です。

HD DVDは必要な番組だけを保存するのに適した容量を備えつつ、低価格で製造できる容量を片面1層15GB、2層30GBとして考え、スタートしました。BDはHDDの役目も光ディスクが担うように考えられているので、容量を優先するあまり、製造が困難な方式を選んだのです。皆さんは「大容量」と繰り返しおっしゃいますが、HDDと併用して使えば、HD DVDの容量で十分なんです。なにも無理をしてまで、高価で量産ができない50GBのメディアを作る必要はありません。また個人的には追記型のHD DVD-Rが今後もっと安くなれば、家電レコーダーにおける書き換え型メディアの重要性は薄れると思います。記録型DVDメディアの売れ行きを見ても、書き換え型(DVD-RW、DVD-RAM)よりも価格の安い追記型(DVD-R)の方が売れていると思います。光メディアで書き換えを訴求するよりも、HDDもしくはフラッシュメモリーの活用を提案した方が良いのではないかと考えます。



藤井氏の考えには一貫性があると感じた。そのキーになる製品が同社のHDD搭載液晶テレビREGZAシリーズの存在だ。少しHD DVDの話から脱線するが、筆者は東芝に限らず、録画機戦略を左右するのは録画機能付きテレビだと考えているので、敢えてここで説明しておきたい。

多くの人は録画した番組を見たら消して楽しんでいるはずだ。ユーザースタイルにもよるだろうが、筆者の場合は地上波放送を週に50時間程度録画しているが、そのうち約70パーセントは視聴後すぐに消去している。保存しないのなら操作しやすいテレビ側のHDDで録画すれば十分だ。なお、録画機能付きテレビでの、デジタル録画の便利さ、快適さについては筆者の連載「ケースイの次世代AV NAVI」の記事に詳しくまとめてあるので、興味のある方は参照していただきたい。

筆者はこれからはテレビで録画して必要な番組はレコーダーにムーブし、光ディスクに保存する方法が最も理想的だと考えている。ゆえに藤井氏の「録画には、まずHDDありき」という思想に共感できる。事実、録画機能付テレビと次世代規格のレコーダーの両方を発売しているのは現在東芝のみだ。ただし問題もある。現時点では録画機能付きのテレビのREGZAとHD DVDレコーダーのVARDIA間で、コンテンツのダビング(ムーブ)が行えない。まさに画竜点睛を欠いた状態だ。これについて筆者が藤井氏に質問したところ、「今後の課題であると認識している。ちゃんと開発を進めているので期待に応えられると思う」とのコメントをいただいた。それが年末になるか、来年になるかは未定だが、ユーザーの期待が1日も早く実現することを願いたい。


52H3000
▲REGZA H3000シリーズは本体内に300GBのHDDを内蔵し、テレビの番組表だけで録画できる快適な操作感も魅力だ。

デジタル放送をテレビ、またはレコーダーを駆使して録画を行う中で感じるのは、ハイビジョン時代の録画では、まずHDDの容量が足りないという点だ。今後はより大容量
のHDD搭載機が必要だろう。経験から言えば1TBあればかなり快適に録画できるはずだ。

そうなると必然的に光メディアへの記録が重要になる。筆者はBDレコーダーを使っており、HD DVDレコーダーも使ったことがある。BDは片面1層25GBのメディアで地上デジタル放送のハイビジョン番組を3時間録画できる。しかし以前使ったことがあるHD DVDレコーダーのRD-A1では片面1層15GBのHD DVDメディアで1時間55分しか録画できず、物足りなさを感じた。このHD DVDへの録画時間は、新型のRD-A600/A300から改善されデータ放送を省くことで、約2時間15分まで録画できるようになった。これで容量の不満はすこし解消された感がある。

光メディアに次に期待するのは低価格化だ。現在、秋葉原の激安ショップでは25GBのBDメディアと15GBのHD DVDともに1000円を切る価格で売られている。容量を考えればもう少しHD DVDメディアに価格を頑張って欲しいところだ。HD DVDメディアの容量と価格について藤井氏はどのように考えていうのか率直に伺ってみた。

━HD DVDとBDを比べるとやはり容量に物足りなさを感じます。将来容量が増えることはあるのでしょうか。

藤井氏:大いに有り得ます。HD DVDは多層化しやすいので、30GB以上のディスク容量を規格化するのは容易です。もし規格が変わってもHD DVDはDVDからの資産をすべて繰り上げられるように開発されるので、いままで録画してきた映像を将来の規格へ移行できます。これがDVDの上位規格であるメリットなんです。


【RD-A600を使ったHD DVD-Rへの録画テスト】

RD-A600
▲「RD-A600/A300」からはデジタル放送の録画時に、データ放送を記録しない仕様になった。そのため、HD DVD-Rへの録画時間が向上している。RD-A600を使って録画時間をテストしたので、ご報告しよう。

片面1層HD DVD-R(15GB)メディアに録画可能な時間量
地上デジタル放送 135分
BSハイビジョン放送 90分


━━HD DVDはDVDと共通の生産ラインで製造できるので低価格を実現できるということでしたが、実際は15GBのHD DVDが、BDの25GBとほぼ同じ価格になっています。また市販タイトルも同様です。これではHD DVDのメリットが活かせないのではないでしょうか。


藤井氏:これについては東芝が積極的に何かを提案することは難しいと考えています。ソフトメーカー、メディアメーカーの皆さんに期待するしかありません。ただ録画用のメディアに関して言えば、ようやく普及価格のハード「RD-A600/A300」が登場したので、メディアの需要が高まれば価格はそれに伴って下がるものと思います。市販ソフトについては価格での差は付けづらいのかもしれません。その分、「HDi」によるアドバンスト機能などの特典で差が付いてくると思います。インターネットと共存しやすいのもHD DVDの特徴です。

━━インターネットとの関連性でHD DVDの特徴とは、具体的にはどのようなところでしょうか。

藤井氏:メディアが次世代に移行するということは、画質や音質が向上するだけではないんです。DVDビデオの時のように、ソフトを買ってきて再生して終わり、というのではつまらないと思います。そのためにHD DVDにはインターネットを利用したHDiのアドバンスト機能が備わっています。この機能を使えばソフトを購入したあとも、インターネットを通じて続編の情報や資料などをネットからダウンロードして楽しめます。HD DVDは買ったあとも楽しめるのが特徴です。それだけでなく、今後この機能を使っての市場調査や広告、販売などにも利用できます。高画質・高音質だけでなく、新たな利用シーンを提案できるのもHD DVDの特徴です。


ここまでがインタビューの前半戦となる。途中規格の説明を織り交ぜたので、今回のレポートの核心部分についてはまだ触れていないが、後半では今後HD DVDがどうなるのか、さらに藤井氏の“あの発言”についての真相など、盛りだくさんでお送りする予定だ。ぜひご期待いただきたい。


鈴木桂水(Keisui Suzuki)

元産業用ロボットメーカーの開発、設計担当を経て、現在はAV機器とパソコン周辺機器を主に扱うフリーライター。テレビ番組表を日夜分析している自称「テレビ番組表アナリスト」でもある。ユーザーの視点と元エンジニアの直感を頼りに、日経BP社デジタルARENAにて「使って元取れ! ケースイのAV機器<極限>酷使生活」、徳間書店「GoodsPress」など、AV機器を使いこなすコラムを執筆中。
>>鈴木桂水氏のブログはこちら

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