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<大橋伸太郎のCEATECレポート>薄型テレビはネクストステップへ − “1080pのその次”が見えた

2006/10/04
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「CEATEC JAPAN 2006」が今年も千葉県幕張メッセで3日より開催されている(7日まで)。国内全社が固定画素方式の薄型テレビに1080pをラインナップするようになり、次世代ディスク両方式が出揃った今年は例年以上に商品の充実がめざましいが、技術展示会としての性格を併せ持つCEATECの2006年は、「1080pの次にテレビジョンが目指すべき画質」についての各社の方向付けと技術的アプローチが一斉に姿を現し興味深い。新たな開発競争と技術のドラマが始まったのである。製品レベルのレポートは編集部に任せ、「薄型テレビ普及競争のその次の光景」について望見してみよう。

[パイオニア]


パイオニアの超高精細PDP。スーパーハイビジョンに向けた取り組みの一つだ
テレビ各社の展示中もっとも力強い印象を与えたのはパイオニアであった。出品の一つ「超高精細PDP」は、18インチ(表示面積414mm×194mm)のサイズに、水平0.36mm×垂直0.36mmの画素ピッチで1150×540個の発光セルを敷き詰めた。現行のPDP-507HXに比較して1セルの面積は実に20%だという。これを65インチに換算すると4K/2Kの画素数となる。いうまでもなく家庭用スーパーハイビジョンを視野に置いた技術で、パイオニアとしては4K/2Kを50インチで実現するのが課題だという。ブラウン管の局用マスターモニターを思わせる肌理の細かいなめらかな画質である。発色も従来のPDPと別物である。

「製品化はいつ頃になりそうか」という筆者の質問に対して、「研究所レベルでは目途はついているが、生産化についてはこれからです」という回答である。

Phile-webのニュースでも報じられたが、ブース内の暗室では、コントラスト20000:1の65型ハイビジョンPDPが動画デモを行った。輝度を上げていくのでなく黒の表現限界を画期的に引き上げて到達した数値である。昨年から製品に使われている高純度クリスタル層を練成し、深々と沈み込む黒の表現が可能になった。ただし、今回のデモはナイトシーンやダークな映像中心の効果を狙ったソフトによるもので、さまざまな傾向のソフトでその真価にあらためて触れてみたいと思った。

コントラスト20000対1のPDP(左)。右は比較用に用意された1000対1のもの

[シャープ]

「工場もテレビの性能です」。エレクトロニクスショーからCEATECまで通じて「工場」を展示出品したのは前代未聞である。シャープブースの一角の技術展示で来場者が一様に脚を止めたのは4K/2K液晶だ。64V型というサイズは画素ルールから決まったものなのだろう。「世界最大デジタルシネマ対応」を標榜する4,096×2,160ドットの液晶ディスプレイである。一方、コントラスト比100万対1の世界初「フルバイビジョン・メガコントラスト液晶」は、65V型を出品した。開発・試作はもちろん「亀山第二工場」である。既発表の37V型と共に業務用途を考慮中という。

4,096×2,160ドットの液晶ディスプレイ。サイズは64V型

コントラスト比100万対1の65V型メガコントラスト液晶

[日立製作所]

本日の日経誌でも報じられているが、日立製作所は、2枚の画像から1枚の高精細映像を作る「超高解像度技術」を応用し、地上デジタル放送の映像を高精細化して50型超のテレビに表示する技術を公開した。連続して送られる画像を被写体の位置が合うように重ねる新たな画像を作成し解像度を二倍にする。2011年のデジタルへの完全移行を視野に、処理用のLSIを開発し実用化しようという考えだ。モノスコチャートを動画表示するなどして表示性能をデモしていたが、その克明感は強い印象を残した。日立は傘下にFHPを持ち、ALIS方式のPDPを現在生産している。アドレスがプログレ表示のeALIS方式で42〜60型の1080ALISを今回出品したが、その次に来るビジョンがここにある。

日立の超高解像度技術。2枚の画像を重ね合わせて高精細化を行う

超高解像度技術の原理

[日本ビクター]

日本ビクターは世界最大の110V型プロジェクションテレビ試作機を展示した。「ハイブリッド」と命名されているのでD-ILAに補完技術を組み合わせたのかと思い訊ねると、「プラズマや液晶などディスプレイ技術の優れた面を併せ持つ」という意味のハイブリッドだった。消費電力をリアルタイム表示するなど、単なるショーピースでなく、ILAの信頼と浸透を生かしてシステム商品化に意欲を見せた。

110V型のプロジェクションテレビ

「スリムファンクション光学エンジン」を採用した58V型リアプロ。写真のように壁掛けも可能

奥行き27cmで壁掛けできる58型プロジェクションテレビ試作機は、さる9月28日に先行して発表会が催された「スリムファンクション光学エンジン」を使用したもの。凹面ミラーを加えることでプロジェクションテレビの反射光路を改善し、セットの奥行きを小さくした。詳細はPhile-webニュースを参照していただきたい。会場では写真のように壁掛け設置をデモした。

[SED]


SEDは55V型のフルHD試作機を展示した
東芝から新たにSEDincを立ち上げ、SED特設ブース、東芝ブース合わせて合計4台の55インチ試作機を出品した。昨年の試作機はW-XGAの36型だったのに対し、今回の出品はフルハイビジョン1,920×1,080画素で450cd/m2、暗所コントラスト50000:1、動画応答性能1m/secを実現している。SEDは2007年7月のパネル生産開始を予定しており(セット発売はその先)、展示品は商業生産用ラインで製作されたものという。ただし、映像回路はSED用でなく他からの転用で、専用の回路は現在チューニング中という。55型というサイズの選択は、いわばマーケティングと技術のクロスポイントにあったのがこのパネルサイズであったということだろう。エンドユーザーの誰が見ても画質の差が分かり、かつ昨年の36型のW-XGA試作パネルの画素をフルHDに拡大していくと55インチになる。またハイビジョンの適視サイズである53.5インチにニアリイコールでもある。詳しい紹介は、Phile-webの別のレポートに譲る。

特設ブース内暗室で、イタリア、スペインにロケーションしたHD CAM SRの映像を表示し暗部階調の豊かさ、白黒両端の両立、ハイライトの輝きと艶やかな黒、作為のない解像感など、詰め掛ける来場者に発売へと準備を進めるSEDの大器ぶりを示した。「AVレビュー」誌に森慶一郎氏への筆者のインタビューが掲載されるので、筆者のSED観はそちらで明らかにするが、「薄型テレビの<その次の>商品を狙うということですね。」という筆者の問いに深く頷かれていた。

昨年の発売延期声明は製造コストに起因するものということであるが、薄型テレビの製造コスト・販売価格の消耗戦を回避して付加価値商品を送り出すという考えは理解できる。往年のソニーのプロフィールプロなど、AV製品の成功例から引き出されるものは、プラズマや液晶に僅差で判定勝ちするのではダメだということだ。画質を見た瞬間、KO勝ちで他方式を深々とマットに沈めるくらいの圧倒的な差がなければ勝てない。発売まで約一ヵ年強、プラズマや液晶もまなじりを決して来るに違いない。SEDの圧倒的な映像がわたしたちの前に現れるその日を期待したい。

(大橋伸太郎 プロフィール

ceatec2006report

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