HOME > インタビュー > 何度目でもいい、買う!劇場版『仮面ライダー』UHD BDは“別物“に変身を遂げている

仮面ライダー初のUltra HD Blu-rayの真価とは?

何度目でもいい、買う!劇場版『仮面ライダー』UHD BDは“別物“に変身を遂げている

公開日 2021/10/23 09:30 編集部:松永達矢
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

■ネガフィルムからのスキャン素材だからこそできた高解像感

−−製作の上で「フィルムの良さ」を引き出すリマスター方針を進めるとこととなった「決め手」みたいなものはありましたでしょうか?

今塚 リマスター作業を行う際、デジタル処理を効かせて粒子の無い現代風な風潮に仕上げるか、当時の印象を残しつつ綺麗に仕上げるかは、作品によって選ぶことになるのですが、今回は一番古いもので1972年撮影の作品になるので、個人的にはフィルム感、当時の質感は残してあげたいなという気持ちがありました。ただ、ライブラリとして保管されているフィルムがポジフィルムだった場合、本来ネガフィルムが持つ色情報が失われがちな色調となります。

フィルムは、オリジナル編集ネガ→マスターポジ→デュープネガ→上映用プリントと代を重ねて行くごとに1Kずつ解像感や色情報量が抜け落ちてしまいますから、今回の「仮面ライダー」では、幸いにもオリジナルのネガフィルムからのスキャン素材を提供していただけたのもあり、フィルムに刻まれたすべての色情報を引き出すことができました。

オリジナルのネガフィルムからスキャンしたデータを用いることで、これまでにない高解像感を獲得!(写真左 オリジナルの35mmネガフィルム/写真右 4Kレストア、HDR効果を付加したもの【以下同】)

それと35mmフィルムには5K相当の情報量が刻まれていて、素材となるスキャンデータもそれをフルに収めた解像度のものになります。「フィルムのアーカイブ化」という側面では、4KをサポートするUltra HD Blu-rayというメディアが登場し、前世代のメディアでは不可能だったフィルム本来のポテンシャルを反映させることができるようになった今! ということもあって、フィルム本来の味を活かしたリマスター作業を推し進めることとなりました。

小田 東映では、今回の仮面ライダーに限らず劇場作品のオリジナルネガを、DVDやBlu-rayなど様々なメディアのソースとしています。ポジスキャンの時代もあったりしましたが、結局はネガからプリント(ポジ属性)を焼かなければいけませんので、マスターとしてオリジナルネガを保管しています。

先ほどお話したように、年代が進むと古いネガの状態がだんだん怪しくなっていくので、二次利用をする上で、ネガの代わりにマスターとなりうる素材として4Kでのスキャンデータ化を推し進めていくのがアーカイブ・スクワッドの仕事となっております。

−−「フィルムの良さ」を活かしたリマスターの実施には、オリジナルネガの情報量を完全に読み取ったデータが必須だったというわけですね。

今塚 はい。先程も触れたように35mmネガフィルムが5K相当の情報量を持つという事実は撮影年代を問わないものですし、ビデオレンジに比較してフィルムのラティチュード(露光量によって表現される明暗差)も広いので、それを反映したスキャンデータから4K化を行うことで、これまでの最高画質であったHDリマスターと比較しても遥かにクオリティが高いものとして生まれ変わっています。

本作に収録される作品のHDR効果は「見やすさ」を追求して過剰な演出を行わなかったと語る今塚氏

また今回は、収録メディアであるUltra HD Blu-ray もサポートするHDRによって、100%以上の光の表現ができるようになりました。輝度幅や色域が広くなったことで直射日光や、被写体からの反射される光といったシチュエーションをよりリアルに表現できるようになっています。

コスチュームにしてもヘルメットにしてもバイクにしても、光の当たっている部分の反射がより綺麗に出せたりするのも、広いラティチュードを持っているフィルムだからこそ再現できるというのはあります。仮に既存のビデオからHDR化しようとすると100%以上の信号が無いので、擬似的に輝度を上げることになります。

■過剰な光の効果は出さず、作品への没入感と見やすさを重視したHDR効果

−−HDR効果について「100%以上の光の表現が可能」ということですが、古い作品を4K HDR化したという同カテゴリの作品には、過剰なまでに明暗差をつけている作品もあります。今回の仮面ライダーにおけるHDR効果はどのような方針で演出していったのでしょうか?

今塚  HDRと言いますと、大抵の方は「高輝度、鮮やか、綺麗」という印象を持たれると思いますから、既存のものより良いものだろうというご想像をされると思います。もちろんその通りで、色域、輝度値や色味に関しては今までの放送規格より遥かに幅が広くなっており、元々フィルムが持っていた色情報を忠実に再現ができますが、今回の仮面ライダーにおけるHDRの効果については、高輝度再現を活かしつつ「眩しい」といった印象は出さないように心がけました。

背景の解像感の向上に加え、スーツの光沢感、バイクキャノピーの照り返しなどでHDR効果が発揮される

我々はHDR映像の制作をたくさんこなしていますが、いちばん大事なのはユーザーが視聴した時に「HDR感は出ているけど眩しさを感じさせない」というところでしょうか。例えば短尺のものだとHDR効果を顕著に出すとユーザーに喜ばれる傾向がありますが、長尺で同様の演出を施すと、眩しくて見ていて疲れるんですよね。ですから、今回の仮面ライダーは光りすぎず、あくまでも自然に、見ていて目が疲れないというガイドラインを狙ってHDR効果を出しています。

仮にHDR感を顕著に見せるために、あえて光を引っ張り出すような味付けをしてしまうと、視聴の際、光の部分に注目してしまい、ストーリーに没頭できなくなる恐れがあります。我々がこういった作品の作業に当たる際は、第一に見やすさを追求して効果を出しすぎないよう注意しながらHDR化しています。ハリウッド系の作品なんかはバリバリに光らせている作品も多いのですが…(笑)。

次ページ4K化で表出する初代ライダー本来の「鮮やかさ」

前へ 1 2 3 4 5 6 次へ

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE