HOME > インタビュー > サウンドエンジニア×デノンサウンドマスター、“作り手”同士が語るイマーシブサラウンドの未来

【特別企画】最高級とカジュアル、2つのシステムを体験

サウンドエンジニア×デノンサウンドマスター、“作り手”同士が語るイマーシブサラウンドの未来

2021/04/30 岩井 喬
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
ドルビーアトモスやDTS:X、Auro3Dなど、従来のサラウンドフォーマットを超える立体的臨場感を得られるイマーシブサラウンドの世界は、採用タイトルや対応ハードウェアの増加によってより身近なものになりつつある。

そうしたイマーシブサラウンド対応機器をいち早く展開しつつ、AVアンプやサウンドバーのエントリークラス機まで広げているブランドがデノンである。先日発表された「DENON HOME SOUND BAR 550」(以下:SB550)にもドルビーアトモスが採用され、発売前から注目されているが、このSB550に高い関心を寄せているのが、自身のスタジオに創業110周年記念モデルのAVアンプ「AVC-A110」を導入したレコーディングエンジニアの古賀健一氏だ。

古賀氏はステレオ音楽作品のみならず、サラウンド音楽作品のミックスにも精通されており、近年はイマーシブサラウンドの世界に可能性を見出しているとのこと。直近ではOfficial髭男dism(以下:ヒゲダン)の最新シングル「Universe」BD/DVD同梱パッケージに収録された無観客オンラインライブ『ONLINE LIVE 2020 -Arena Travelers-』のミックスを担当されており、BD盤については7.1.4chのドルビーアトモスを採用。このヒゲダンのイマーシブサラウンドが、SB550やAVC-A110でどのように再生されるか試してみたいと考えていたという。

加えて古賀氏は、デノンのサウンドマスターである山内慎一氏を以前からリスペクトしており、直接意見交換を行いつつ、山内氏の仕事場であるデノンの試聴室で、ヒゲダンの『ONLINE LIVE 2020 -Arena Travelers-』を聴いてみたいとリクエストされていたそうだ。

そこで今回、古賀氏と山内氏の邂逅の場がセッティングされることとなり、その対談を取材させていただく機会を得た。山内氏は本年から、ピュアオーディオ製品だけでなくAV製品についても、サウンドマスターとして音作りを統括されるとのこと。まさにイマーシブサラウンドにおけるソフト側のつくり手と、ハード側のつくり手同士が、互いのスタンスについて語り合う貴重な機会となったのである。

対談は定期的な換気など、新型コロナウイルス感染症への十分な対策を行なった上で実施しました

ヒゲダンライブのイマーシブは、デノン山内氏も絶賛のサウンド

対談には古賀氏と山内氏だけでなく、『ONLINE LIVE 2020 -Arena Travelers-』のドルビーアトモス制作にあたり、ポストプロダクションを担ったP’sスタジオで古賀氏のサポートに当たったポニーキャニオンエンタープライズのMAエンジニア・村上智広氏と、ポニーキャニオンエンタープライズ営業部・近藤貴春氏も同席いただいた。

これはドルビーアトモス再生の確認として、音楽作品だけでなく、映画作品のサラウンド制作にも精通されている村上氏、そしてイマーシブサウンドを業界に広げようと奮闘されている近藤氏にも、デノン製品のイマーシブサラウンドを体験いただき、より正確なドルビーアトモス体験の理解を深めて欲しいという古賀氏の提案によるものだ。

事前に『ONLINE LIVE 2020 -Arena Travelers-』を視聴していたという山内氏は「鳴らし始めてすぐにいいソフトだと感じました。ライブの臨場感がストレートに味わえる、非常に優れた作品だと感じましたね。AVアンプのパラメーター調整を細かくいじることなく、基本のセッティングそのままで非常に良いサウンドです。こういう経験はなかなかできません」と絶賛。

「AVアンプのパラメーターは、最終的にはわずかにセンターchの音量を下げました。はじめはもう少し上げようかとも思ったのですが、他のソフトとの兼ね合いで違和感があったので下げてみました」と、率直に作品の素晴らしさを語ってくださった。

デノンのサウンドマスターを務める山内慎一氏

今回の視聴ではAVC-A110を使用したが、山内氏がヒゲダンのBDをはじめに確認したのは下位モデル「AVR-X4700H」だったとのこと。価格に関係なく、イマーシブサラウンドならではの素晴らしさを味わえたことについて、ソフトの制作に携わった古賀氏も「本当にうれしい」と、山内氏のコメントを受けて言葉を続ける。

「我々がこだわって作ったサウンドがきちんとリスナーへ届いたということですし、いま聴かせていただいたフラッグシップ機AVC-A110では“この場所から音が聴こえてきてほしい”という作り手の思いをきちんと再現できていることを実感できました」。

「山内さんが仰ったセンターchの音量についてですが、実は意図的に少し大きめのバランスでミックスしていたので、まさにその微細なポイントに気づいていただけたんだと驚いています。歌声がきちんと届かなければ作品として終わりますから、サウンドバーなどの製品で聴かれることも想定して0.3dB上げていました。実際、今回のようにグレードの高い製品では、その様まで的確に表現するのはさすがです」と古賀氏。

レコーディングエンジニアの古賀健一氏

次ページ「ライブの世界観を再現するのに、2つのスピーカーだけでは無理がある」

1 2 3 4 次へ

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE