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<山本敦のAV進化論 第195回>

「Xperia 5 II」はソニーが“使い倒して欲しい”5Gスマホ。片手サイズに込められた開発秘話インタビュー

公開日 2020/11/18 06:30 山本敦
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Xperia 1 IIよりも入念に練り上げたスピーカーサウンド

続いて、Xperia 5 IIのオーディオの特徴について掘り下げよう。内蔵スピーカーの設計を担当する松本氏と星氏にお話をうかがった。

筆者はソニーモバイルが秋に開催した記者向けのXperia 5 IIの新製品説明会で、Xperia 1 II、Xperia 5を並べてスピーカーの音を聴き比べる機会をもった。初代のXperia 5に比べると、Xperia 5 IIのサウンドは、より低音のインパクトが力強さを増していた。音楽コンテンツを再生するとステレオイメージが鮮明さを増し、音像定位が立体的に感じられた。

ソニーモバイルでXperiaのプレミアムモデルを比較試聴した。左からXperia 5 II、Xperia 5、Xperia 1 II

Xperia 1 IIと比べてみても、ひとまわりコンパクトなXperia 5 IIのサウンドは引けを取っていなかった。オーディオ設定からドルビーアトモスをオンにして、映画のデモコンテンツを再生してみると、低音の立ち上がりはむしろXperia 5 IIのほうが鋭く鮮やかだ。ダイアローグの音像が力強く前に迫り出してくるし、バックグラウンドの効果音は奥行き方向への描き込みがとても深い。

ドルビーアトモスの自然な立体感の再現力においてはXperia 1以来、シリーズのプレミアムモデルを凌駕するスマホは筆者が知る限りほかにない。映画の舞台に自然と身を投じられる「入り込みやすさ」が何より優れている。スピーカーサウンドがとても心地よいので、自宅など静かな場所でひとり過ごせる時間を見つけたら、なるべくイヤホンやヘッドホンを使わずにXperiaで映画や音楽を楽しみたいと思う。

Xperia 5 IIで音楽コンテンツを試聴した

松本氏はXperia 5 IIのスピーカーを設計するにあたって、「信号処理を除いたハードウェアの素の特性をできる限り活かすこと」に注力したのだと説く。Xperia 1 IIで培った音響シミュレーションの技術を活かしつつ、サイズを小さくできるギリギリのラインを攻めた。

結果として、アンプからスピーカーへフラットに信号を出力しながら駆動した場合、Xperia 5 IIが示す特性はXperia 1 IIのそれにかなり近づけることができたという。しかしスピーカーボックスの容積など条件が異なるため、特に低音域の再生パフォーマンスには如何ともしがたい差が出てくる。これを埋めたものは「Xperia 1 IIの開発資産」を活かした上での丁寧なチューニングだった。

Xperia 1 IIでは内蔵スピーカーの開発をゼロから起こしていた。アンプも新規採用のモジュールを使った。そのため、開発当初は手探りの状態から時間を掛けてパラメータを整えて、最適な組み合わせによるバランスに仕上げたそうだ。Xperia 5 IIには、この時に特性を研究し尽くしたモジュールが使われている。短時間で「Xperia 1 IIに迫る高音質」に迫ることができた理由がここにあると松本氏が話す。

チューニングにはクリエイターの意図を反映。Xperia 1 IIのその先へ

チューニングのパラメータ調整を担当した星氏は、Xperia 5 IIのサウンドを整える過程で主に2つの点に注力したと語る。ひとつは低音域を強化することであり、もうひとつが左右の出力バランスを可能な限り近づけることだった。

「スマートフォンは純粋なオーディオ機器ではないため、トップスピーカーとボトムスピーカーに同じユニットが入れられるわけではありません。素の特性という観点では左右のユニットが違います。たとえばトップ側左チャンネルは低い音は出せるものの、大きな音の再現が苦手です。ボトム側右チャンネルは大きな音は得意としていても、出し過ぎるとすぐに歪んでしまいます。それぞれの長短を把握した上でバランスの良い音に仕上げることに腐心しました」(星氏)

Xperia 5 IIはスピーカーユニットの開口部が正面に向いている

Xperia 5 IIのサウンドバランスをXperia 1 IIに近づけることは、思ったよりも早くできたという。そこから低音域を伸ばす段階でユニットの限界を探りながら丁寧にチューニングを追い込んだ。そして左右のバランスはゼロコンマ単位のデシベル調整を繰り返しつつ、中高音域のリニアリティ向上を図っている。

Xperia 5はボトム側のユニット開口部が側面向きだった。Xperia 5 IIの方がより自然なステレオイメージが得られる

Xperia 1 IIのサウンドは完成した当時も周囲から好評を博したが、一方で松本氏は「よりハイファイの観点から聴き込んでみると、細かな課題が見えていました」と打ち明ける。

Xperia 1 II、Xperia 5 IIのサウンドチューニングには、クリエイターの意図を再現するためにソニー・ミュージックエンタテインメントとの協業により世界的なエンジニアの声が反映されている。ソニー・ミュージックエンタテインメント バッテリースタジオのシニア・マスタリングエンジニアであるマーク・ワイルダー氏も関係するキーパーソンだ。

「Xperia 1 IIを開発していた当時、ワイルダー氏とのサウンドチューニングの作業は、彼の視点と私たち開発チームの視点が同じ方向を向いていたことからとてもスムーズに運びました。ただ、それでもやはりスピーカーとアンプに新規のモジュールを採用したうえ、開発時間も限られていたことから、クリエイターの意図を私たちが100%反映できなかったのではないかという思いが残りました。Xperia 5 IIではワイルダー氏をはじめとするクリエイターの方々のこだわりを盛り込むことができたと思います」(松本氏)

松本氏はさらに、Xperiaシリーズが理想に掲げるスピーカーサウンドについて説明を続ける。「スマホは筐体が小さいために、ハイファイリスニングには不向きだと思われているかもしれません。ところが本当はニアフィールド再生においては、他にない高品位なリスニングが楽しめるデバイスなのです。部屋のルームアコースティックにはほぼ左右されることがなく、直接音が100%ダイレクトに耳に届きます」(松本氏)

オーディオにはあまり詳しくないものの、スマホでは毎日ヘビーに音楽を聴いているというユーザーがこの頃は多くいる。松本氏は「ヘッドホンやイヤホンで音楽を聴くスマホユーザーの皆様にも、リアルな音場感が得られるスピーカー再生独特の楽しみをぜひ味わってほしい」と呼びかける。

スピーカーとイヤホン出力からのDolby Atmos再生、AI解析を使うハイレゾアップコンバージョン機能「DSEE Ultimate」がXperia 5 IIにも採用されている

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