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開発陣がその詳細を明かした

完全ワイヤレスイヤホンにブレイクスルーを起こす新DAC。AKM「AK4332」は音質と省電力を追求した

2019/03/07 海上 忍
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そして次なるターゲットに定められたのが、Bluetoothイヤホンに代表されるワイヤレスオーディオ(レシーバー)だ。ただし、すでに“SoC化”が進行していることを踏まえてか、彼らは現状の課題として「再生時間の長さ、Bluetoothの接続性、小型化ひいてはデザイン自由度の高さ」(小瀧氏)を挙げる。ただ、その先の差別化ポイントとして「高音質化」を提案していきたいという。もちろん、外部DACとして追加してもイヤホンの使い勝手/アクセシビリティ/電池の持ちに影響しないよう、最大限配慮しているのだという。

「AK4332」のコンセプトを説明してくれた小瀧氏

AK4331とAK4332を外付けDACとして提案する根拠としては、「SoC内蔵のDACを利用する場合、DACにフォーカスして音質チューニングを行うことが難しい。単体DACを採用すると、DACにSoC側のシステムノイズを回り込ませない、周辺部品を利用したチューニングが可能になる」(小瀧氏)という特長を挙げる。

ハイエンド向けの“AK449Xシリーズ”で培った「OSRDテクノロジー」も、AK4331/AK4332に導入されているという。「オーバーサンプリングレシオを2倍にして帯域外ノイズを低減するこの技術は、良好なTHD+Nを確保しつつも低消費電力を実現する」(小瀧氏)。リファレンスの電圧を安定供給するノウハウは、AK4375以降のシリーズで培われたものだそうだ。

SoC内蔵DACを用いた場合と、AKM製DACを外付けで用いた場合のイメージ。後者の場合、独自の音作りやシステムノイズの分離という点で大きなメリットがある

ヘッドホンアンプ段にも抜かりはない。「低インピーダンスのドライバーを駆動するとアンプに負荷がかかるが、それでも歪ませることなく特性を出せる」(小瀧氏)ことは、AK4375以降のポータブル向けDACで獲得したノウハウが生きているのだろう。クロックジェネレーターの準備もあり、SoC側に起因するジッターを排除できることもポイントといえる。

「AK4332」はレギュレーター、ヘッドホンアンプ、システムクロックと、高音質再生に必要な回路を集積している

消費電力をどう抑えたかについても訊ねてみた。「ポータブル向けで初代のAK4375とAK4331/AK4332のプロセスルールは同じ」(石井氏)とのことで、約半分という消費電力の削減は設計技術によるブレイクスルーにより達成されたものだという。

その理由のひとつは、OSRDテクノロジーにあるという。「ハイエンド向けモデルでは電力を維持しながら 帯域外ノイズを”除去する”ことが動機としてあったが、逆にそのノイズをあるレベルに "キープ"すれば電力を減らせる」(石井氏)ことを発見し、モバイル向けモデルに採用したというのだ。確かに、Bluetooth/A2DPの伝送範囲を大きく外れるノイズを減らしたところで効果に乏しく、製品化においては電力消費量低減のほうがプライオリティは高い。市場のニーズを踏まえた合理的な判断といえるだろう。さらに新たな低消費電力アーキテクチャーを導入し、ヘッドホンアンプの駆動力・低歪を維持しつつ消費電力も削減しているという。

石井氏は「AK4332」の設計の詳細を解説してくれた


採用製品は年内登場予定

取材実施時点で、AK4331とAK4332を採用したBluetoothレシーバー製品は存在しないが、AKM開発陣が用意したプロトタイプを試聴することができた。その製品に搭載されている製品には「AK4375A」が搭載されており、それを「ピン互換のAK4331に載せ替えただけ」(小瀧氏)というものだ。市販品の改造版という事情から撮影はできなかったものの、何度も聴いたことがある高音質が売りのBluetooth対応ポータブルアンプ、ということは明らかにしておこう。

その音は、見通しがよく清冽。情報量はあるが輪郭が整然としているためモタつかず、スピード感もある。基本的なキャラクターはAK4375Aと大きく変わらず、ディテールまで丁寧に描き緻密な印象は共通しているが、よりクリアさを増している。一概にSoC内蔵DACとの比較はできないが、個性があるかないかでいえば明らかに“ある”。周辺部品を含めたチューニングを実施すれば、より個性的な音に仕上がるはずという感触は掴めた。

完全ワイヤレス向けのAK4332を搭載した試聴機の用意はなかったが、先日AK4375A採用の完全ワイヤレスイヤホン「オーディオテクニカ ATH-CKR7TW」を聴いた際には、SoC単体の製品では得がたい自然な音場の広がりとしなやかさ、密度感に舌を巻いた記憶がある。そのアイデンティティを継ぎつつ消費電力が半分以下になれば、製品としてのインパクトはさらに増すはずと考えると、否が応でも気分は高揚するというものだ。

試聴後に、AK4331/AK4332がどのような製品に搭載されることになるか見通しを訊ねたところ、「ミッドエンド以上のBluetoothイヤホンが主なターゲットになるのでは」(鈴木氏)とのこと。確かに、エントリークラスはともかく、他製品との差別化とアイデンティティの確立が極めて重要なミドルクラス以上の製品については、“音”という個性を出せる外付けDACは大きなアドバンテージとなりうる。早ければ年内にも発売されるはずのAK4331/AK4332搭載モデルを、楽しみに待つとしよう。

(海上 忍)


東京・日比谷の本社に新設された試聴室で、同社のハイエンドDAC「AK4499」を搭載したリファレンスモデルも試聴することができた

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