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キーマンへのロングインタビュー

「1,000円のイヤホンで可能な限り熱量を伝える」。e☆イヤホン増田 稔氏が語る市場拡大への挑戦

公開日 2019/02/26 15:57 Senka21編集部 徳田ゆかり
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ユーザーを店頭に呼び、裾野から引き上げるのが e☆イヤホンの仕事

−−−− Hi-Unitシリーズの手応えはいかがですか。

増田 おかげさまで好調です。Hi-Unitシリーズは、e☆イヤホンでの何十倍もの台数が外のチャネルで売れています。もともと30万本売れていたALPEXさんのAHP-337から入れ替わる形でどんどん出ています。シリーズも増やしましたし、外での取り扱いも増えて、これからもどんどん増えていくと思います。

商品を広く展開する上で、「e☆イヤホン」と入った商品を売ってくださらないお店も当然ありますよね。ただ、商品さえいいものであれば扱ってくださる。だからe☆イヤホンの名がなくても我々はいいんです。そうして裾野が広がれば、やがて高くていいものを買う人も増えていくと思っています。

−−−− 裾野を広げたい思いは、ALPEXさんではどのように捉えられていますか。

増田 当初、ALPEXさんは儲けるために安いものをつくるのかと思いましたが、社長や開発担当者と話をさせていただくと、商品の入れ替えや返品など販売店さんとの関わりの中では、安い商品をつくらざるを得ない状況になってました。自らリスクをとるためのバッファです。大手メーカーさんにとっての販促をするためのバッファと同じような考え方でしょうか。

そういうリスクがなくなれば、あるいはそういう商品でもちゃんとチューニングしてつくれれば、事態は変わる。ただALPEXさんでは商品づくりで細かくチューニングをしてきた経験がない。工場でもそんなことはしたことがない。それで一緒にやってみたんです。

いろいろな新しい価値を世の中に浸透させ、広めていきたい。

−−−− Hi-Unitシリーズは海外展開も開始されました。

増田 インドネシアと香港で12月中旬頃から販売開始されました。基本的にweb上のショッピングサイトが中心です。日本ブランドでも海外ブランドでも、ほとんどのイヤホンは中国でのいろいろな工場でOEMを受けてつくられています。ここ数年で、中国のブランドがいくつも日本に入ってきて話題になっていますが、中国の工場が自らのブランドで商品をつくることも可能なわけです。中国人の多くは英語を話せませんから、中国に入ってきた欧米の技術は、欧米が取り返すことは難しいとも言われています。

中国の工場をたくさん訪ねさせていただきましたが、日本よりもはるかに少ないロットでも請け負って品質の高いものをつくれる。そういう部分は日本の工場は勝てないと思いました。中国の工場はものをつくることでの労働力のコストや国土の広さ、働き方が違います。

しかし、0から1を生み出すことはまだ日本の方が長けています。日本はもともと新しいアイデアでものをつくる、今あるものをもっとよくしていくことを得意としてものづくりをしていました。ものを大量につくることには向かず、そこは中国が強い。大量につくれて、だんだん品質も上がってくる。日本と中国がそれぞれ得意とすることをうまく組み合わせながらやりたいですね。

メイド・イン・ジャパンは現実的には幻想に近い観念と思っています。実際の製造は日本の外になっていますから。それよりも、日本が監修したとか、日本が企画した、日本人が製造に関わっている、という概念でのジャパンブランドに対する信頼は当面続くと思います。ならば“Hi-Unit Powered by e☆イヤホン”のブランドで、中国の工場が主体で日本以外のアジア地域で販売できることにすればどうかと考えています。

そうしたら、海外でもe☆イヤホンの名のついた商品を出せる。我々自身はお墨付きを与える形で工場とパートナーシップを組んで協業して、工場主体で展開する。そうすると、商品が海外で売れなくても在庫を抱えるのではなく、日本の商品としてそちらにまわせばいい。もしたくさん売れたら、工場がたくさん部品を買えるのでコストが下げられる。すると次に同じ価格でもっといい商品がつくれる。

−−−− 海外展開も裾野を広げるためですか。

増田 裾野の広がりよりも、パートナーシップを結ぶ工場にももっとメリットがある状況をつくりたかったからです。そうでないと、次に商品をつくるときに、同じ価格帯でワンランク上の部品を使うことができません。なんでも自分たちだけでやらないで、しっかりとパートナーシップを組んでやってもらう方がメリットがありますね。

タイムマシンは「WIN WIN WIN」ということを掲げています。お客様もお取引先様も、そして私たちも、みんなにとっていいことをちゃんとやる。それが商売のベースにあります。

−−−− 「rakunew」についてご説明いただけますか。

増田 「rakunew」は、もともと他社のキュレーションサイトだったものを2015年に我々が事業継承しました。海外の尖った雑貨やガジェット、クラウドファンディング入札などを紹介しています。将来的には、我々はイヤホンだけでなく、いろんな商材にも着目して、新しい価値を世の中に浸透させ、広めていきたい。その起爆剤が「rakunew」です。当初はオーディオ機器ばかりでしたが、昨今はライフスタイルまで広めて、何を発信できるか模索しています。いずれ他の事業とも連動させたいですね。

実店舗で「e☆イヤホン」を展開してきて、我々がやってきたことが何かしらのイノベーションだとすると、それはすべての機種を試聴できるようにしたあの業態です。ある種クレイジーな他にない店作りですが、要は商品の価値をどうやって伝えていくかです。我々がこれからどんなカテゴリーの商品でビジネスを行っていく上でも、非常に重要なキーワードだと思います。

−−−− TMネットワークの今後の方向性をお聞かせいただけますか。

増田 イヤホンの裾野を広げることは今後もずっとやっていきたいですね。これは e☆イヤホンや当社のイヤホン事業ではなく、それ以外のところに注力していく作業。あとはそういうお客様を店頭に呼ぶのが e☆イヤホンの仕事。裾野からきたお客様を取りこぼさずに引っ張り上げながら、離脱をどれだけさせないか。

イヤホン・ヘッドホンの市場をは今後もまだ伸びると思っています。今やワイヤレス特需で市場全体の単価が上がっていますが、1万円台の有線モデルは落ちている。今特需がある時点ではなんとか商売は成り立つけれど、このタイミングで裾野を広げておかないと大変だろうと思います。

市場のシェアを取りにいく発想はまったくありません。e☆イヤホンブランドのついた商品をいっぱい売りたい思いもあまりないんです。やるべきことはとにかくお客様創造。いいイヤホンにたどり着かないお客様がまだまだとても多いので、イヤホンを検索する人を増やす、そして市場規模を拡大する。総額が増えていかないと、市場は血みどろの戦いになる。それはしたくないですよね。

我々が市場に参入したことによって、量販店さんの売上が落ちていたら、我々はここまで成長できなかったと思います。我々は量販店さんのシェアを取ったのではなくて、我々が入った分市場規模が拡大していると思います。これをもっと強化していきたい。業界では2017年頃から客単価前年アップ、客数減と言われており、急がなくてはなりません。

けれどもあまり先のことはわかりません。2~3年先を想像はしますけど、多分想像とは違うことになるでしょうね。こうなりたいというのはありますが、それ以上のことは、ふわっとしたものしかわかりません。計画というより、「こうなりたい」というような夢や理想をこれからも求め続けていきたいと思います。

−−−− たくさんの興味深いお話を伺いました。ありがとうございました。

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