HOME > インタビュー > 「1,000円のイヤホンで可能な限り熱量を伝える」。e☆イヤホン増田 稔氏が語る市場拡大への挑戦

キーマンへのロングインタビュー

「1,000円のイヤホンで可能な限り熱量を伝える」。e☆イヤホン増田 稔氏が語る市場拡大への挑戦

2019/02/26 Senka21編集部 徳田ゆかり
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE



イヤホンを消耗品だと思っている人に感動体験を提供するために、低価格イヤホンをチューニング

−−−− TMネットワークでは全商品を管轄して、仕入れた商品はe☆イヤホンやTSUTAYA、その他のチャネルで販売される。そして売り場づくりも手がけるのですね。

増田 TMネットワークが目指すのは、「MDする卸し」。最近はCCCグループということもあり「卸しでデザインする会社」とも言っています。俗に言う商社のような機能で、営業をかけて商品をどんどん入れていくようなスタイルの会社ではなくて、品揃えから、商品の価値や魅力を含めて提案していける会社。どこのチャネルに対してもそういうスタンスを失わずに取り組む意志を設立当初から貫いています。考え方に共感していただけるお取引先様も増えています。

−−−− イヤホンをもっと知ってもらう、という思いがすべての原動力なんですね。

増田 「Googleで “イヤホン” を検索する人を増やす」、まず最初の衝動づくりが一番重要です。どこのお店に行くかはお客様次第。もちろんe☆イヤホンに来ていただけるための努力は最大限していますが、現実にe☆イヤホンを知らない人は有名な量販店さんなどに行かれると思うんです。また我々は「ポタフェス」を開催していますが、それがニュースとなって、知らない方々にもイヤホンの魅力やe☆イヤホンの存在が届くようにと意図してもいます。

商品が売れていくにつれ、一生懸命イヤホンを売っている店とそうでない店では品揃えに違いが出てくると思うんです。例えば値段が一緒なら、高品質で粗利の低い商品よりも、とにかく粗利が高い商品を優先することもあるかもしれません。

儲けを追求するのは、店にとってはある意味当然のこと。だからお客様がイヤホンを消耗品だと思って特にこだわりもなく買いに来られたとしたら、品質がよくても儲けの少ない商品をわざわざ薦める必要はない、少々品質が落ちてもより儲けのある商品を優先する、イヤホン専門店でないお店ならばそう考えてもおかしくはありません。

でももし、イヤホンに興味を持ったお客様がそういうお店に行かれて、品質がそれなりの商品を薦められたら、その方がイヤホンにそれ以上興味を持ち続けてくださるチャンスは失われるかもしれません。その状況をどうやったら変えられるのかと悩んでいく中で、ひとつのアクションを起こしました。それが、1000円のイヤホンを一生懸命につくることでした。

2016年末頃、TSUTAYAさんに商品を入れていたALPEXさんと出会いました。大阪の会社で、そこがつくっている「AHP-337」という1000円のイヤホンがTSUTAYAだけでも30万本、それ以外でももっと売れていた。そのつくりは決して悪くないのですが、音質はどうしても厳しい。それなら我々がそれをチューニングしてみたらどうだろうかと思ったわけです。

高価なイヤホンで音楽を聴けば、多くの方はイヤホンにすごく興味を持たれることになると思います。でも10万円のイヤホンを買う人は多くなく、1店で30万本も売れるわけがない。また大手メーカーさんが1000円のイヤホンを労力を最大限にかけてつくるかというと、コストや売上規模から考えてもそこに開発費を投入するのは難しいのが現実です。

「AHP-337」は30万人の方に買われ続けてきた実績がある。ならばその価格帯の商品でコンテンツの解像度を高められればどうだろうかと。解像度というのは、いわば熱量というか。つまりアーティストやクリエイター、エンジニアの熱量を、1000円のイヤホンで可能な限り伝えられるようにする。それが解像度を高くするということで、実現できればユーザーの感動深度が深まるだろうと。

人が行動を起こす時には、必ず何かしらの衝動があります。衝動には驚きとか感動がありますが、消耗品としてイヤホンを買い換えているお客様は、そのイヤホンで感動深度が深まる機会はほとんどないでしょう。 e☆イヤホンに来られる可能性もほとんどなく、もしかしたら家電量販店さんのイヤホン売り場にもいらっしゃらないかもしれない。

そういう方を少しでも揺り動かす方法として、1000円のイヤホンで感動深度を深める。果たして本当にそれができるのかわかりませんでしたが、試しに生産現場である中国の工場に行ってみました。それが2017年1月です。

ドライバーの工場に行って、技術者と直接話をしました。とても真面目に取り組んでいて、中国の技術者が持っているノウハウや見識は、想像していた以上に高い印象でした。通常チューニングする時は数パターンの試作機を作って送る。すると先方から修正の要望が返ってくる。作り直して送る、また要望がくる、を繰り返すという形が多いかと思います。

オーディオ製品は音の波形だけでチューニングするには限界があって、実際に耳で聴いて音を決めていきますよね。そういう意味で、技術者に会って一緒に音を聴き直接やりとりすると、低価格のものでも音を追い込むことができると実感しました。作ったものを最初に聴いた時に、商品化しようと決断しました。ALPEXの担当の方にも聴いてもらうと「こんなに変わるのか」と驚かれて、即一緒にやっていくことになりました。


次ページ感動がすべての原動力になる。そのための次の一手。

前へ 1 2 3 4 次へ

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE