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【特別企画】小原由夫氏によるインプレッションも

サエク北澤氏インタビュー。最上位ラインケーブル「STRATOSPHERE SL-1」で目指した“音の成層圏”

公開日 2017/04/11 10:00 構成:編集部/レビュー:小原由夫
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ハイレゾ再生時のアナログ伝送を念頭に開発された新導体「PC-Triple C/EX」

SL-1では、スーパーストラダム構造の採用に加えて、その導体にPC-Triple C/EXを世界で初めて採用した。従来のPC-Triple Cに対して、PC-Triple C/EXはどのような特徴を備えるのだろうか。この点についても北澤氏は詳しく説明してくれた。

「PC-Triple C/EX」

PC-Triple C/EXは、「ハイレゾ・ソースのアナログ再生に対応したオーディオ用新素材」として、2017年2月に発表された。北澤氏はその性能をいち早く認め、今回の初採用に至った。

まず「ハイレゾ・ソースのアナログ生成に対応」とは何を意味するのだろうか。ハイレゾファイルは、オーディオ再生において必ずD/A変換され、アナログ信号としてケーブル伝送される。PC-Triple C/EXは、このアナログ変換後の伝送において、倍音成分などハイレゾならではの情報を含む高周波領域の信号をより損失なく伝送することを目指している。

そして、このために採ったアプローチは、PC-Triple Cの導通性能をベースに、電気信号の伝送における“表皮効果”に着目したものであった。

連結結晶無酸素銅「PC-Triple C」は、独自の連続鍛造伸延技術によって結晶と結晶粒界を長手方向に連続化させ、信号が結晶粒界とぶつかることを極力減らすことで、優れた導通・音響性能を実現した導体である。ファイル・ウェブでも開発者へのインタビュー記事でその詳細をお伝えしたので、ぜひそちらを参照いただきたい。

PC-Triple C/EXは、このPC-Triple Cの周囲を5N銀素材で包んだ構造となっている。そして「これは銅線に銀メッキ処理を施した線材とはまったく異なるものです」と北澤氏は強調。PC-Triple C/EXはいわば、PC-Triple Cと5N銀が2層になった導体なのだという。それは下の写真を見ていただけるとよくわかるはずだ。

PC-Triple Cの平行方向の断面。中央がPC-Triple C、上下が5N銀となる

高い導通性能を誇るPC-Triple Cの表面を、5N銀でさらに包むのはなぜなのか。オーディオケーブルに詳しい方ならご存じだろうが、銅よりも、銀の方が導通性能は高い(抵抗値が低い)。PC-Triple Cが高い導通性能を備えるが、それは銅という素材の範疇においてである。

先ほどの説明の通り、表皮効果により高周波は流導体の外周部を流れる。この外周部に、より導通性能の高い銀(しかも5Nという純度を備える)を配置することで、PC-Triple C/EXは高周波の伝送特性をさらに向上させたのである。これにより、可聴帯域を超える高域信号もより損失少なく伝送できるのだ。

PC-Triple Cと5N銀の二層構造を実現。銀メッキとは根本から異なる

同じ効果を得ることは銀メッキでも可能なのではと思う方もいるかもしれないが、それはちがうという。銀メッキの厚さは1〜2μmm程度と非常に薄い。このためメッキされた銀の結晶構造は緻密な結晶粒にはならず、さらにはベースとなる銅の結晶粒界に銀の原子が入り込んでしまい表面が不均一になる。そのため表皮を流れる信号は、銅/銀の上を交互に伝送されるような状態になってしまい(いわば合金による導体を用いているような状態だという)、優れた導通性能は得られないのだという。

こちらはPC-Triple C/EXの垂直方向の断面。メッキとはそもそも銀の厚みが次元のちがうものになっている

高周波が伝送される外周部に、抵抗値が低い銀を効果的に配置するというアプローチをとったのが、このPC-Triple C/EXというわけだ。

その構造を説明するのは簡単だが、実際に銅の外周部を銀で覆った導体を製造する行程は非常に困難なものだという。北澤氏によれば、このような導体が製造できるのは世界だけでも日本だけだろうとのことだ。

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