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音質担当が新旗艦プリメインを語り尽くす

【開発者に聞く】マランツ「PM-10」は、“録音現場の音”を目指してスイッチングアンプを選んだ

公開日 2017/03/30 13:38 構成 編集部:小澤貴信
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なぜ発光ダイオードをオーディオ回路に使うのか


村山氏はアンプの設計を担当。HD-AMP1の開発にも携わったという
ーー 以前から気になっていたことなのですが、PM-10に限らず、アンプの天板の隙間からLEDが光っているのが見えます。これは何のために用いられているのでしょうか。

村山氏 LEDとは発光ダイオードのことですが、まさにオーディオ回路上でダイオードとして使っています。ダイオードは電流が変化しても一定電圧をキープするために用いるのですが、発光ダイオードでも、いわゆる普通のダイオードでも同様に使うことができます。

なぜあえて発光ダイオードを使うのかというと、ひとつはLEDは価格が安いからです。もうひとつは、いわゆるダイオードよりもLEDのほうがノイズが少ないためです。回路が動作していることがLEDの発光で確認できるという開発側のメリットもあります。

ご覧の通りLEDの色が赤や青など複数ありますが、これは色によって電圧が異なるため、必要な電圧に応じて色を使い分けているからです。また、青より赤のLEDの方がノイズが少ないです。こうした取り組みは、多くのメーカーで行っていることだと思います。

スピーカーリレーの排除によって音の純度をさらに高めた

ーー PM-10の発売は、SA-10より約半年、延びることになりました。

村山氏 発表が遅れた理由は、主にスピーカーリレーに関連する部分に時間がかかったためです。一般的なアンプにはスピーカーリレーが使われることが多いですが、PM-10にはありません。スイッチングアンプの出力段は電流のオン/オフのスイッチのようなものなので、リレーと同じ役割が担えるからです。


PM-10の背面端子。スピーカーターミナルは2系統を備えるが、あえて個別のオン/オフ機能は省かれている
スピーカーリレーは保護回路の役割も果たしますが、音質を第一に考えるとないにこしたことはありません。しかし、スイッチングアンプなら単純にリレーを外すことができるというわけではなく、様々なケアが必要になり、ここに時間がかかったのです。

澤田氏 理屈の上では、Hypexのモジュールはスピーカーリレーが必要ありません。しかし、購入していただいて10年・20年と経った後、部品が経年変化しても大丈夫という保証までするためには、Hypexの仕様だけに頼るわけにはいきません。この点について社内の基準をクリアするのに苦労しました。

尾形氏 スピーカーリレーは保護回路としての役割だけでなく、2系統のスピーカー端子で出力を切り替える機能も担います。PM-10はスピーカー端子を2系統備えていますが、リレーを外しているため出力A/出力Bと個別に鳴らすことはできません。プリメインアンプに多機能性を求める考えもあるでしょうが、PM-10では音質を優先してこのような仕様としました。

PM-10とB&W「800 D3」。2つのフラグシップの関係

ーー 音質チューニングの面で、特に苦労した部分はありましたでしょうか?

尾形氏 試作を進めるある段階で、回路構成はそのままにレイアウトだけ変更を行ったのですが、そこで音ががらりと変わってしまったのです。レイアウトを変えただけで構成要素はほぼ同じなのに、その前段階にあった非常に力強いエネルギー感や鮮烈な音が失われてしまって・・・そこからは苦労しましたね。検証を重ねて結果的にそれを解決する施策を打つことができたのでよかったですが、レイアウトや構造はもちろん配線まで含めて、頭で理解している以上にこれらが音に影響するということを改めて実感しました。

ーー タイミング的には、B&Wの新しいフラグシップである「800 D3」が登場してきました。本機は開発に影響を与えましたでしょうか。

村山氏 ご存じの通りマランツは、B&Wのトップモデルをリファレンスに、この20年にわたって製品開発を行ってきました。800 D3をいかに鳴らすか、というよりは、このスピーカーを使っていかに良い音に仕上げていくかなのです。

澤田氏 我々は800 D3が、現時点において最も優れたリファレンススピーカーである考えています。このリファレンススピーカーを使って、いかにアンプの性能を上げていくかが重要なのです。

尾形氏 リファレンススピーカーとは検出器です。優れた検出器があれば、アンプ開発において改良すべきポイントが即座にわかります。この点においては、800 D3はPM-10の開発に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

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