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音質担当が新旗艦プリメインを語り尽くす

【開発者に聞く】マランツ「PM-10」は、“録音現場の音”を目指してスイッチングアンプを選んだ

2017/03/30 構成 編集部:小澤貴信
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マランツの旗艦プリメインアンプ「PM-10」(関連ニュース)は、なぜスイッチングアンプを採用するに至ったのか。セパレートアンプを妥協なく1筐体に納めるという取り組みはいかにして実現したのか。その開発秘話をマランツの開発チームに伺った。

写真右より(株)ディーアンドエムホールディングス GDP エンジニアリング 村山 匠氏、マランツ・サウンドマネージャー 尾形好宣氏、マランツ・ブランドアンバサダー 澤田龍一氏

PM-10がスイッチングアンプを採用した理由

ーー 最初に、PM-10が誕生するまでの経緯について伺いたいと思います。スイッチングアンプを搭載するというコンセプトは、どのタイミングで現実のものとなったのでしょうか

澤田氏 従来の旗艦プリメインアンプ「PM-11S3」が2012年夏に完成して、その翌年にはすでにに次期モデルのアイデアを探っていました。当時はまだスイッチングアンプを採用する構想はなく、これまでの延長線上での進化を考えていました。

Marantz「PM-10」¥600,000(税抜)

この時点で次期フラグシップとして検討していたのは、終段無帰還アンプでした。マランツはアンプ開発のテーマのひとつに、スピーカーからの逆起電力の影響を最小化することを掲げて、パワーアンプ最終段のゲインをなるべく小さくすることに取り組んできました。逆起電力に動じない巨大な電源と出力部があれば言うことはないですが、限られたサイズのアンプにおいて、逆起電力への対策は重要です。

通常、パワーアンプのゲインは29dBが必要ですが、1段で29dBを確保するのではなく、2分割してスピーカーを直接ドライブする最終段のゲインをできるだけ低くする。こうすることで、スピーカーからの逆起電力の影響を抑えられます。マランツはパワーアンプ最終段のゲインを徐々に小さくしていきましたが、次期フラグシップでは最終段のゲインを0dBとすること、言い換えれば無帰還バッファーアンプを、目指す考えでした。

ーー はい。

澤田氏 2013年頃からこうしたアプローチに取り組んで、実験も始めていました。何の対策もなしに後段を無帰還にすれば、問題が生じます。無帰還アンプですから、NFB(ネガティブフィードバック)によるいわゆる“お化粧”ができず、聴感上は問題がなくとも、スペック上の歪み率が悪くなります。これらの問題をクリアするためのテストの一環として開発されたのが「HD-DAC1」(関連ニュース)でした。

ーー HD-DAC1は無帰還アンプを搭載したヘッドホンアンプですね。

澤田氏 はい。そしてHD-DAC1で、歪みの問題もある程度クリアできる見通しが立ちました。これが2014年の初めの頃ですね。日本サイドとしては、次期フラグシップはこの方向で行くつもりでした。

しかし、ちょうどこの頃、マランツヨーロッパが、これから先はトラディショナルスタイルのアンプが難しくなってくるだろうから、スイッチングアンプも検討したらどうかという要望を出してきたのです。

HD-DAC1(右)とHD-AMP1(左)。いずれもコンパクトなモデルだが、PM-10の開発過程における新技術のテストケースとなった

これまでのアプローチを転換することになりますが、それならばトラディショナルオーディオを多少なりと改善するというレベルではなく、大きく飛躍させる取り組みを行いたいと思うに至りました。そして、マランツの理想を考えたとき、それに最も近いのは、リファレンスとなっているプリアンプ「SC-7」とモノラルパワーアンプ「MA-9」でした。

当然、これらをそのままプリメインアンプの筐体に納めることはできません。それなら、SC-7とMA-9の内容をプリメインアンプに納めるための手段として、スイッチングアンプを使おうということに至ったのです。

たまたまそのときにM-CR611の企画が進行していて、それが「HD-AMP1」(関連ニュース)へと繋がっていきました。結果的にこれが、PM-10にスイッチングアンプを導入する上でのテストケースになりました。同じグループ内ではデノンがフルデジタルアンプである「DDFA」を搭載したPMA-50を手がけていたこともあり、様々なソリューションを試すこともできました。

ーー 様々なソリューションを検証する中で、Hypexのスイッチングアンプ・モジュールを採用するに至ったということですね。

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