HOME > インタビュー > 【開発者に聞く】マランツ「PM-10」は、“録音現場の音”を目指してスイッチングアンプを選んだ

音質担当が新旗艦プリメインを語り尽くす

【開発者に聞く】マランツ「PM-10」は、“録音現場の音”を目指してスイッチングアンプを選んだ

公開日 2017/03/30 13:38 構成 編集部:小澤貴信
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
SC-7と同規模のフルバランス構成プリアンプを搭載した

ーー 次にプリアンプについて教えてください。PM-11S3のアンプ回路はシングルエンド構成でしたが、PM-10はプリアンプも含めてフルバランス構成としました。

尾形氏 マランツのセパレート・プリアンプは、フルバランス回路を備えていることが大きな特長です。セパレートの構成をプリメインで実現すると掲げた以上、PM-10のプリ部をフルバランス構成にすることは必須でした。

プリアンプ部は三層になっており、最上段(写真左)がバランス回路、中段(写真中央)がアンバランス回路、下段(写真右)がフォノイコライザー回路となる

ーー 改めて、フルバランス構成の優位性とはどのようなところにあるのでしょうか。

村山氏 シングルエンドでは、スピーカーを駆動して戻ってきた電流がグランドを汚しますが、バランスではグランドが汚されることはありません。バランス伝送は長距離の伝送を必要とする業務機器だからこそ必要というイメージがあるかもしれませんが、グランドを汚さないという点でオーディオ再生においても有利です。

尾形氏 小信号を扱うプリアンプは、よりノイズに強いバランス構成であることは重要です。また、今回のようにスイッチング電源を用いている場合は、アナログ電源よりノイズは増えますので、自家中毒に対する対策という意味でもバランス構成とする意味があります。

尾形氏は、セパレートアンプを1筐体で実現すると掲げた以上、プリアンプをフルバランス構成とすることは必須だったと説明する

ーー パワーアンプが小さくなったとはいえ、SC-7と同等のバランス回路をこの中に収めるのは、工夫が必要だったかと思います。

村山氏 回路規模で言えば4ch分のアンプが入っているわけで、スペースファクターには苦労しました。ですから回路構成をなるべくシンプルにすることで、限られたスペースに各回路を納められるようにしました。PM-11S3と比較しても、回路構成はかなりシンプルです。HDAMをモジュール化して、立てて配置することで実装面積を減らすという工夫も行っています。


ちなみに、筐体の右側のプリ部は3段構成になっていて、上段がバランス入力とプリアンプ、中段がアンバランス入力、下段がフォノイコライザーになっています。

ーー PM-11S3は26.6kgありましたが、PM-10は21.3kgと質量は軽くなっていますね。

澤田氏 スイッチング電源、スイッチングアンプなので、本当はもっと軽くなっているはずなのですがね(笑)。

村山氏 PM-11S3より軽くなっているのは、ほぼパワーアンプのトランス分ですね。そしてスイッチングアンプ搭載でもPM-10があまり軽くなっていないのは、プリアンプ用に大型トランスを搭載しているからです。

ーー パワーアンプに対してはスイッチング電源、プリアンプに対してはアナログ電源が使われています。


パワーアンプ用のスイッチング電源。写真は1ch分となる
尾形氏 パワーアンプ用の電源はHypex社から購入しています。アナログで供給するという方法もありますが、この筐体サイズに納めるというスタンスからは選択肢に入りません。スペースファクターとセパレートアンプに匹敵する駆動力を両立させることを目指して、スイッチング電源を選びました。

ーー 出力は400W/chを実現しています。

村山氏 Hypex「Ncore」の仕様としては、余裕のある数字ですね。

パワーアンプは電源をL/R独立。プリはあえてL/R共通とする理由

尾形氏 パワーアンプのスイッチング電源は、LchとRchで完全に独立させています。これはモノラルアンプ「MA-9」を当然意識した結果です。さらにプリアンプ用のアナログ電源を1基と、合計3基の電源がPM-10のなかに納められています。電源についても、プリ+モノラルパワーのセパレートアンプと同様の構成を1筐体のなかで実現しています。十分な駆動力を得るためには電源は重要です。

ーー プリアンプの電源がL/Rで1つなのに対して、パワーアンプは電源をL/R独立させているのには理由があるのでしょうか。


プリアンプ用には大型トランスを搭載
村山氏 パワーアンプには大電流が流れますので、片chの負荷が大きくなるともう片chにも影響がでます。一方でプリアンプ用のトランスを流れる電流は小さなものなので、もう一方のchに与える影響はわずかです。これまでの経験からもプリアンプの電源はL/R共通にして、その分、大型で余裕のある電源を搭載するほうが望ましい結果が得られます。

澤田氏 プリアンプの電源を左右独立にする理由が、あまりないですね。流れる電流が少ないですし、左右で個別のトランスを使うと条件が変わってしまい、L/Rの音の統一感を得ることがかえって難しくなります。プリアンプはむしろ、L/Rで電源の条件が揃うことが重要でしょう。安物を2つ使うくらいなら、良いものを1つ使ったほうがいいです。SC-7もトランスは1つでしたし、コストも2個の場合と変わりません。

パワーアンプはL/Rで電源を分ける価値があります。スピーカーを動かした電流はもとの電源に帰ってくるので、電源がひとつだと、スピーカーから戻ってきた電流がLとRでミックスされて、必ず干渉が起こりますから。

次ページスピーカーリレーの排除によって音の純度をさらに高めた

前へ 1 2 3 4 5 6 次へ

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE