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<山本敦のAV進化論 第127回>

Netflix本社訪問レポート。マーベルの人気HDR作品を手がけるカラーリストの仕事とは

公開日 2017/03/17 10:58 山本 敦
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モバイルにも広がるドルビービジョン。その理由とは?

この日のツアーに参加して、筆者が特に興味深く感じたふたつのセッションについても報告しておこう。まず一つめは「スマートフォンにも広がるドルビービジョン」について。

2月の下旬にスペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress(MWC)2017」では、世界初のドルビービジョンのHDRコンテンツ再生に対応するHDRスマホ「LG G6」をLGエレクトロニクスが発表した。これに合わせて、ドルビーラボラトリーズとNetflixもタッグを組んで、LG G6の発売に足並みを揃えてドルビービジョン対応のコンテンツをリリースするという。

近年はNetflixの動画をスマホやタブレットなど、モバイル端末で視聴するユーザーが増えているそうだ。「中でも日本と韓国とインドの3カ国はNetflixのサービスがスタートして以来、モバイルユーザーの伸びが著しい国」とNetflixのChief Product OfficerであるNeil Hunt氏が語っている。「2016年末までに、登録アカウント数が全世界で9,300万人を超えたNetflixユーザーに、モバイル端末を活用して“いつでも・どこでも”快適にNetflixを楽しんでいただける環境を提供することは、いま私たちが最も力を入れて取り組むミッションの一つです」とHunt氏。

NetflixのNeil Hunt氏が同社のモバイル向けHDRコンテンツ製作について語った

同社のモバイル端末向けコンテンツ配信は、ユーザーがコンテンツを視聴している環境に合わせて、消費するデータ容量と画質のバランスを自動的に最適化するアダプティブストリーミング方式をベースに設計されている。これに加えて、昨年5月には、ユーザーが視聴環境に合わせてモバイルデータの使用量をマニュアルで選択できる機能が整備された。また続く11月には、モバイルアプリにダウンロード可能な作品をキャッシュしてオフライン環境でも見られる機能を追加した。

Netflixのモバイル視聴環境に対する取り組みについては、現地時間16日に実施されるNetflix本社のツアーで詳しく語られることになると思うので、これについては別の機会に改めて当サイトでレポートしたいと思う。

この日はモバイル環境におけるドルビービジョンのHDR技術の優位性について、ドルビーラボラトリーズのコンシューマー・エンターテインメント・グループのSVPであるGiles Baker氏が語ったので、その内容を紹介しよう。

ドルビービジョンのHDR技術の優位性を語るGiles Baker氏

ツアーの会場には2台のLG G6が並べられ、それぞれにドルビービジョンのHDRとSDRのコンテンツを表示しながら違いを見比べることができた。鮮やかな炎の輝きと色合い、金属の被写体が持つギラギラ感の生っぽさが、5.7インチの画面からでも活き活きと伝わってくる。

LG G6を2台並べて映像を比較。右がドルビービジョンのHDRコンテンツだ

Baker氏は「ドルビービジョンの優位性は画質だけにあらず」と強調している。「ドルビービジョンの場合、HDRに関連する付加情報をメタデータの中に“シーン単位”で格納しながら配信できるのが特長です。リサーチの結果、HDR10と比較して、ドルビービジョンは配信時に消費するパケット量を10%近くまで低く抑えられることがわかりました」。

さらに同じコンテンツをSDRでストリーミングした場合と比べて、ドルビービジョンのHDR映像は約15%も消費する電力が抑えられるという。まだLG G6が日本で発売されるのか明らかになっていないが、Baker氏がドルビービジョンによるHDR再生の優位性として掲げるポイントが、実機で試しても明らかな違いとして表れるのか楽しみだ。

生体データをリッチコンテンツの製作に活かすドルビーならではの研究設備

本稿の冒頭で触れたように、ドルビーラボラトリーズの本社には100を超える研究設備が充実する。今回のツアーではその中の一つである「Physiology Lab(生理学研究室)」に足を踏み入れ、ドルビーが研究を進める要素技術の一端に触れることができた。

100以上あるというドルビーの“ラボラトリー”の一つ「生理学研究室」を見学

いかにも研究所らしい雰囲気が漂う室内

こちらの部屋で我々ジャーナリストを迎えてくれたのは、ドルビーラボラトリーズのチーフサイエンティストであるPoppy Crum氏だ。Crum氏はコンテンツの映像や音声が視聴者の知覚に与える影響の解析を専門とするスペシャリストだ。今回は「脳波」と「心拍/発汗」を測定するセンサーを被検体となった人物が身につけて、さらにサーモグラフィーで「体温」を解析。テレビに映し出される映像や音声に対して、被検体が示す反応を専用のモニターでチェックできる環境が整えられた。

ラボの取り組みを解説してくれたPoppy Crum氏

そもそもなぜこのような研究が必要なのだろうか。Crum氏は次のように解説する。「当ラボではドルビーの様々な技術に応用可能な要素技術を研究しています。皆さんに馴染みが深いところでは、ドルビービジョンのHDR映像のリアリティを、視聴者がどれぐらい真に迫るものとして受け止めるかというデータも、こちらの施設で解析することができます」。

64個のセンサーを乗せたヘッドギアと、指先には発汗・心拍センサーを身につけた被検体(社員)

64個のセンサーから8つの脳波をピックアップ。心拍の変化と同一の画面でモニタリングしている

「一例として、炎の映像を映し出したときに、その映像の明るさや色合いを知覚した人物の脳波や発汗に何らかの反応が現れるか、これらのセンサーとモニターに表示されるグラフを通して可視化できます。そのデータを元に、どのようなコンテンツが視聴者に心地よい没入感を与えることができるのかを把握していくことにより、ドルビービジョンに限らず、今後当社が提案するVRやARなどを含む様々なテクノロジーの土台を固めるデータが揃います。またそのデータをパートナーとシェアすることで、よりリッチなコンテンツをユーザーの皆様にお届けできると考えています」。

サーモグラフィーのデータも映像や音による反応を監視する重要な手がかりになる

Crum氏以外にも、ドルビーラボラトリーズではそれぞれの専門分野に特化した研究者が数多く在籍している。ツアーの合間、本社のビルの中を歩き回ってみると、社員のために用意されたコーヒーブレイク用のカフェテリアやミーティングルームが実に数多く用意されている。建物の中の人口密度も最適なバランスに保たれているようで、社員が伸び伸びと働けるフリースペースが十分すぎるほど確保されている。筆者も、人生で一度はここで働いてみたいものだと羨ましく感じたほどだ。

やたらと天井の高い開放的なエントランスホール

ゲストを出迎えるレセプションホールも実に広々としている


オフィスの廊下や階段のスペースも悠々としている。アーティスティックなインスタレーションのセンスもいい

日本で言うところの“社食”も完備。こちらで働く社員の姿もちらほらと


整然としたオフィスで社員が伸び伸びと働く姿が印象的だった


PCやモバイル端末の周辺機器を”即買い”できる自販機も用意。キーボードなど酷使しながら心置きなく仕事に没頭できる

16階立てのビルのテラスから、サンフランシスコの街並みを見下ろす

『アイアン・フィスト』は3月17日に世界同時公開

そしてこの日のツアーは『アイアン・フィスト シーズン1』の特別プレミア上映で幕を閉じた。本作はニューヨークの大富豪の家庭に生まれた主人公ダニー・ランドが炎の神技“アイアン・フィスト(鋼の拳)”と常人離れした体術を身につけ、街にはびこる犯罪組織と壮絶なバトルを繰り広げるアクションドラマだ。

本社のドルビーシネマを訪問

主人公のダニーが“鋼の拳”に秘められたパワーでNYの街にはびこる悪の組織と闘う

ダニーを演じるのは人気の若手俳優フィン・ジョーンズ。Netflixとマーベルがタッグを組んだオリジナルドラマも『アイアン・フィスト』がいよいよ4作目。これに続く展開として、4人のヒーローがチームを結成してニューヨークの街にはびこる巨悪と闘う『Marvel ディフェンダーズ』の製作も決定しているという。筆者も続きの2話目以降が待ち遠しくて仕方がない。17日の解禁後は、『アイアン・フィスト』の全13話を“いっき見”しようと思う。

主人公のダニー・ランドを演じるのはイケメン俳優のフィン・ジョーンズ。HDRのポテンシャルを活かしたダイナミックな明暗表現が楽しめる映像に仕上がっている

ところで今回のレポートは、Netflixのツアーイベントにも関わらず、内容はドルビーラボラトリーズの話題が中心となった。Netflixの本社ツアーで体験した内容については、機会をあらためて、当サイトで報告する。

エントランスのスクリーンにウェルカムムービーが映し出される

全237席の広々としたシアターは、映画・音楽のコンテンツ上映に活用されるほかにも、ミキサー卓などを設置して本気の研究設備としてフル稼働している


上映には2台のレーザープロジェクターを使用する

デモ映像が上映された後に『アイアン・フィスト』の第1話がお披露目された


(山本 敦)

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