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<山本敦のAV進化論 第127回>

Netflix本社訪問レポート。マーベルの人気HDR作品を手がけるカラーリストの仕事とは

公開日 2017/03/17 10:58 山本 敦
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Netflixとマーベル・コミックスが共同製作するオリジナルドラマシリーズ第4弾『Marvel アイアン・フィスト シーズン1』の配信が、3月17日午前0時(日本時間では夕方16時)にスタートする。対象はNetflixがサービスを提供する世界190カ国。

Netflixとマーベルがタッグを組んだオリジナルドラマ第4弾『アイアン・フィスト』

本作の公開に合わせて、Netflixの制作の現場や同社の最先端技術をジャーナリストに公開する、米国本社のツアーイベントが実施されている。筆者も日本から招かれた代表の一人として参加しているので、本連載でイベントの様子を現地からレポートしたいと思う。

Netflix&マーベルの全4作を手がけたトップ・カラーリストの神ワザに触れた

ツアーイベントは現地時間3月15日・16日の2日間に渡って行われる。初日は同じサンフランシスコ市内に本拠を構えるドルビーラボラトリーズを訪れ、いまNetflixが最も力を入れて取り組むHDR作品の制作現場の舞台裏をのぞくことができた。

Netflixの本社ツアーだが、初日はコンテンツ製作のパートナーであるドルビーラボラトリーズ本社を訪問。舞台裏を取材できた

筆者にとっては、初めてドルビーラボラトリーズ本社を訪れる機会となった。立地はサンフランシスコ一番の目抜き通りであるマーケット・ストリート沿いの賑やかな場所。誇らしげに“Double-D”のブランドロゴを掲げた16階建てのビルには、100を超えるラボ=研究設備がひしめき合っているという。

レトロな雰囲気のトラムが路面を走るマーケット・ストリート沿いのドルビーの本社がある

この日のツアーは、参加した50名前後のジャーナリストを10人前後のグループに分け、それぞれが順繰りに小分けにされたセッションを体験していく形式で行われた。筆者が所属した一行は、まず最初に『アイアン・フィスト』のカラーグレーディング(色調調整)を担当する米Deluxe Entertainmentのグループ会社Encore社のカラーリスト、Tony D'Amore氏が働く現場を訪れた。

Netflixオリジナルのマーベル作品の全4作を担当したカラーリストのTony D'Amore氏

カラーリストとはデジタル映像の“色づくり”を専門に担当するスペシャリストである。映画の本場であるハリウッドでは花形の一つだが、映像作品の監督やメインカメラマンが彼らの“意図した通りの映像”を仕上げるためにはカラーリストの存在が不可欠だ。

例えば撮影したタイミングや機材がバラバラに異なる映像も、カラーリストの手にかかれば一体感あふれる世界観にまとめあげられる。また、世界観を十分に理解したうえで、あるシーンのカギを握るテーマカラーを際立たせたり、色にまつわるアグレッシブな演出を施してストーリーを紡ぐという仕事も、カラーリストのミッションに課せられることもある。

D'Amore氏は現在公開中の『デアデビル』や『ジェシカ・ジョーンズ』『ルーク・ケイジ』、そして最新作の『アイアン・フィスト』を加えて、Netflixが配信するマーベル4作品のカラーグレーディングを担当している。背丈は190cm近いイケメン。この日はジャケットを着てジャーナリストからの質問に対して職人らしい朴訥とした語り口ながら、丁寧に答えを返してくれる様子がとても好印象だった。

D'Amore氏の仕事場にはドルビービジョン対応のリファレンスモニター“パルサー”が2台並べられ、それぞれに『アイアン・フィスト』のHDR版とSDR版を表示。Blackmagic Designの統合編集ソフト「DaVinci Resolve」を操り、映像の色を整えていくD'Amore氏の鮮やな手さばきを目の当たりにできた。本来ならばD'Amore氏の“神ワザ”を写真や動画に収めてアップしたいところだが、残念ながら現場ではモニターに作品が映り込んだ画面や編集機材まわりの撮影が禁止されていた。

HDRテクノロジーの効果について、D'Amore氏は「映像のダイナミックレンジを高め、コントラストや色再現を改善できるだけでなく、例えばDolby VisionによるHDRグレーディングを行った映像は、被写体のフォーカスがきりっと引き締まったり、質感までもリアルに蘇らせる効果が得られます」と語っている。同じ性能のディスプレイを並べた環境でチェックしてみると、D'Amore氏が指摘する“違い”がより明らかに浮かび上がってきた。

先述した通り、カラーリストとはポストプロダクションの段階で色彩をはじめ、デジタル映像に様々なチューニングを施すことで監督やカメラマンが意図した世界観に映像の出来映えを導くスペシャリストだ。

「マーベル作品についてはそれぞれ「『デアデビル』では悪の巣窟である“ヘルズキッチン”の緊迫した雰囲気を引き立たせるためにブラックの色調を整えながら、グリーンやレッド、イエローといった鮮やかな色を射しこませるテクニックを活かしています。『ジェシカ・ジョーンズ』では主人公のクールな雰囲気を引き立たせるため寒色系のカラーパレットを丁寧にチューニングしました。さらに『ルーク・ケイジ』では作品が誕生した1970年代の、ニューヨーク・ハーレムの雰囲気がインスパイアできるようにオレンジの色を引き立たせています」。

D'Amore氏の解説はさらに最新作へと続く。

「『アイアン・フィスト』については、初めて撮影の段階からHDRで製作した“HDRネイティブ”のマーベル作品だったので、明暗をダイナミックに描き分けることに腐心しました。中でもストーリーで重要なカギを握るホワイトの色合いは、ぜひ作品が公開された際に注目して欲しいですね」。

筆者もNetflix作品の中では特に『デアデビル』がお気に入りだが、本作はとりわけ屋外は真夜中、屋内も暗いシーンが多用されるダークなイメージの作品だ。

ところが『アイアン・フィスト』はこれとは真逆で、はたから見ればとても大変な過去を背負っているのに、不釣り合いなほどカラっとしたポジティブな性格の主人公を象徴するような、明るいシーンが多用される。

屋外と屋内のシーンチェンジも頻繁にあるので、「色調をキープしたまま輝度をコントロールしたり、HDRらしい精彩感を活かしながら一つひとつのシーンに含まれる映像の情報を整えていく作業はハードでした。でもそれはカラーリスト冥利に尽きると言えるほど、とてもやり甲斐のあるものでした」とD'Amore氏は、仕上がり具合を満足そうに振り返る。

例えば主人公が悲しみに暮れるシーンでは、役者の表情や台詞に加えて映像の色合いもドラマのエモーションを伝える重要なキーファクターになる場合がある。『アイアン・フィスト』第1話の中に、明るい晴天の屋外で、主人公が自身の壮絶な過去を顧みながら涙も流さずに哀しみに暮れる場面がある。ここでもD'Amore氏による“色のマジック”がスパイスを効かせることによって、一面に悲壮感が漂う映像に仕上がっている。配信が開始された際、ぜひチェックしてほしいポイントだ。

ドルビービジョンのHDR技術について、D'Amore氏は「精度の高いメタデータを管理しながら、ディスプレイごとに最適化した再マッピングを行えることが、作り手にとっても大きなアドバンテージになると感じています」とコメントしている。

またHDR、SDRのいずれの器(=受像機器)に対しても、制作者の意図を忠実に再現できる技術的な強みがドルビービジョンにあるとD'Amore氏は太鼓判を押す。

同氏は、『アイアン・フィスト』のようにHDRネイティブで製作されたコンテンツについては、撮影の時点から輝度のピーク箇所の歪みなどがケアされているので、ポストプロセッシングが比較的容易であること、また将来の技術にもスムーズに対応できる余力が担保されていることがメリットになるとし、さらに「『デアデビル』のように、元はSDR収録されたコンテンツをネイティブHDR作品と変わらないクオリティに仕上げていくことも、私たちカラーリストの腕の見せどころです」と目を輝かせながら語ってくれた。

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