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細部までこだわり抜いた新しいマイルストーン

デノンの旗艦ヘッドホン「AH-D7200」の設計思想を、開発キーマンが語り尽くす

2017/03/17 構成:編集部 小澤貴信
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こだわり抜いたウォールナット製ハウジングが生み出す“唯一無二の響き”

ーー ウッドハウジングですが、AH-D7000ではマホガニー材が使われていたのに対して、AH-D7200では新たにウォールナットが採用されました。

福島氏 様々な種類の木材を検討した上で、ウォールナットを選びました。AH-D7000で用いたマホガニーは、より軽くて鳴きやすく、そして材質が柔らかくて加工がしやすいことが特徴です。このマホガニーをベースに考えて、まず他に柔らかい木材がないか探しました。音質がベストであることはもちろん、加工可能な適度な硬さを備えることも重要です。

それから、あまり伸び縮みがしない木材の方が良いですね。伸び縮みが大きい木材は、製造から何年か経過すると材木の形状が変化して音質が変わってしまうため、ヘッドホンには向きません。こうした点を踏まえ、カリンなどいくつかの木材が候補に挙がりました。

ウォールナット製のウッドハウジングを採用

ーー イヤーカップに木材を使うということは、様々な計算が必要なのですね。

福島氏 過去には苦い経験もありました。特に急いで乾燥させたりすると、後々になって歪んできてしまいます。

ーー 品質にもこだわられているというお話ですが、木の加工にも気を使われているのでしょうか?

福島氏 その通りです。ウォールナットを選んだ理由のひとつに木目の美しさもありますが、木を切ってからご覧の状態になるまでには8ヶ月から1年を要します。それくらいの時間をかけて乾燥させないといけません。加工にも高い技術が必要です。

ーー 加工や品質管理が難しくても、ウッドハウジングを採用する理由はやはり音の良さでしょうか。

福島氏 フラグシップモデルにウッドハウジングを採用するというのは、デノンのこだわりのひとつです。そして、プラスチックなどの素材と比べると、ウッドから得られる音質は替え難いものです。アルミをはじめハウジング素材の選択肢は多いですが、我々はウッドを加工して良い音を作ることに歴史を持っています。加工の方法ひとつとっても、様々なノウハウがあるのです。

ーー 製造工程の画像を拝見していますが、本当にひとつの木材から、ハウジングを削りだしていくのですね。

福島氏 ウッドハウジングは、その1つ1つで木目も色もまったく同じということはありません。しかし、L側とR側で見た目があまりにちがっても問題なので、なるべく両方の木目と色が合うようにコントロールしています。

ウッドハウジング製造の様子。1番奥の木製のブロックから削り出されていく過程が見て取れる

ーー それはまた大変な作業ですね。

福島氏 なるべく近い木材の部位を選んだり、加工したハウジングを木目の色の濃さで分類して左右が合うように組み合わせを調整したりします。こうすることで見た目に加えて、音についても左右でバランスが取れるようになるのです。

ーー こういったお話を伺うと、工業製品というよりは、装飾品を作り上げているようですね。

福島氏 スピーカーシステムもそうですが、ヘッドホンというのはやはり見た目の美しさも重要な要素です。手に取った時の手触りや“本物感”のようなものも大事にしています。だからこそ、ウッドの仕上げもAH-D7000と比べるとマットな質感にして、木の触感がより分かるようしました。メタルのハンガーの質感にもこだわっています。DENONのロゴも彫り込みです。所有する喜びを届けていることを意識して、細部の仕上がりにまで注意を払っています。

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