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【特別企画】開発者インタビュー

ハイレゾが普及したいま、改めて見直す“原音忠実” − Sound Realityシリーズ誕生の舞台裏

2016/12/16 山本 敦
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目指したのは、スピーカーで聴いたときに近い音
ドライバー設計にもじっくりと時間を掛けた


安藤氏曰く、オーディオテクニカのヘッドホンは一定のユーザーから“音が近い”と評価されることもあったため、SR9では音場に対して、これまで以上に気を配ったという。

「他社のヘッドホンには“スピーカーで聴いているような音場感”を特徴としてうたう製品もあります。オーディオテクニカはヘッドホンメーカーなので、ヘッドホンでしか出せない音を追求すべきと考えてきました。目指している音の方向性が異なっているというだけのことなのですが、皆さんがそんなに言うなら、音質に対する信念はそのままに、新たなチャレンジをしようということになりました。ドライバーの設計にはいつもより時間をかけています。最終的には透明度が高く、広がりの豊かな音にうまくチューニングできたと自負しています」(安藤氏)


SR9のサウンドは全体に素直で嫌味なクセがなく、どの帯域の音も芯にあるエッセンスを力強く引きだしてくる。空間の再現性に注意しながら聴いてみると、MSR7と比べてSR9では音像の定位がより奥深く立体的に描かれる。ホールで演奏されたオーケストラやロックのライブパフォーマンスなどを聴いてみると、頭の中に浮かぶリアルな情景が先入観として持っているライブ演奏の脳内イメージと自然にシンクロする。広々とした空間にあふれる音の粒の、一つひとつにピタリとフォーカスが定まっている。

かたやMSR7はスムーズで滑らかな音のつながり感を持ち味としたヘッドホンだ。SR9の発売後もMSR7はSound Realityシリーズのラインナップとして併売されるので、聴き比べて自分の好みに合う音を選ぶ楽しみがさらに広がったというわけだ。


快適な装着感。リケーブル対応で音のカスタムにも対応

新しいSR9の特長として特筆しておきたいのが、とても快適な装着感だ。重さはMSR7よりも20gほど軽い。ポータブルヘッドホンの上級機と聞けば、なんとなく重くて持ち運びには不便という印象を抱きがちだが、SR9はアウトドアもインドアも、どちらもリスニングの主戦場にできるオールラウンドプレーヤーだ。

快適な装着感を実現している一つの大きな要因はイヤーパッドにあると思う。奈良氏の説明によれば、クッションには温度特性が高く、人の体温に反応して形状が変化しやすい特殊なフォーム素材が使われているという。これを滑らかな肌触りの合皮で包み込んでいる。このフォーム素材は装着時に圧力を均一に分散する特性にも優れており、顔の形に柔らかく沿ってくれるので、長く身に着けてもプレッシャーはほとんど感じない。スライダーとの隙間にも余裕があるので、筆者のようにメガネをかけながらでも快適な装着感が得られる。

イヤーパッドには人の体温に反応して形状が変化する特殊なフォーム素材を使用。装着性をさらに高めた

本体はハウジングやスライダーなど要所にアルミニウム素材を使った。筐体の不要な鳴きを抑えるために、パーツどうしの固定には接着剤だけでなく金属のネジも使ってしっかりとビス留めしている。ハウジングの表側を見ると、大きく配置したオーディオテクニカのシンボルロゴの周囲に3つのビスが整然と並んでいる。これがデザインのアクセントにもなっていると思う。

MSR7もリケーブルによる音のカスタマイズができるヘッドホンだが、SR9では音質をさらに重視して両出しタイプのリケーブル仕様としている。コネクターにはオーディオテクニカが独自にオーディオ専用設計の端子として開発したA2DCが採用されている。

A2DCコネクターによりリケーブル仕様に。断線時の交換が容易になったのはもちろん、別売のケーブルで更に音質を追求するという楽しみも新たに生まれた

「ユーザーにとっての利便性、セキュアな使い勝手を考えてA2DCを採用しています。A2DCは昨年に当社が対応製品を発表して以来、おかげさまでその特性へのご理解が徐々に広がり、対応製品を順調に増やすことができました。今回はSR9にも対応するリケーブルとして、添付の純正着脱ケーブルに加えて、グレードの高い『HDC113A/1.2』を同時発売しています。音の違いなど、カスタム要素を楽しんでいただけるよう、オーディオテクニカとして時代ごとに変化する音へのニーズや進化する接続機器に合わせた質の高いリケーブルを展開していきたいと考えています」(奈良氏)

次ページ続いてATH-DSR9BTの特徴と誕生背景に迫る

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