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独自DACに立ちはだかったハードルとは?

マランツのサウンドマネージャーが語る「SA-10」開発秘話【2万字インタビュー後編】

2016/12/16 構成:編集部 小澤貴信
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受け渡されたサウンドマネージャーのバトン

ーー SA-10とほぼ同じタイミングで、B&Wの旗艦スピーカー「800 D3」が登場しました。マランツの試聴室のリファレンスも、802 D3から800 D3へと交代しましたが、SA-10の音作りに800 D3は使われましたか。

澤田氏 800 D3を使ったのは本当の最後だけです。

尾形氏 音作りのほとんどは「802 D3」でやっていました。800 D3か802 D3かというよりは、やはり「800 Diamondシリーズ」から「800 D3シリーズ」に交代したことが大きかったです。抵抗を1つ替えても、800 D3シリーズではその違いがあからさまに把握できます。その意味では、SA-10を手がけたタイミングもよかったのです。

マランツ試聴室に設置されたB&W「800 D3」(左)と「802 D3」(右)

ーー 2016年3月にマランツのサウンドマネージャーが澤田さんから尾形さんにバトンタッチされました。SA-10の開発の途中で、澤田さんから尾形さんにサウンドマネージャーが交代されたということでしょうか。

尾形氏 そうですね。

澤田氏 実際の交代は2016年3月でしたが、2014年の時点ではサウンドマネージャーの体制をどういうふうにしていくかを決めていました。私が定年になる1年前には尾形を後任に指名して、最後の1年間は尾形にアシストしてもらっていたのです。音質検証も一緒に行っていました。

現在は正式にサウンドマネージャーを交代しましたが、1年間は移行期間として、私も音質検討などに可能なかぎり同席しています。同席しても実はあまり真剣に聴いてないのですが(笑)。もうほとんど全てを尾形が聴いて判断していますからね。

ーー サウンドマネージャーの交代と聞いて、マランツサウンドがどのように継承されるのか不安に感じたファンもいたでしょうが、この話を聞けば安心するでしょう。

澤田氏 ですから、サウンドマネージャーが交代したといっても、いきなり音質検討をする人間が変わったとか、試聴室の作り方も変わったとか、そういうことではないのです。交代については、かなり余裕を持って行えたと思います。

サウンドマネージャーが担う役割

尾形氏 製品の音質を詰めていくとき、そのプロセスは基本的にステップ・バイ・ステップで、ひとつのアプローチを前後比較していきます。

比較においてはもちろん私が聴きますが、隣には澤田がいて、エンジニアも同席します。そして、その1つのアプローチに対して、良し/悪し、あり/なしの判断をひとつひとつ積み上げていくことで、音をまとめ上げていくのです。大枠では、私自身の判断には自信を持っているので迷うことはほとんどありませんが、稀に「これはどうかな」というときもあります。そういうときは澤田にアドバイスを求めますね。

サウンドマネージャーの役割や、そしてバトンタッチの過程を説明する尾形氏と澤田氏

澤田氏 サウンドマネージャーと聞くと、まるで独裁者のように振舞って、全てを独断で決めてしまうと思われる方も多いでしょう。しかし、確かに判断はしますが、かといって全てを単独で決定するというのではありません。やはり様々な人に聞くわけです、「これはどう思いますか」と。

また、判断の対象となる“音そのもの”も、さらには試聴条件や体調も、常に変動します。こうした判断基準の変動に対して、その変動にふさわしい誰かに同席してもらうということもあります。ただ、最終的な決定はサウンドマネージャーに委ねられています。

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