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独自DACに立ちはだかったハードルとは?

マランツのサウンドマネージャーが語る「SA-10」開発秘話【2万字インタビュー後編】

公開日 2016/12/16 09:30 構成:編集部 小澤貴信
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ーー こうしたお話を伺うと、ディスクリートDACという発想があったとしても、誰にでも実現できることではないということがよくわかります。

尾形氏 かなり手間暇のかかるものであることは間違いないです。

澤田氏 DACに対する深い知識が必要なのです。アナログフィルターについても、アマチュアやガレージメーカーならば、音が良ければいい、歪についてもダイナミックレンジが90dB以上あれば人間の耳には聴こえないと割り切ることができるでしょう。しかし私たちは量産メーカーですから、スペックも満足できるものにしなくてはいけません。また、44.1kHz/16bitのCDを再生するだけでなく、USB入力も備えているので、ハイレゾリューションにふさわしい性能が必要になります。

SA-10のデジタルオーディオ回路。ディスクリートDACの前段(MMM-Streaming)を含んでいる

ーー そこはメーカーとして、音質だけではなく品質まで追求しなくてはいけないという難しさですね。

尾形氏 DACの性能を確保するノウハウは、基板上のアプローチだけでなく、プログラミングの部分もあります。性能を出すために、デジタル上のアルゴリズムを修正することもありました。汎用チップを使うときとは、全く異なる悩みです。

MMM-Streaming

澤田氏 汎用DACチップを使うのにも、各メーカーはいろいろな工夫をしていますが、正確に動いて性能を確保するだけなら、デバイスメーカーが用意している推奨回路をそのまま使えば、それで済むのです。

尾形氏 基本的に“この性能が出るはずです”という保証をメーカーがしているので、その性能が出なければ何かおかしいわけです。それが汎用チップを使う理由でもありますが。

ーー 全てをオリジナルで開発する以上、他人から保証されるものは当然ないわけです。

澤田氏 チップメーカーがテストボードを作って「このように使えば少なくとも性能は出ます」ということです。あとは音をどうするのかセットメーカーで決めてくださいという感じですからね。その一方で、全てをオリジナルで作るとしたら……。

尾形氏 閻魔帳も虎の巻もありませんからね(笑)。

音質優先で最小限の構成にできるのもディスクリートだからこそ

澤田氏 汎用DACチップはよくできています、多様なメーカーに売らなければならないですから。だからこそ使用する上でトラブルが起きないように、ミューティングや安全回路の類いがたくさん入っています。ところがディスクリートDACは、それらが一切ないところからスタートするわけです。

尾形氏 そしてディスクリートであっても、品質の上では汎用DACと同等以上の水準を満たさなくてはいけません。ユーザーからすれば当たり前のことで、ディスクリートだからノイズが出て良いなんてことはありません。

SA-10のアナログオーディオ回路。ディスクリートDACの後段(MMM-Conversion)を含んでいる

澤田氏 逆に言えば、汎用DACやオペアンプICは、様々なユースケースを想定しています。よって、障害になりそうな発振をしないように、ポップノイズを出さないように、電源の影響を受けないようになど、様々な事態を考慮して安全回路が入ってます。

しかしこうした安全回路は、得てして音質を追求するには余計なものです。ですからディスクリートDACを組めば、オーディオ機器には不要で、むしろ悪影響のある要素を最低限に抑えることができます。だからディスクリートDACは、よりストレートな音が狙えるのです。

MMM-Conversion

ーー 理に適ったお話ですね。

澤田氏 一方で汎用DACは、思想も使い方も異なる各オーディオメーカーが、それぞれ使えるように作られています。だから汎用DACには使い手によって不要な機能も多いですが、汎用なので仕方ありません。

ディスクリートDACなら全て任意で選べます。オペアンプICをなるべく使わないのはマランツのポリシーですが、オペアンプの回路図を見ると、アナログアンプでよくもここまで複雑なことをやっていると感心してしまうくらい、安全装置がいっぱい入っています(笑)。DACチップでもそれは同じです。

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