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[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

【第138回】実録:FitEar 須山氏×Just ear 松尾氏スペシャル対談『あなたのお耳にジャストフィット!』

公開日 2015/11/20 11:00 高橋 敦
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■FitEar Air「ショートレッグシェル」

高橋: ということで「ダイナミックレンジを確保するための遮音性」は譲れないというFitEarの新作がこちらの…

須山: このFitEar Airでは「ショートレッグシェル」と名前を付けたんですけど、これで耳の穴の中にスペースを稼いで、振動板をストレスなく動かすのに足る空気容積を確保する仕組みです。

従来のイヤモニよりノズル(足)が明らかに短い「ショートレッグシェル」

後ほど解説される「レイアウトの自由度」についての図説

高橋: 先ほど話題に出た、密閉された空間では空気のバネ性で振動板の動きが阻害されてしまうという問題に対して、その密閉されている空気の容積を大きくすることで、空気の抵抗・跳ね返りを少なくするということなんですよね?

須山: 容積を大きくすることで、気圧変化がなくなるわけではないんだけれど、無視できるようなところまでは下げられるという感じです。こんな何mm程度のことで変わるのか?と私自身も思っていたんですけど、変わるんですよね。

高橋: いまツイートで「体積変化率」というワードが出ましたけれど…

須山: 素晴らしい!基本私はガチ文系でそういうことはわからないので「トンチエンジニアリング」なんて呼んでますけど…

松尾: 須山さんのそういうアプローチってすごく的を得ているなと思っていて。ソニーのような企業だと理系の発想で開発することも多いですけど、音は物理法則なので、何となくイメージした音が実際にそうなる場合が多いと思うんです。うちの諸先輩は「空気の気持ちになって考えろ」って言うんですよ。空気の気持ちになったときに「窮屈だな」「通りにくいな」って感じると、実際に音もそういう音になる。FitEar Airも、狭い部屋ではなく広い部屋でなら空気も振動板も気持ちよく動けるという、すごく自然な発想だと感じます。

高橋: いままでこういった極端なショートレッグシェルが採用されてこなかったのは、ステージモニターとして考える分には何かしらの問題があったんですか?

須山: ステージモニターというか補聴器としての観点なんですが、例えばボーカリストの方で声を張ったり裏声のファルセットを出したときに、頭の中で響きすぎてもう着けてられないという方が時々いるんです。シェルのノズルをなるべく奥まで入れておくと、それが起きにくくなる場合があります。

高橋: ノズルと鼓膜との間にスペースがあると、その空間に特定の音だけが響きすぎる「共鳴の癖」みたいなものができてしまう場合がある?

須山: そうです。外耳道閉鎖効果というのも、イヤモニで響いてしまう帯域をPAさんがミキサーのEQでカット処理してくれたりもします。でも補聴器だとそれほど簡単ではないというのと、聴くだけでなく生活の中で自分の声を発する前提で作る必要があります。そこは、補聴器の世界ではすごくいろいろな取り組みがされてきたんです。

その経験があった上で、FitEarだけでなくCIEMを代表するようなブランドはだいたい補聴器畑の人間がエンジニアでしたので、何となく「このへんまで(ノズルを伸ばしておいた方がいい)ですよね」というのがあった。でもコーラスしないプレイヤーだったり音楽リスナーだったり、自分で声を出さないユーザーのための製品なら「これ別に(この長さ)いらなくね?」と。で、やってみたらこの手前までの短さでもだいじょうぶだとわかったので、今回はこうなりました。

高橋: 密閉性を確保しつつダイナミック型ドライバーを搭載するためのこのショートレッグシェルなんですが、この構造自体がこのFitEar Airの音にも大きく影響しているのかなという気もしたのですが…

須山: これが実はそうでもなくて、密閉空間に最低限の容積を確保できれば、その範囲内では音が大きく変わってしまうことはないです。ただ、音がノズルから出た先は変わらなくても、そこから音が耳に送り出されるまでのところに音が変わってしまう要素がいままではありました。耳の穴の狭い人と広い人ではノズル内の音導管やドライバーの配置の自由度に差があるので、耳の小さい人だとアコースティックな観点からベストな配置にできない場合もあったんです。例えば高域用の音導管の長さや太さをベストにできなくて、高域の減衰を思った通りに調整できなかったり。でも耳の穴ってテーパーがあって奥よりも入口の方が広くなるので、入口付近で塞ぐショートレッグなら広さを確保しやすくて、その問題に左右されにくいんです。それにドライバーユニットの配置も楽になりました。メリットが多いので、今後BAモデルにも使えないか試作をしているところです。

松尾: ショートレッグでありながら気密性を確保できるようにフィッティングできるというのは、やっぱり経験なんだろうなと。ここは長くすることで密閉させようと考えがちなんですけど。

須山: あとショートレッグだと装着感も楽なんですよ。自分で長時間フライトの耳栓代わりに使ってみたりもしたんですけど、疲れにくくて違和感が少なかったですね。

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