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[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

【第138回】実録:FitEar 須山氏×Just ear 松尾氏スペシャル対談『あなたのお耳にジャストフィット!』

公開日 2015/11/20 11:00 高橋 敦
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■ハイブリッドという選択〜Just ear編〜

高橋: 対して松尾さんは「振動板面積至上主義」を掲げていらっしゃって、そうなるとダイナミック型をベースとした構成にするのは当然ですよね。そもそも構想初期にはダイナミック型一発で行きたかったなんて話も伝わってきていますが…

松尾: Just earを始める少し前のタイミングで、ソニーから「MDR-EX800ST」と「MDR-EX1000」という非常に大きな16mm口径の振動板のイヤホンを世に出してるんですけど、実は作るまでに3年くらいかかったんですよ。「インナーイヤーで高音質にするには何ができるか?」を3年間研究し続けて、たどり着いたのがあの2機種だったんです。

高橋: あのモデルは耳の穴に対してドライバーを並行ではなく垂直に配置する「バーティカル・イン・ザ・イヤー」方式で、それまでの配置では到底耳に収まらなかった大口径ドライバーの搭載を実現していましたね。

まずは「MDR-EX90」でイヤーピース&ノズルと本体を分離することで大口径のスペースを確保する「この形」を発明

そしてさらなる大口径を実現するために発案された「バーティカル・イン・ザ・イヤー」方式がこちら

松尾: それ以前に使っていた9mmから、「MDR-EX90」で13.5mmにまで口径を大きくできたことで音質的なアドバンテージを得られたので、じゃあもっとドライバーを大きくしたらさらによくできるんじゃないかという単純な発想で始めた方式です。EX90のドライバー配置だと、それを超える大口径ドライバーは耳の中に収まらないので、横にしました。最初に採用したのは「MDR-EX700」ですね。横にすることによる弊害もあったんですけど、それらも解決して800STやEX1000ができていったんです。そうやって大口径化していくことで特に差が出てきたのはベースの帯域で、大きな振動板で鳴らした方がよりナチュラルな音がするというのは実感としてありました。

須山: 絶対条件ですよね!

高橋: 先ほど須山さんもベースを挙げていましたし、ベースのように基音の低い楽器は、その上に積み重ねる倍音まで含めて音色全体がより幅広い帯域に渡るので、その中での感触とかつながりのよさを感じやすいのかもしれませんね。

松尾: あとですね、先ほど須山さんから「ダイナミックを食わず嫌いしていた」というようなお話がありましたけど、私は私でBAに対してジェラシーみたいなものがありまして…

須山: ジェラシー!

もはや「なぜ白衣?」に誰も疑問を持たなくなっている松尾氏だがそのクールな外見の中には「静かな嫉妬」も…

松尾: 私はずっとソニーのダイナミック型インナーイヤーを開発していたんですけど、バランスドアーマチュアドライバーが持っている良さも感じていたんです。そんな中でソニーが「XBA」というBA型モデルのシリーズを立ち上げまして、そちらはまた別の開発メンバーだったんですよ。で、私はそれを横目に見ながら、「あれはあれで面白そうだな」と。実はそのときにはもう、BAの良さを兼ね備えたハイブリッド構造のイヤホンも考えていたんですよ。

須山: なるほど。

一方、誰にも「クール」とは思われていないであろう須山氏

松尾: Just earを立ち上げるときにも「BAを使ってみたい」というのはあったんですけど、BAについての開発経験がなかったので、初めての取り組みで果たして使いこなせるかなと。それで当初は経験のあるダイナミックで作ってみようと考えたんですが…カスタムのシェルに収められる振動板の大きさの限界で早々に諦めまして…

須山: ああ…う〜ん、なるほど。

松尾: そこで考えを切り替えて、前から考えていたハイブリッドにすることで解決できないかなと。それでいまのJust earの原型ができてきたんです。

野村: 面白いですね。ちなみにカーオーディオはデジタルオーディオが全盛で、トゥイーター、ウーファー、スーパートゥイーター、サブウーファーのクロスオーバーを、どの周波数帯域で分割してそれぞれのドライバーに割り当てるかをぜんぶ自分でコントロールできるんです。それで私もいろいろと試してみたんですが、音楽的に肉感のある音になったのが、「全帯域を鳴らすフルレンジをウーファーに使い、そこにいかにトゥイーターを重ねるか」のセッティングを突き詰めることだったんですよ。今のお二人の話を聞いて、ダイナミック型の弱点をトゥイーターで補うという、それと近い手法なのかなと感じました。

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