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音質担当の澤田氏との開発エピソードも披露

マランツ「HD-DAC1」設計担当者に聞く “キャリア集大成” モデルに込めた想い

公開日 2015/01/23 12:56 構成:編集部 小澤貴信
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内緒で量産直前に高級パーツ「メルフ抵抗」を採用してしまった

八ッ橋 HD-DAC1は音を徹底的に追い込んだだけでなく、このクラスの製品では普通は使わないような部品も使っています。例えばSA-11S3やNA-11S1などのクラスでのみ使っている「メルフ抵抗」という特殊な部品をHD-DAC1では使っているのです。

ーー メルフ抵抗というのは、お値段的にも高いのですか?

八ッ橋 全然高いです。普通の抵抗の20倍とか30倍はしますよね。

ーー 20倍とか30倍!!?

高山 しかも八ッ橋は、量産直前のギリギリのところでいっきにメルフ抵抗への差し替えを行ったのです。それでコストが跳ね上がってしまったのですが、もう直前だから止めようがないという…。

こちらは最終段で差し替えられたというコンデンサーが配置された基板

ーー 引き返せないところで、やってしまったという。そういえば、八ッ橋さんが内緒でHD-DAC1に採用してしまった部品もあったというようなお話をうかがったのですが…。まさか、それはこのメルフ抵抗のことですか?

高山 メルフ抵抗もそのひとつですね。具体的なパーツ名を挙げていくともっといっぱいあるという話ですが(苦笑)。

八ッ橋 あとは、デジタル基板に使った低インピーダンス仕様のコンデンサーですね。これに10個も交換したんですよ。とんでもなかったですね。

高山 これが高くて、コストへの反映っぷりは半端ではなかったですよね。普通だったらこれだけで定価が1,000円近くは上がりますよ。

八ッ橋 そうそうそう。最後の最後で交換してね。納期もぎりぎりでした。でも澤田は簡単ですよ、「これは音が良いから使おう」って。

高山 たぶん最後の試作機から量産が始まる際の最終版に至るまでに売値換算で3000円くらいパーツを変えることになってしまって。普通はこんなこと許されないです。それくらいHD-DAC1の最後の追い込みが半端ではなかったのです。それでも、なんとか価格は変えないように調整しました。

ーー 量産前にそんな壮絶なやりとりが・・・。

八ッ橋 もちろんコストの問題はなんとかしましたよ。上役にも一応は許可を得て、何とかなったのですけどね。ただ、一番困ったのは部品の納期です。部品が入ってこないんですよ。それで資材部から怒られて、購買部から怒られて、生産管理部から怒られて。「どうするんですか、今頃そんなに部品変えて! 部品が入ってきません!」と。だから製造先に「この部品が欲しいので、何とかして下さい」と頼み込んで回りました。文字通りかき集めて、やっと量産をキープしました。これがそのメルフ抵抗ってやつです(下記写真を参照)。

ややわかりづらいが、写真の筐体奧に見えるのがメルフ抵抗だ

ーー いつも澤田さんがお話されている様々なアイデアや音質改善が実現している陰には、八ッ橋さんのぎりぎりまでの調整があるわけですね。

八ッ橋 そうそう。だからあっちに頭下げて、こっちに頭下げてね。「これ使わないと良いものになりません」と説明して。でもやっぱりね、みんな目標は同じで、良い製品をつくりたい。良い音を出したいのです。そこは妥協してはいけないというのはみんなわかっているから。

高山 澤田がこんなことを言っていました。八ッ橋には今回いろいろ無理してもらって申し訳なかったけれど、まあ最後だからいいかなって(笑)。二人でやったことだからとも言ってました。それに、別に後で文句を言われても八ッ橋はもう退職だから関係ないだろうって。だからやりたい放題やったと話していました。

八ッ橋 澤田・・・。ひでえヤツ(笑)。

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