小谷 進

音とエンターテインメントの強みを活かし
進化する車の時代になくてはならない会社へ
パイオニア株式会社
代表取締役 兼 社長執行役員
小谷 進
Susumu Kotani

ホームオーディオとホームAVの市場をリードしてきたパイオニアは、今年創業80周年を迎え、カーエレクトロニクス事業を中心に新たな取り組みを進めている。自動運転化などかつてない大きな変化を迎えようとする車の領域で、どのように存在感を示していくのか。また得意としてきたエンターテイメントについて今後どう展開していくのか。未来に向けたさまざまな活動と意気込みを、小谷進氏が語る。
インタビュアー/徳田ゆかり Senka21編集長  写真/柴田のりよし

カーエレを軸とした
さまざまな取り組み

パイオニアの小谷社長に、6年ぶりにご登場いただきました。今年1月に御社は、創業80周年を迎えられましたね。

小谷これもひとえに、いろいろな方々の支えがあってこそとあらためて感謝致しております。創業者の松本望がアメリカ製ダイナミックスピーカーの音を聴いて感動したことに端を発し、このすばらしい音を多くの皆さまに味わっていただきたいと開発に着手したのが当社の創業のきっかけです。1937年に初の日本製ダイナミックスピーカーA-8の販売を開始し、1938年から事業をスタートしたのです。パイオニアの名称はもともとA-8の商標名でした。

以来パイオニアは、セパレートステレオ、コンポーネントカーステレオ、カーCDプレーヤー、レーザーディスク、市販用GPSカーナビゲーションシステムやプラズマテレビなど、世界初、業界初のさまざまな商品を世に送り出してきました。昨今では、ハードとソフトが融合したソリューションビジネスの分野にも注力しています。

御社はホームオーディオの印象が強いかと思いますが、現在は車関連の事業を柱とされています。

小谷当社は8年ほど前からカーエレクトロニクス、車載事業にビジネスの軸足を移し、ホームオーディオの分野は2015年にオンキヨーさんに譲渡致しました。カーエレクトロニクス事業は現在、パイオニアの全事業の80%を占めていますが、その内、市販向けが約4割、車メーカー向け(OEM)が約6割を占めています。

我々が強みとするのは音とエンターテインメントを軸とした提案ですが、この数年はさらに安心、安全、快適といった要素も重要視しています。昨今、車にはいろいろなADAS(先進運転支援システム)機能が搭載されており、我々もADAS機能を車メーカーへ提案するとともに、市販向けにも安心、安全を実現する商品を提供しています。

国内における「カロッツェリア」ブランドをはじめ、市販向けのビジネスでは、カーナビゲーションシステムやカーオーディオをグローバルに展開しています。おかげさまで多くの国でナンバーワンのシェアを維持しており、OEMビジネスでも高い評価をいただいています。それらの商品力、提案力を活かし、快適なカーライフを提案する総合インフォテイメントにおいて、リーディングカンパニーになることが我々の目標です。

また、新しい取り組みとして、従来のようなハードのビジネスだけでなく、ハードとソフトを組み合わせたソリューションビジネスにもチャレンジしています。ひとつの大きな成功例は、パイオニアのデバイスと地図情報、クラウドを使った車のテレマティクス保険です。東京海上日動火災保険さんと2015年に協業し、2017年4月から同社のサービスとして提供を開始しましたが、これが非常に好調に推移しています。こうしたソリューションビジネスをさらに広げていこうと取り組みを強化しています。

車の進化とともに
さまざまな可能性が広がる

小谷 進
100年に1度の車の大変革時代にあって、大きな可能性へのチャンスを掴み取る

車をとりまく現在の状況はいかがでしょうか。そこに御社はどのように関わっていかれるのでしょうか。

小谷車の販売は今後、新興国マーケットがけん引し、グローバルで右肩上がりに伸びていくと見られています。しかし新興国で求められる車と先進諸国で求められる車は、おのずと違います。そのため、我々が各々のマーケットで提供するものも違ってきます。たとえばADAS機能を搭載したカロッツェリアのサイバーナビのような、価格が30万円くらいするモデルを、100万円くらいの車が売れる新興国で買ってもらうのは難しい。しかしマーケットごとにお客様のニーズに合った商品を提供できれば、車の伸長とともに我々のビジネスも大きく成長できると考えています。

さらに車の世界は今、100年に1度の大変革時代を迎えていると言われ、車の電動化、コネクティッド化、IT、AIなどにより、何もかもが大きく変わろうとしています。特に注目されているのが自動運転化の流れで、ここには車メーカー以外にも、部品やIT、電機メーカーがこぞって参入しています。将来どこが勝ち組になるか誰にもわからない先行き不透明な大競争時代となっていますが、そこには大きなチャンスがあります。

パイオニアはおかげさまで、自動運転時代になくてはならない数多くの技術やデバイスを保有しています。高精度な位置測位技術を用いたカーナビゲーションシステムは、常に高い評価をいただいていますが、その技術は自動運転にも活用することができます。その技術と、これまで培ってきた光技術を活かして自動運転の目となる3Dライダーの開発を進めています。さらにカーナビゲーションシステムを通じて10年以上にわたって蓄積した走行情報などのビッグデータや、自動運転に必須の詳細地図をつくる会社もグループの中に持っています。こうした数々の強みを活かし、自動運転時代になくてはならない会社を目指しています。

車の進化の方向によって、御社も大きく変わるかもしれませんね。

小谷完全自動運転の時代は10年先と言われていますが、その過程にもさまざまなビジネスが生まれるチャンスがあると考えています。開発を進めている3Dライダーや詳細地図は自動運転になくてはならないデバイスですが、車以外にもいろいろなところでの活用が見込まれます。自動運転用の地図には、現状の車用の地図とは異なり、より詳細な車線情報などが必要となりますし、工事のようなリアルタイムの変化などいろいろな情報を正しく瞬時に車に伝えられなければなりません。そういう地図の開発にはコストも時間もかかりますが、用途もぐっと広がります。たとえば階段や地下の情報を加えれば、人の歩行を助ける地図になる。高さの情報を加えれば、ドローンの地図になる。すると10年先の自動運転化時代を待つまでもなく、さまざまなビジネスチャンスが広がるのです。

我々も車だけを見ているのではなく、広い用途開拓を目指していこうとしています。そうなると、5年後や10年後のパイオニアは、おっしゃるとおり、今とはまったく違う姿になっているかもしれませんね。こうした取り組みは、エンターテインメントや自動運転技術として提供するとともに、日本だけでなく全世界に向けた社会貢献につながればいいと思います。すべて実現するかはわかりませんが、壮大な目標を持って着々と取り組んでいます。

新たな収益を生む
ビジネスモデルに着手

新たなビジネスモデルを構築するテレマティクスサービスについてお教えください。

小谷東京海上日動火災保険さんと協業しているテレマティクス自動車保険では、通信機能を持ったドライブレコーダーであるテレマティクス端末をお客様に提供しています。我々の地図や、10年以上にわたってクラウド上に蓄積した走行情報のデータなどをもとに、事故多発地点に近づくと注意を促すなどの安全運転支援を行います。また事故が起きた時は端末の通信機能で、運転手が何もしなくても自動的に保険会社のコールセンターに通知し、必要に応じて警察や救急車を呼んでくれる。そういった複合的な内容の保険サービスで、通信インフラはNTTドコモさんのものを使用しています。

お客様は事故に遭うリスクを減らせ、事故の際も迅速に対応してもらえる。東京海上日動火災保険さんは、お客様の事故が減少すれば保険金の支払いを減らせる。我々はハードを売るだけでなく、ソリューションサービスとして今までになかったビジネスを構築できる。こういう“三方よし”のビジネスというわけです。

今後はどのような展開が考えられますか。

小谷保険のサービスは日本も海外も同じですから、これを海外でも展開していく。また端末、地図、クラウドを組み合わせたサービスはほかにもいろいろ活用できます。たとえば物流や運送。あるいはIT農業の展開。さらには減災、防災、また災害時でのサービス。さまざまな可能性があります。ハードだけのビジネスから、ハードとソフトを組み合わせたソリューション、情報サービスの提供を目指していくということです。これもまた壮大な目標ではありますね。

成長に不可欠な要素
スピードとアライアンス

小谷 進
新たなチャレンジを実現していくために、強いパートナーとしっかりと手を組んでいく

どれも大規模な取り組みで、きめ細かな対応も必要とされます。リソースの配分はどうお考えですか。

小谷そこが今一番の課題です。今多くのリソースを集中させて取り組んでいるのは3Dライダーの開発です。カメラやミリ波レーダーとともに自動運転になくてはならないセンシングのデバイスのひとつで、我々がこれまで培ってきた光技術と、MEMSミラーを用いています。1台の車に5つくらい搭載してもらうことを想定しているため、小型・軽量化、そして低価格化が必須です。しかしハードルはまだまだ高い。昨年9月末に第一次サンプルの提供を開始し、実際に動くものを初めてお見せできました。予想以上に反響が大きく、現在、一次サンプルもまだすべて供給し切れていない状況です。また、今年中に供給する予定の第二次サンプルに対しても既にいろいろな要望をいただいています。

こうした要望に応えていくためのリソースをどう確保するか。人材を確保しても育てるのには時間がかかるため、強いパートナーとアライアンスを組んでいくことも重要です。この大競争時代に将来に向かって勝ち残り成長していくためのキーワードは、スピードとアライアンスだと考えています。2017年9月に欧米のカーナビ用地図で80%のシェアを持つオランダのヒアさんと資本業務提携したこともそのひとつです。今後もこのように強いパートナーと手を組んでいくことが、成功の要素になるだろうと思っています。

自動運転時代に
なくてはならない会社へ

今のお取り組みには、将来に向けた大きなポテンシャルがありますね。

小谷我々はカーエレクトロニクス事業に経営資源を特化する方針を定めてこの8年ほどやって参りましたが、当時は車を取り巻く状況が今のようになるとは誰も予想していませんでした。リーマン・ショックがあって、パイオニアもプラズマテレビの市場から撤退するなど厳しい経営決断を経て、カーエレクトロニクス事業に特化する道を選択したのです。今となっては、この決断は正しかったのだろうと思います。

今となっては、ですか。

小谷もちろんそれ以前からカーエレクトロニクス事業の比重は高まっていましたが、経営資源を集中することに対して勝算が絶対あるというわけではありませんでした。車の社会が想定以上に変わり、さまざまな業界が参入して競争が厳しくなったこともあり、カーエレクトロニクス事業に特化したのは間違いではないかという指摘もあるかもしれません。しかし100年に1度と言われる車業界の変化は、パイオニアにとって大きなチャンスだと思います。培ってきた色々な技術がここに役立てられるからです。そしてそのためには、やはりスピードとアライアンスが重要です。取り組みがうまくできれば、我々が目指している総合インフォテインメントのリーディングカンパニーとして自動運転時代になくてはならない会社、という立場になれると確信しています。車に関連して、少なくともコクピットまわりや車室内のエンターテインメントには、我々の技術がたくさん使われている状況になればと思います。我々の技術で自動運転に貢献する、という気概を持って、時代の勝ち組になっていきたいですね。

グーグルやアップルも巨大なプラットフォームを持って車関連に参入しようとしています。

小谷グローバルで車載機器を展開する当社にとって、巨大なIT企業の方々は我々の競合ではなくむしろお客様、パートナーであり、互いの強みを活かして新しいことができると考えています。

エンターテインメントを
得意とする強みを活かす

そこではエンターテインメントの要素も活きてきますね。

小谷そうです。それが我々の強みですから。自動運転に必要な技術と組み合わせたエンターテイメントの世界を提案できる。それがパイオニアの強みであり、やるべき領域だと思います。自動運転時代になると、音だけではなく映像も、車の中でより楽しみやすくなるため、そのようなニーズはこれからどんどん出てくるのではないでしょうか。ハードだけの展開ですと、いずれどこかの会社が参入してきて価格競争に巻き込まれる。そうなれば大規模で体力のある会社には太刀打ちできません。自分たちの強みを活かしながら、なくてはならない領域を目指すのが肝要だと考えています。

車の開発には5年ほどかかるので、開発時点で5年先を想定した装備が必要です。しかし技術の進化は非常に早く、車が出る頃に時代遅れになってしまいますから、できる限り早い段階で5年後を見据えた提案をする必要があります。メーカー様にも専門家はたくさんおられますが、市販向けのビジネスをしっかり行っているのが我々の強みでもあります。エンドユーザーのニーズや技術の進化をよく理解しているので、我々が長年培った経験と知見をおおいに活かすことができるのです。OEMビジネスもこうした提案型のビジネスにしていかなくてはいけないと思います。

カーとホームの共通化も期待したいですね。

小谷車と家庭はこれからどんどんつながってくるでしょう。家庭の中から、車の中から相互に情報をやりとりするような。またそういう提案もしていかなくてはならないと思います。

ホームとカーの世界で、エンターテイメントの進化はどう違うと思われますか。

小谷音という意味では共通項がありますが、聴く環境は全く違います。スピーカーの前に座ってじっくり音楽を楽しむ環境にあるホームに対して、車は振動がありノイズがあり、人が座る位置も片方のスピーカーに寄っていて、音を聴く環境としては非常に過酷です。音そのものについての考え方は共通であっても、音を再生するにあたっての難易度はまったく違う。車の世界での音作りは容易ではありません。ただ我々には、音の再生について培ってきたさまざまな技術があります。車載の分野はこれからまだまだ進化しますし、またマーケットとしても大きくなる。さらに車以外にもチャンスが広がっています。ぜひ取り組んでいきたいですね。

パイオニアブランドを
あらためて羽ばたかせる

小谷社長は以前のインタビューで、ブランドというものがこの先ますます重要になるとおっしゃいました。今ブランドについて、どのようにお考えですか。

小谷おかげさまで、80年間培ってきたパイオニアのブランドはいろいろなところで根付いていて、パイオニアのファンは全世界にたくさんいらっしゃいます。ただ残念ながら今は、我々の事業展開の中でBtoBの領域が大きくなり、エンドユーザーのお客様にとって身近な商品が少なくなっています。お客様に直接提供できる、問いかけられるようなBtoCの商品はこれからまた手がけていきたいと思っています。

あらためて、80周年の意気込みをお聞かせください。

小谷80年をひとつの区切りとして、これから先、90周年、100周年に向かって、パイオニアはさらに成長していかなくてはなりません。そのためには今着手しているさまざまな取り組みを緒に就かせて、確かな事業としていく。これをしっかりとやっていき、新たな成長への原動力にしたいと思います。80年という長い時代をここまで歩んで来る過程では、戦災もあり、我々がまさに直面した直近の厳しい時代もありました。しかし今日を迎えられたのは、業界の皆さまの支えがあったからこそと感謝しております。これからもぜひ、我々の取り組みにご期待いただきたいと思います。

◆PROFILE◆

小谷 進 Susumu Kotani
1950年4月12日生まれ。鳥取県出身。1975年4月パイオニア(株)入社。2000年5月 Pioneer Electronics(USA)Inc.社長。02年10月 Pioneer Europe NV 社長。03年6月 執行役員 Pioneer Europe NV 会長 兼 社長。06年6月 執行役員 国際部長。07年12月 常務執行役員 ホームエンタテインメントビジネスグループ本部長。08年11月 代表取締役に就任。

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