校條亮治

良い音を追求する原点を抑えて
ハイレゾの推進を加速していく
一般社団法人日本オーディオ協会
会長
校條亮治
Ryoji Menjo

ハイレゾの推進に取り組み、イベント強化で顧客創造を図っている日本オーディオ協会。その着実な活動で手応えを得て課題も明らかにし、次なる一歩を踏み出していく。2018年、さまざまな歩みを進めていく同協会の方向性について、校條会長が語る。
インタビュアー/永井光晴 音元出版常務取締役  徳田ゆかり Senka21編集長  写真/柴田のりよし

ハイレゾ推進を強化
音楽製作から再生まで

2017年はハイレゾ推進の活動が躍進しました。

校條日本オーディオ協会がハイレゾの導入に取り組んでから3年半が経過し、参入企業は約140社、アイテム数は約1500に上りました。参入企業も国内に止まらず、中国や欧州の企業も加わっています。ハイレゾはすでにスタンダードになったと言えるでしょう。

解決すべき問題もあります。1つはいい音を追求する原点に立ち返ること、2つめはトレーサビリティの明確化、3つめは人材の枯渇への対応です。そして推進を加速させなくてはいけません。新たなカテゴリーに対して締め付けを厳しくしてばかりでは、進められませんね。

ハイレゾは日本オーディオ協会が定義を司り、監修しています。新しいカテゴリーが参加してきたなら、認める姿勢が必要だと思います。色々な議論があり、あるカテゴリーに対してオーディオとは認めたくないといった声も聞かれますが、厳格に管理するより商品自体の将来性、お客様の信頼と利便性を考慮した上で新しいものを認めていく、そういう姿勢で推進しております。

そしてハイレゾ=よい音、ということではありません。ハイレゾはフォーマット提案ではなく、伝送における大改革。だからこそよい音を追求する原点をしっかりと押さえていかなくてはなりません。協会のカンファレンスでは、ハイレゾ時代におけるよい音の答申書を出しました。ハイレゾ・オーディオの導入に際し、最低限のポイントを押さえて3つの定義をつくりました。

技術的なスペックとして、96kHz/24bit、アナログで40kHz以上、それからメーカーに聴感評価を義務づけようというもの。メーカーが自社の商品に対し、自信をもって良い音であると認める。そのために良い音の根源に関わる考え方を整理してほしいと。低音が重要ならそこに注力すればいいし、ボーカルが重要なら中音に注力すればいい。メーカーとして、きちんと言い切れる指針を持つべきであると考えました。この3点を基本定義としています。

ハイレゾのトレーサビリティを明確化することも、ぜひ推進していきたい。ハイレゾの環境は整いましたが、音源やハードに対するクレジット表記は進んでいません。特に音源は、いつ誰がどこでどのように録音したものか、明確にする必要があるはずです。仮にアップレートしたものであっても、アップレートしたと明確にされればいいと思います。トレーサビリティを明確にすることは、作った側の責任だと思います。昔はLPやCDのライナーノーツに記載されていました。今の音源にはそれがないわけですから。

もう一つの大きな課題は人材。オーディオ業界全体に言えることですが、「オーディオ」を熟知した人材が枯渇しています。大変難しい問題ですが手をこまねいているわけにはいきません。新しい世代の人達に教育を行い、オーディオや音楽の世界を司る人材として勉強し業界をリードできるようになって欲しいですね。

メーカーは再生側の考えに縛られがちですが、まず音楽をつくることから思いを致す。どう録音するか、さらにはアーティストがどんな音楽を聴かせたいかにまで遡る。レコーディングエンジニアはそこまで思いを巡らせ、音の中にアーティストの意志を入れ込まなくてはと思います。メーカーはそれを受け止め、十二分に再生する。最終目標は音場の再現です。音楽製作から再生までの過程を一気通貫で見ないと、ハイレゾが進んだとは言えないでしょう。

今の時代、デジタルパーツを買って来て組めば、音の出るオーディオが作れます。スペックもちゃんとしている。しかしそれだけではいかがなものかと。音源そのものも、ハイスペックなデータで録れればいいというものでもない。今や音楽はパソコンで作ることができ、それはそれでいいのですが、なぜ作品をこんな音にしたかは、本来アーティスト自身が確認していくところ。それをきちんと伝える再生側としても、音楽がどうつくられているのかを根本から知らなくては難しいでしょう。ただ再生機器のスペックを見ているだけではなし得ません。

ハイレゾを推進する中で、そういうことがわかってきました。演奏者とレコーディングエンジニア、再生するもの、再生する場所、それらすべてを見ていかなければ音楽は伝わらない。音楽産業の方々とメーカーの方々で、意志の疎通ができていなくてはと思います。だからこそ人材の育成は急務なのです。

ハイレゾの名のもとに、新たなカテゴリーがどんどん出てきます。それに対して私は肯定的に考え、レギュレーションを締め付けすぎてはよくないと思います。ただ新しいカテゴリーの人達には、これまで我々が持っていたオーディオに対する概念がなく、オーディオではないというアンチの目で見られがちです。そうならないよう、オーディオリテラシーを維持できないかと考えます。例えば機器の形状や質感、手触りなど、そこにオーディオらしさを求めてもいいと思うのです。新しい生活スタイル、新しい音楽の聴き方を提案できるのなら、それにこしたことはありません。そして心強い音で鳴っていて欲しいものですね。

校條亮治
新たになった「OTOTEN」で、顧客創造のさらなる進化を図る

「OTOTEN」が進化し
見えてきた課題

昨年はオーディオビジュアルの大型イベント「OTOTEN」が大きく進化しました。

校條有楽町の国際フォーラムで開催することができました。東京インターナショナルオーディオショウさんがずっとここで開催してこられた効果もあって、やはり地の利はあり、しばらくここに腰を落ち着け、顧客開発するのがいいと思います。昨年は成功半分、課題半分というところです。まず、コンセプトは間違っていませんでした。新しい顧客開発、ハードよりもソフトコンテンツ寄りに楽しさを訴えるということ。しかし問題は、それをお客様にわかっていただくプロセスが不十分だったことです。

成功事項として、新しい顧客開発ができました。来場者アンケートによると、来場者の62%が「初めて」のお客様であり、その内女性が従来の倍の18%に達した。さらに、30歳代〜40歳代が急激に増えた。我々の狙いは間違っていなかったと確信します。やろうとしていたことの切り口は見えたと思います。

展示の内容で画期的だったのは、ストリーミングコンテンツ、ダウンロードコンテンツ事業者の方々に集まっていただき、日本の展示会として初めてハードと合同の出展を行ったこと。しかし会場では説明員の数が少なく、お客様に十分に説明するところまで至りませんでした。楽曲がたくさんあって、好きなところで聴けて、利用料が無料のお試し期間がある。そういった良さをディスプレイにも出して訴求しましたが、お客様にとっては具体的にどうやってコンテンツを入手して再生するかはわからない状態となってしまいました。

またアーティストのライブも開催し、たくさんの方にご来場いただきました。その方々にオーディオをもっとご紹介したかったのですが、ライブ会場からオーディオブースへの誘導がうまくできませんでした。会場のレギュレーションの問題でもありますが、詰めも甘かったかと反省があります。本来は、展示会場もライブ会場もあらゆる場所を回遊して欲しい。もっと言えば、会場の外でもイベントをやりたいのです。同じ場所で「ラ・フォル・ジュルネ TOKYO」が5月初旬に開催されますから、その次にOTOTENが開催され、9月の東京インターナショナルオーディオショウにつながる、そういう構想を持っていたのですが。昨年のOTOTENは、期待値の半分に止まってしまいました。

それから、2つの実験を行いました。1つは、音楽ライブを4K、ハイレゾで収録し、中継したこと。NTT西日本他NTTグループさん、NHKエンジニアリングさん、ラディウスさんが取り組みました。これは高い評価を得て、次なるステップを目指します。NHKで今年12月に8Kの実用化放送が始まりますが、OTOTENでの実験によって少なくとも4Kとハイレゾで収録したものをその場で送り出せる目処が立ちました。その効果を会場の有機ELモニターとハイレゾ再生で再現し、高い評価を得ました。

もう1つの実験は、ライブをハイレゾでストリーミング再生する取り組み。スマートフォンで聴けます。そうするとライブ会場のどこにいても、音はハイクオリティで楽しむことができます。大きなスタジアムなどでスタンドの端にでも行ってしまうと音の聴こえが良くないことはままありますが、元の音を録って、手元のスマートフォンで聴けるようにすれば、どんな状況でもクオリティの高い音で聴けるようになる。それはそれでひとつの市場を開拓することになります。こういう実験は、オーディオ協会のOTOTENでこそやらなくてはならないことだと思います。実験は成功しましたし、いずれ製品化されることと期待しています。

お客様の体感の場を
充実させていく

これらを踏まえた、次回のOTOTENが期待されますね。

校條コンセプトを変える必要はないと思いますが、プロセスは変えなくてはなりません。会場でのお客様の回遊策やライブに来られたお客様にオーディオへの親和性をつくることなど、工夫していかなくては。今まさに来年の「OTOTEN2018」の内容の詰めを進めており、方向性は見えてきています。

ここ2年ほどアナログレコードやプレーヤーが市場で受け入れられていますが、これどんどんやってみてはと思っています。レコード会社やエンジニアの方々には、話を進めています。LPレコードのジャケットなども見せて、レコードを「見せる!聴かせる!」機会をつくる。

それから、オーディオのアクセサリーコーナー。アクセサリーのちょっとした知識を、どんどんお伝えして差し上げる。ケーブルを替えたり、インシュレーターを使ったりするとなぜ音が良くなるのかといった基本的なことを、お客様自らが体感しながら納得できるように。皆さん今さらと思われがちですが、メーカーの技術者自身が直接きめ細かにお客様に語りかけることが重要です。

また、最近の若い方たちが何を聴いているのかといいますと、ゲーム音楽やアニソンなのですね。DJも人気です。若い方といっても子ども達でなく30代の大人達。すでに大人の新しい音楽として大きくなっているこれらのジャンルを、どんどん取り入れたら面白いですね。ゲームメーカーさんからもハイレゾをやりたいという声をいただきました。

そして最近の若い方たちは、プロDJの機器を欲しがるといいます。音がいいと言うそうです。ゲーム音楽を聴いている方々にとって、ハイファイの機器ではなく、興味はそちらのベクトルなのです。世界で活躍するDJの方々の世界が広がっているのに、我々業界はそれをマークしていない。もう若い方の世界と業界との価値観が乖離しているわけです。ですからそこも、テーマとしなければならないでしょうね。

文化は多様性のあるものです。音楽を生で聴く、再生して聴く。家で聴く、屋外で聴く。ハイレゾがあり、ストリーミングがあり、アナログがある。クラシックがありポップスがあり、アニソンがある。多様性の中で成熟すれば、オーディオは文化としてもっともっと素晴らしいものになるはずです。そして「OTOTEN」ばかりでなく、全国エリアの「オーディオフェア」や専門店イベントともコラボして、お客様の体感の場を充実させる方策を進めていきます。

2018年の活動も、大いに期待しております。

▶一般社団法人日本オーディオ協会
https://www.jas-audio.or.jp/

◆PROFILE◆

校條亮治 Ryoji Menjo
1947年11月22日生まれ。岐阜県出身。1966年 パイオニア(株)入社後、パイオニア労働組合中央執行委員長、パイオニア(株)CS経営推進室長を経て04年6月 パイオニア(株)執行役員CS経営推進室室長に。05年7月 パイオニアマーケティング(株)代表取締役社長に就任。2007年(社)日本オーディオ協会副会長を経て、2008年6月11日 現職に就任。2011年4月1日 日本オーディオ協会は一般社団法人となり現在に至る。

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