小川理子

信念を曲げず、手を緩めずに
コミュニケーションを続けます
パナソニック株式会社 執行役員
アプライアンス社 副社長
小川 理子
Michiko Ogawa

新たな2018年、パナソニックの小川理子氏が本誌の巻頭を飾る。伝統のブランド・テクニクスの復活から今日までの3年3カ月間、テクニクスとともに音を切り口としたシナジーで新たな価値の創造を推進してきた。駆け抜けた怒濤の道のりを経て、同社創立100周年を迎える2018年に向け、抱く新たな志を語る。
インタビュアー/徳田ゆかり Senka21編集長 写真/大野 博

音を切り口とした
事業間のシナジーを推進

新春を飾るインタビューに、パナソニックの小川さんにご登場いただきました。アプライアンス社の副社長にご就任され、ご担当されている守備範囲がますます広がりましたが、その内容についてあらためてお話いただけますか。

小川2017年度から、ホームエンターテインメント事業の中の2つの柱であるオーディオとビジュアル、そしてコミュニケーション事業の担当となりました。これまでのパナソニックの組織では、オーディオ分野とレコーダーなどのビジュアル分野は明確に分かれていました。ビジュアル分野は当然ながらテレビと近い関係にあり、プラットフォームやソリューションモジュールも双方共通で開発している状況でした。一方でオーディオ分野はというと、ある意味孤高の存在と言いますか、まさに独自の世界を築いてきた感があります。

昨今のホームエンターテインメントビジネスの中では、ビジュアル分野での4K/8Kの映像技術やインフラの整備が進んで大きく注目されてきましたが、映像のクオリティが進化するとそれに相応しい音にも注目が高まります。パナソニックではご存じのとおり、テクニクスのブランドにおいていい音を追求してきました。そして歩みを止めた時期もありましたが、2014年に私が責任者を担当させていただき、テクニクスのオーディオが復活しました。そこでテクニクスの力を活かし、他の分野と一緒に新しい価値を生み出すことが期待されているのです。

私はまさにそこを担当させていただく立場となり、さまざまなシナジーを追求しております。たとえばテレビの分野では、「Tuned by Technics」を掲げてテクニクスの技術で音を大きく強化しました。フラグシップの有機ELテレビや液晶テレビの高付加価値モデル、当社の100周年を機に発売したパーソナルテレビ「プライベートビエラ」もそれに該当します。音と映像でお客様の生活を充実させていくということですね。

音は、エンターテインメントの核になるものと考えます。それを全社で活用し、それぞれの中で輝かせる。それはテクニクスブランド復活の、当初からのテーマでした。住空間や車内空間、ヘッドホンなどのパーソナル機器、それぞれの中でいい影響を及ぼし合っているのが、ホームエンターテインメントの現状です。

またコミュニケーション事業については、九州松下電器が前身で昔から固定電話を展開していますが、携帯電話やスマートフォンの拡大によって国内の需要がどんどん縮退していく中でも、グローバルではまだまだ活躍しているのです。パナソニックの高いものづくり力とコスト力で強い商品を展開していますし、新たにデザインフォンといった需要も出て来ました。もともとのシェアの高さに加え、需要の縮退でますます寡占化が進み、好調に推移しています。

2017年5月には、ビジュアル部門の傘下として福岡開発課を新たに立ち上げました。プライベートビエラのプラットフォームを使った住宅機器コントローラーを新たな柱にするべく推進しており、ビジュアル分野とコミュニケーション分野の技術者が福岡開発課を拠点に交流し、シナジーを生んでいます。ドアホンは国内でも堅調に推移しており、今後も国内外含めて事業の柱として強化していく予定です。そして親和性の高い分野同士でそれぞれの連携を密にしながら、新しいお客様価値を提案する動きが次々に出てきているのです。

あらためて見直された
音の存在の重要性

ここ数年で御社では家電は白物も黒物も区別なくお客様の住空間にあるものと捉え、アプライアンス社の中で新しいシナジーが生み出されています。そんな中で音は、新しい価値を生み出す鍵ですね。

小川私はもともと音の専門家ですから、やはり音の切り口に絶えず着目しますし、そこに足りないことに対して気を配ります。何かを手がけるごとに、こうしたら音とのクロスバリューがもっと生まれる、との思いを膨らませています。音というのは昔からどうしても脇役になりがちで、パナソニックのような規模の大きい企業では特に、私自身はずっと裏街道を走ってきたなという思いがあります。でも音は絶対に重要であり、どうしても外せないもの。私は裏街道にあっても、音の力をずっと信じてやって来たわけです。

見えないせいで気づかれにくいですが、音がなければどんなコンテンツも本当に無味乾燥な、奥行きのない、多様性のないものになってしまう。音は、テレビやレコーダーなどのビジュアル製品に寄り添う、なくてはならない名脇役です。テクニクスの復活によって、音の重要性も社内に再認識され、今では全社で応援されています。王道ではなかった音ですが、それが逆に新たなチャンスを生んだということですね。

デジタルの世界では、映像よりも情報量の少ない音の方が圧倒的に扱いやすい。デジタル化でもネットワーク化でも、音から先に先端技術が進んでその後に映像の技術が付いて来る、その歴史を繰り返しています。だから音に関わる事業では、昔から多くのものを経験しながら収斂してきて、あらためて音の存在の強さや持続可能な事業のあり方が見えてきたのです。音の底力はずっと、絶えず息づいていたということ。事業責任者として私自身がそれを強く感じるところです。

復活から大躍進
テクニクスの手応え

テクニクスの復活については、そういう意味での期待もあったということですね。

小川そうです。やっぱりこれは大事なものだと皆が気づいたのは、もしかしたら終息させたからこそかもしれませんね。今や本当に、皆が音の大事さをあらためて認識し、同じ価値観を共有することができています。

テクニクスについての手応えはいかがでしょうか。

小川2014年にブランドを復活させた当初、私自身はテクニクスの担当としてブランドの再構築と製品づくりにまい進し、足掛け3年で多くの機種を出させていただくことができました。当初から3年間で必要なものは全て出す計画で文字通り突っ走ってきたのですが、正直申し上げてこれだけの機種数をよく出せたなという思いがあります。

まずプレミアムクラスとリファレンスクラスの2シリーズを展開し、それぞれにプレーヤーもアンプもスピーカーも一気に出しました。その上で、オールインワンモデルのOTTAVAやアナログプレーヤーも出して、世間の皆様から大きな期待を寄せていただくことができました。

今もっとも新しいモデルは一体型の「OTTAVA f」SC?C70。2016年に出しました「OTTAVA」SC?C500が元祖ですが、このものづくりは試行錯誤の連続でした。単品コンポーネントはある意味やり慣れていて、ある程度決められた枠組みの中で進めやすい。けれどもC500ではその枠組みを超えました。私たちの技術を凝縮させ、現代に適応したデジタルネットワークの最高峰を目指して新たな形を追求しましたが、ほんとうに“難産”でした。

けれどもこれができたことで、皆が自信を持って次の「OTTAVA f」に取り組めました。この2モデルは、ラインナップ上ある程度最初からイメージしていたのですが、C500は女性を意識したソフトなイメージ。そして新たなfは直線的なデザインで男性的なイメージ。C500は広がりのあるふくよかな音で、OTTAVA fは非常に力強い音。それぞれ違う個性を持ちながら、双方ともにパッケージ型のデジタルネットワークシステムとして、テクニクスの新しい考え方が凝縮されているのです。

OTTAVA fは2017年9月のIFAを皮切りに欧州で発売しています。イギリスではスタートの1カ月間、デパートで先行販売しましたところ、大変にご好評をいただきました。デジタルネットワーク系のシステムながらCDプレーヤーもラジオも付いていて至れり尽くせり。音もデザインもいいと店員の方がおおいに薦めてくださって、非常に好調な滑り出し、クリスマス商戦もいい手応えでした。

アナログプレーヤーも象徴的ですね。

小川2016年をアナログイヤーと位置づけ、1200Gを出させていただきましたが、限定モデルはあっという間に完売、通常モデルもしっかりと定着しました。2017年は新モデルSL?1200GRを手頃な価格帯で出しまして、コストをまとめるために大変苦労しましたが、頑張った甲斐があって新しいお客様を取り込むことができました。

この次はどんな方向へ行くかが皆様方の注目するところで、GRより少し下の価格帯と予測されていたようですが、別格、孤高のモデルで世界のトップになろうという合い言葉で取り組み、リファレンスクラスの製品をご提案しました。ターンテーブルはテクニクスのお家芸、ダイレクトドライブという独自の素晴らしい技術にさらに磨きをかけました。新たなSP ?10Rとして、2018年1月のCESで正式に発表させていただきます。

新たなお客様へ
もっとアプローチする

お客様は、新しいテクニクス製品に対してどんな反応でしょうか。

小川昔を知っておられる方も、新しい製品を以前とは違うイメージで捉えてくださっています。昔のモデルも持っているけれど、また欲しくなるねと。またブランドをご存じでない若い方も、恰好いいねとおっしゃってくださいます。伝統と先進の融合が今の時代にうまくマッチして、お客様の心に突き刺さるブランド戦略が展開できているかと思っています。

ただ、新しいお客様にはまだまだリーチしきれていないと思います。特に女性のお客様の潜在力は大きい。信念を曲げずに、コミュニケーションをずっと継続していく。私自身が女性としてできることですから、手を緩めずやっていきたいですね。

テクニクスには3つのシリーズがあり、デジタルとアナログがあり、コンポーネントと一体型の形がある。さらにヘッドホンもあり、多岐にわたります。それは時代が求める多様性でもあり、地域が求めるものもあります。日本と欧州を中心に展開する中で、ハイエンドのオーディオ文化が比較的プリミティブに根付いている地域であっても、色々な多様性が同時に出て来て混合しているのもまた面白いところ。そこにしっかりと応えていきたいですね。またアナログターンテーブルについては、復活でもあり、若い方々には新しいものとして捉えられてもいます。本物の迫力は、やっぱり求められているのだと思うのです。

物を所有するよりシェアリングする考え方も拡がり、価値観や経済が変化していると言われます。けれどもやはり本物に対する憧れなど、人間が本能的に求めているものがきっとあると思うのです。今はデジタルネットワークで便利にものを手に入れることができますし、モノからコトへと価値観が変化する時代でもあります。けれども身体という実在がある人間にとって、何か本能的に、本当にいいものに触れてみたい、経験して自分の生活に取り入れたいといった欲求は普遍的なのだろうと思います。

小川 理子
期待していただくことは私たちにとっての励み
最前線の専門店様とのお付き合いは本当に大切だと思っています

感動を求める
さまざまな取り組み

1年ほど前に発表されたベルリン・フィルとの音作りも、そういったことの一貫かと思います。

小川2017年11月、ようやく4K HDRでの配信ができるようになりました。家にいながらリアルなコンサートホールの体験を味わい、感動していただきたいと思います。パナソニックの技術で、入口から出口まで4K HDR配信の環境が整いましたが、ご覧になったベルリン・フィルのメディア責任者の方が、いままでにはない空気感、映像ができていて非常に楽しみだと言ってくださいました。それもこれまで培ってきた技術の力ですこれについては、テクニクスの若手の技術者を2017年春から3カ月間ベルリン・フィルに派遣し、トーンマイスターから教えを受けました。コンサートホールの音響空間、マイクの配置からコンテンツの収録のあり方を学び、あるいは楽譜の解釈の仕方、演奏家のメッセージの伝え方、指揮者の振る舞い方、バックステージのマネージメントに至るまで、すべてを学ばせていただきました。

バックグラウンドを知らなければ、再現芸術を極めることはできないと、私自身も常々思っていたところです。4K HDRだけでなくそういう深いところでの共同作業になり、たくさんの学びと気づきがありました。

2017年のIFAで発表された、スマートスピーカーの位置づけも気になります。

小川私どもでは以前から、マルチルームのスピーカーとしてALLシリーズを展開し、特に欧州で長く販売しております。「Listen without limits」とし、ライフスタイルの中で制約なく、家じゅうでいつでも音楽を楽しく聴けるという訴求をしてきました。一方で、ストリーミングサービスなどのソリューションと私たちのハードウェアのモジュールやサービスとの整合性がとれない部分もありました。

今回スマートスピーカーのGA10を発表し、グーグルさんと一緒にやらせていただくことで、300近くものいろいろな音楽サービスを活用できるお客様メリットが生まれます。そして私たちのいい音をご提供したい思いを追求し、個性的なハイファイらしいデザインを取り入れています。デザインと音、音楽ストリーミングサービスを融合させ、「Listen without limits」の新しい音楽の楽しみ方を、さらに推進して参ります。

音楽を聴くだけではない何か、といったことも今後推進されるのですね。

小川2018年は弊社の100周年にあたり、これからの100年への考え方も発信させていただく予定です。その中でIoTや住空間は重要なキーワードで、スマートスピーカーはその入口ですね。スマートスピーカーをどう位置づけるかは、全社戦略の中で刷り合わせをしているところです。オーディオが先頭バッターとなり展開しますが、パナソニックらしさを常に追求しつつ、今後も推進していきたいと思います

地域のニーズに根差した
マーケティングを展開

2018年、ホームエンターテインメントはどのような方向に進むでしょうか。

小川2018年のあと2020年に東京オリンピック・パラリンピックも控え、日本国内はこれから数年非常に活況を呈すると考えます。その中でアプライアンス社は、家電の総本山の位置づけで、各地域の販売会社とともに製販連結でお客様価値をどんどん提供する取り組みを進めています。

今の伸び盛りはアジア、中国で、白物家電を中心に大きく成長しています。少子高齢化が進む日本は、「Jコンセプト」でシニアをターゲットにした取り組みなどを推進しています。1歩先を行く日本の内容を、いずれアジア、中国にも展開していくことになるでしょう。逆にアジアや中国ではIoTやネットワークなど日本よりも進んでいる部分があり、そこは中国で先に展開して次に日本でどう展開するかを見定めていく。

そのように、かなり緊密に地域×商品でのポートフォリオマネージメントが進むと思います。課題先進国がまず解決し、それをうまく次の地域展開で参考にしながら進化させていく。それが多分本当の意味でのグローバルであり、ローカルフィットであるということかと思います。

変化に対応する力は、あるひとつの均質なものだけではもろく、多種多様にパズルのように組み合わせていくべきだと思います。そして戦略はシンプルに。日本国内では地域創生といったことがよく言われます。地域ごとの現状認識と、どのように未来へ向かうかは、それぞれ少しずつ違います。その多様性の中で価値を見いだしていくことが、文化文明そのものでもありますね。

そのなかで、ものづくりではできるだけ競争力、コスト力を高めるため、グローバルなプラットフォームでできることはしっかりとやる。その上に乗って、地域にフィットするソリューションを展開していくことが重要だと思っています。

お客様に近づき
2018年も元気に

日本市場はどのような位置づけになるでしょうか。

小川日本市場では、おかげさまで私どもでは好調に推移しています。1億2000万人の人口の塊と、世帯数の塊があり、そこでしっかりとお客様の価値をつくっていくということで、マーケティングのメンバーと、事業部の製造、開発、企画メンバーが常に一緒に議論をしています。国内もさらに力強く展開して参ります。新たな2018年も、明るく元気にやって参りたいと思っています。

テクニクスの今後はいかがでしょうか。

小川今まで私たちは息つく暇なく、アクセル全開で推進して参りました。お客様のご要望やご期待の声もたくさん頂戴していますし、それをものづくりにフィードバックしながら、より一層元気なブランドにしたいと思っています。

お客様やご販売店様へのコミュニケーション活動も、さまざまにやって参りました。どうだろう、でもやってみようと挑戦してきたことはたくさんあります。すべてがうまくいくわけではないですが、うまくいかなかったことはどんどん軌道修正していく。それはデジタルネットワークコミュニケーションのよさだと思います。

開発も、マーケティングも、どんどんお客様に寄り添いながら変化に対応していく。私たちの方からお客様にどんどん近づく。移動型の試聴スペースである「テクニクス サウンドトレーラー」は、まさにその象徴ですね。お店にいらっしゃる方とはまた違う方が来てくださる。女性も、若い方も。その様子を見ていると、いい活動ができていると実感します。

テクニクスでは当初、お付き合いが途絶えていた専門店さんとの関係の再構築に着手されていましたが、それも軌道に乗りましたね。

小川1年目はまず様子をご覧になっていて、2年目は少しずつ感じていただき、3年目にいよいよ私どもの本気をわかっていただけたかと思います。けれど未だ、この先はどうするのかという声をお聞きしています。期待していただいていることは私たちにとって励みになりますし、最前線のお客様の状況を教えていただける専門店様とのお付き合いは、本当に大切だと思っています。

テクニクスは1965年から始まって、2020年には55周年を迎えます。「Go!Go!」の勢いで、伝統の重みを大事にしながらますます頑張って参ります。ぜひともよろしくお願い申し上げます。

◆PROFILE◆

小川 理子 Michiko Ogawa
1986年4月 松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)入社 音響研究所配属。ネットワークサービス事業、CSR・社会文化部門を経て、2014年5月よりテクニクスを率いる。2015年4月 同社役員就任。2015年11月 アプライアンス社常務 ホームエンターテインメント事業担当。2017年4月 アプライアンス社副社長ホームエエンターテインメント・コミュニケーション事業担当。2018年1月アプライアンス社副社長 技術担当(兼)技術本部長、テクニクス事業推進室長。

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