小川 恭範

技術力と真摯な取り組みで
bPシェア継続
プロジェクターの可能性を
新たな領域へ拡げる
セイコーエプソン株式会社
執行役員
ビジュアルプロダクツ事業部
事業部長
小川 恭範
Yasunori Ogawa

ホームプロジェクター、ビジネスプロジェクター市場において、シェアナンバーワンで走り続けるエプソン。同社プロジェクターの進化とともに歩んできた小川氏がビジュアルプロダクツ事業部長に就任した。既存のカテゴリーを超えた可能性に挑み、進化を続けるプロジェクターへの取り組みを訊く。
インタビュアー/徳田ゆかり Senka21編集長  写真/柴田のりよし

終わりなきチャレンジで
絶えず進化に取り組む

まず、小川事業部長のご経歴をお聞かせください。

小川1988年にセイコーエプソンに入社し、ファクシミリの読み取り装置になるデバイスのTFT技術を使ったイメージセンサーに携わりました。その後93年から今に至るまでプロジェクターの仕事に携わっています。

エプソンのプロジェクタービジネスは、89年のホームプロジェクター参入が始まりです。その後91年にもホームプロジェクターを出しましたが、どちらも思わしくありませんでした。関わるメンバーが減った後、新たにビジネスプロジェクターを出すことになり、私を含めて数人がそこに手伝いで加わったのです。当社初のビジネスプロジェクターは94年に発売され、私もその部署に異動しました。それ以来、現在までずっとプロジェクターに携わり、市場が成長していく過程をつぶさに経験してきました。

その後当社は2000年に再度ホームプロジェクターにチャレンジし、市場に本格参入しました。まず比較的手頃な価格のものからスタートして、徐々に本格的なものも投入していきました。その過程の中では、DVD一体型モデルなども投入しています。

当時は当社も御社と深くおつきあいをさせていただき、社長の和田が「6畳間の100インチ」を提唱して本誌でも大きく展開しました。その頃出てきた薄型テレビがまだ画面が小さくて高額だったのに対し、プロジェクターは10万円くらいの価格で大画面を楽しめるとして、多くの方々に大きなインパクトを与えましたね。

小川ホームシアターは当初、ごく一部のこだわりの方々の世界でした。なかなか広がらない市場を何とかしたいということで、エプソンが明るい画のホームプロジェクターをできるだけ手頃な価格でご提供していきました。とにかく価格は10万円を切ろうと頑張っていましたね。当時の事業部長は、家庭にプロジェクターが入るにはそれが絶対条件と言っていて、そこに性能を付随させる。ビジネス系でも、企業や文教に普及させるにはやはり10万円が鍵でした。

それを実現できる商品ができて、御社にもお世話になり、かなり市場が拡がりました。10万円を目指して技術を磨き上げましたから、それを展開すれば上のクラスの製品はもっと進化し、性能も上がっていく。そうして明るく、小さく、という方向で製品をつくってきました。

エプソンでは、プロジェクターの製品に関わるほとんどすべてを自前でまかなえます。デバイスから自社でつくれる垂直統合型ビジネスが強み。ただ最初の頃は、垂直統合の意識はそれほどなかったのです。結果として社内のものしか使いませんでしたが、部品などいいものがあれば社内外を問わずどこからでも調達しようと考えていました。また当社の液晶パネルは他のプロジェクターメーカー様にも販売していて、事業部もプロジェクターとは別でした。

液晶パネルや、液晶パネル周辺の光学部品、光学材料などすべて外に目を向けて探し、どんどん取り込みました。そしてキーとなるものであれば内部で作ってしまう。そうすればコスト面も有利になりますし、技術の進化にも貢献できます。その結果必然的に、重要なものは中で作ろうという流れになり、徐々に垂直統合になってきたわけですね。
当時は非常に自由な雰囲気でやっていましたし、おかげさまで技術的にも我々は他のメーカーをリードする位置にいました。だからこそいいものを手に入れて、いい製品を作りたいという気持ちで積極的に動いていたのです。もっともっとよくしたい、進化させたいという強い気持ちで、プライドをもって携わっていました。

プロジェクターの画は、周囲の環境光にさらされるとどうしても本当の実力が出せません。部屋を暗くすればご覧いただける素晴らしい映像を、照明がついた状況でも実現させるために、もっともっと明るくしなくてはという思いで今も開発にあたっています。そういう意味ではゴールのない、ずっと進化を求めていける分野だと思います。

日常生活の中できれいな画を見ていただき、さらにシアター用の環境で素晴らしい画を楽しんでいただく。それが1台のプロジェクターでできればと思っています。究極のプロジェクターは、普通の部屋の環境で何万ルーメンも出るような実力があること。そうなればラインナップをいくつもつくる必要はありませんね。そこまでにやることはまだたくさんあります。

小川 恭範
ホームシアターやプロジェクションマッピングはプロジェクターでできることの一部。空間のすべてに対してプロジェクターの可能性は広がる

既存の市場で稼ぎ
新たな領域を拡げる

発表会の冒頭の演出が印象的でした。スクリーンの枠を超え部屋中に広がった映像と光の表現でしたね。

小川あの演出では、スクリーンにプロジェクターの映像を、周辺の壁にレーザーの光線を投射しましたが、すべてをプロジェクターでできればいいですね。そういう世界をつくっていきたいというのが、我々の長期ビジョン「Epson25」で言うライティングやサイネージの分野。すでにステージやイベントで活用いただいていますが、そういったさまざまな演出をプロジェクターだけで手軽にできれば、色々な方々にご活用いただけると思います。

そういう方向性は追求していきたいですね。照明の役割だってプロジェクターで担うことができるはずです。四角いスクリーンの枠の中だけがプロジェクターの世界ではありません。立体空間そのものや、空間の中に存在するものすべてに対して、プロジェクターで何かをすることができるのです。 新宿ミライナタワー29階のエプソンのオフィスエントランスとなるエレベーターホールに、プロジェクターで空間演出を施しています。我々が目指すベクトルの線上にああいった表現があります。店舗や住空間にも応用していけます。また発表会の展示でご紹介したガラスのディスプレイと組み合わせた映像表現も、壁だけでなく、空間のさまざまなところに投映の場をつくれて、しかも光が透過するので新たな演出効果が生まれます。サイネージとしてもさまざまな情報をそこで発信できる。光を使っていろいろなことができると思います。

映画をすばらしい映像で見せること、さまざまな表現で空間を演出すること、照明装置のひとつとすること。どれもプロジェクターでできることです。するとホームシアターだけでなく、プロジェクターの可能性はどんどん広がります。ホームシアターやプロジェクションマッピングは、プロジェクターの可能性の一部だということです。さらにさまざまな可能性を追求していきたいと思います。

シェアトップを長年維持しておられ、既存の市場でもご活躍です。往々にしてトップシェアに位置すると、守りに入ってしまいがちですが。

小川まずは既存の市場で、シェアをさらに拡大していくのが基本です。既存の領域もしっかり伸ばして稼ぎ、それを新しい領域に投資して拡げていく戦略です。私は徹底して、新しい領域を切り開くことを考えます。既存の領域で稼ぐのは目的ではなく、新しい領域を切り開くための手段です。その可能性を大きくしていくのが我々のミッションだと思っています。

描いていることの実現はすぐにはできませんが、少しずつやっていけば、プロジェクターに対して新しい捉え方をして下さる方が広がって来て、プロジェクターの世界も変わっていくと期待しています。そうやって使う方と作る側とがインタラクティブに関わっていくと、面白い世界ができていくのかなと思います。

昨今市場では超小型で短焦点のプロジェクターが出ていて、広まりつつありますね。現状ではまだ画が暗い印象ですが、商品の方向性として非常にいいと思います。エプソンでそういう商品を出すとすれば、画が明るく高画質で、簡単に使えるもの。そういうところからもプロジェクターを拡げていきたいと思います。これはそう遠くなく実現できそうですね。

小川 恭範

新たなアイデアを出し
互いに刺激し合う

ショールーム、イベントなど体感の場を拡げていくことも大事ですね。

小川新しい提案をいかにお伝えするか。新宿のオフィスのエントランスホールはまさにその一環で、こういうことはいろいろなところでやってみたいですね。プロジェクターでできることをどんどんお見せしたい。

イベント演出などの方面では、専門の業者さんやクリエイターの方々のお力で広がっています。そこに我々が直接関わりをもち、製品を訴求しています。けれども店舗で使っていただくようなものなどは、オーナーの方がネットをご覧になって気軽に入手して、簡単に使っていただけるようにしたいですね。今はそういうご提案が十分にできていませんし、プロジェクターも手軽に使っていただけるところにはないですが、目指していきたいと思います。

お客様の声を積極的に製品に反映されていますね。

小川お客様のところに直接伺って声をお聞きする活動は、昔からずっと続けています。営業マンはもちろんですが、事業部にいる設計や開発の人間もできるだけ外に出てお客様の声を直接お聞きする。できる限り市場の声をとりいれる発想を徹底させる、ずっとそういう姿勢でやっています。間接的でなく直接聞くと、感じることもモチベーションも違いますね。

エプソンの強みは、お客様の声を真摯にお聞きし、品質面の向上に真面目に取り組むところでもあります。そこはどこのメーカーさんにも負けない自負はあります。おかげさまで安定した品質をお褒めいただく声も頂戴しますし、それがシェアを上げてきた一要因にもなっていると思います。

社内でも最近、自由にプロジェクターの活用を考える動きが盛んです。私が音頭をとって、「Epson25とその先を自由に考える会」を発足しました。有志が集まってアイデアを出し合う場です。ビジュアルプロダクツ事業部はもともと対話会を重視していましたが、もっと自由に何でも話し合える場を作ろうということで。

面白いことを考える人間は社内にたくさんいて、互いに刺激を受けます。10人ほどの幹事が、それぞれワーキンググループをつくってアイデアを出し合っています。先日発表会を催したところ、アイデアが50件くらい出てきました。商品化はそう簡単ではありませんが、技術者を始めいろいろな仕事をする者同士が刺激を受け合い、楽しみながら取り組んでいくことが大事だと思っています。発想の芽はどこにあるかわかりませんから。私自身も積極的にこの会を盛り上げながら取り組んでいきます。お客様の声をお聞きし、新たなアイデアもどんどん出していきながら、プロジェクターの新しい進化に寄与していきたいと思います。

◆PROFILE◆

小川 恭範 Yasunori Ogawa
愛知県出身。1988年4月 セイコーエプソン(株)入社。2008年4月 VI事業推進部長、10月 VI企画設計部長。2016年4月 ビジュアルプロダクツ事業部副事業部長。2017年4月 ビジュアルプロダクツ事業部長、6月 執行役員 ビジュアルプロダクツ事業部長に就任、現在に至る。

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