トム・メッツガー

最高の音楽体験をもたらす
高いステータスを
多くのオーディオカテゴリーの
製品に活かす
ハーマンインターナショナル株式会社
代表取締役社長
トム・メッツガー
Tom Metzger

今年6月よりハーマンインターナショナルの新社長に就任したトム・メッツガー氏。JBLやマークレビンソンなどラグジュアリーオーディオブランドの価値を世界のオートモーティブ市場に拡げた手腕を、日本市場でどう発揮させるか。音楽を愛し日本のオーディオファイルをリスペクトする同氏の、初めてのインタビューをお届けする。
インタビュアー/山本 敦 オーディオビジュアルライター  写真/柴田のりよし

まずご経歴を教えてください。

TM私は1985年にハーマンインターナショナル株式会社に入社しました。オートモーティブ部門に配属され、日本と韓国の担当として87年4月にシドニー・ハーマン博士と一緒に初めて来日しています。90年代初頭から、ハーマンは傘下にあるブランドの車載オーディオ機器をトヨタ自動車様や三菱自動車様に供給し、日本との関わりは深くなりました。今こうしてハーマンインターナショナル ジャパンの社長になったことに不思議な縁を感じています。

その後アジア地域の担当を経た後、2009年にハーマンインターナショナルを離れ、車載通信機器のソフトウェアを開発する企業のGMを経験しています。2013年にビジネスを売却した後、ハーマンインターナショナルの現会長である、ディネシュ・パリワール氏、社長のマイケル・マウザー氏に声をかけていただきハーマンインターナショナルに復帰しました。

24年間アジア・パシフィック地域を担当し、その間に世界中の38の自動車メーカーへ、ハーマングループ傘下にあるブランドの車載オーディオ機器を提供してきました。ソフトウェアの会社で得たノウハウで音声コントロール、クラウド、AIなど先進領域の技術でハーマンの成長に一役買えることを誇りに思います。

優れた技術や知識から
新しい価値を生み出す

これから日本市場で、どんな戦略を展開しますか。

TM技術やノウハウを研ぎ澄ませることはもちろん大事ですが、これからは技術資産や知識を組み合わせて(コンバージェンス)新しい価値を生み出すことも重要だと考えています。私の社長としての経営方針については、まず当社が強みとするテクノロジーのコンバージェンスを加速させること。一例を挙げるなら、マークレビンソンの圧縮音声補間技術である「Clari-Fi(クラリファイ)」テクノロジー。元々カーオーディオから生まれ、最新のホームオーディオに展開したものです。

アメリカでは、オーディオのブームは振り子のように行き来すると言われます。かつてiPodやMP3プレーヤーが隆盛だった頃、クオリティから利便性にトレンドが移行しましたが、今はデバイスのストレージ容量が大きくなり、HD音源のストリーミングサービスも楽しめるようになって、人々の期待は再び「クオリティ」に戻りつつあると感じています。

私たちにはEVERESTやProject K2を始めとするJBLのハイエンドスピーカーや、マークレビンソンのReferenceシリーズによるラグジュアリーブランドとしてのステータスがあり、カーオーディオやポータブルオーディオの分野にも裾野を広げています。また私自身も愛用しているREVELのプロダクトにも、これからはもっとフォーカスしていきます。オーディオ専門店様での展示展開や、試聴会にも力を入れ、それぞれの製品の魅力に触れられる機会を増やすことに注力していき、特にホームシアター、高級オーディオ市場の期待に応える製品やサービスの充実に力を入れていきます。

トム・メッツガー
オーディオ製品の魅力に触れる機会を増やして、店頭でのスペース展開、販売にも注力していきます

ライフスタイル志向も強化
階層ごとに製品を充実

ホームオーディオのラグジュアリー戦略が、すべての源泉になりますね。

TMオーディオは私たちのブランドにとって「ビジネス」ですが、音楽は「ライフ(=命/生命線)」そのもの。私たちは家でも車の中でも最高の音楽体験をもたらすオーディオに注力してきました。私たちがカーオーディオの分野でラグジュアリー戦略を維持しているのも、ホームオーディオで高いステータスを勝ち取っているからです。

これからの課題は、ラグジュアリーブランドの製品をより若い音楽ファンやオーディオファンの手に届くものにすること。マークレビンソンの製品ラインナップはどれも高価でしたが、プリメインアンプ「No585」は機能・性能はそのままに、より身近な価格にできた好例です。

クオリティの高いハイパフォーマンスなオーディオで音楽を楽しむ魅力を伝える、そんな製品を揃えていきたい。その技術やノウハウをベースに、別の価格帯にもラグジュアリーブランドらしいユニークな製品をつくれるでしょう。オーディオファイルの憧れのプロダクトであるJBLやマークレビンソンに、より若い年齢層にも関心を持ってもらえるよう、ライフスタイルプロダクトとしての側面も強化したいと思っています。

JBLのワイヤレススピーカーやヘッドホンは、最高の体験を提供する「ベスト・イン・クラス」「ベスト・イン・パフォーマンス」を目指します。ボイスコントロールでシームレスな操作体験を提供するスマートスピーカーのラインナップも今後は充実させますが、この分野では特にカーオーディオの技術とのコンバージェンスが活きてきます。

我々が持つ多くのブランドの新しいファンになってくれた方が、ステップ・バイ・ステップで憧れのラグジュアリーオーディオを楽しむまで、階層ごとにベストなプロダクトラインを揃えていきたいと思います。そういう意味では、10代の方々も優良なカスタマーとして捉え、将来のラグジュアリーオーディオユーザーになってもらうべく、良い音を体験して欲しいですね。親御さんからのお小遣いをしっかり貯めている世代ですから(笑)。

ハイエンドの製品はテクノロジーが先行しても、若い人が楽しむオーディオはライフスタイルの視点で利便性も同時に追求するべきだと思います。ワイヤレススピーカーの「CLIP」や「FLIP」「XTREME」などは、オーディオのパフォーマンスはもちろん、「防水」「同期(シンク)機能」「アプリ対応」などJBLらしい先進性を実現しています。スマートスピーカーもグーグルやアマゾンと組んで開発しています。ヘッドホンも含め、若い方々が新たにJBLブランドに憧れを抱いてくれるような魅力的な側面を持たせています。

こうしてそれぞれのカテゴリーでベストの座を勝ち取ることで、ハイファイオーディオから続くバリューチェーンがかたちになると考えます。私たちが音楽リスニング体験のゴールとする「スタジオ品質」「ライブパフォーマンスを再現すること」を目指して行きます。

トム・メッツガー

妥協なきベストを追求し
日本市場で活躍する

日本のハイファイ市場や顧客をどう見ておられますか。

TM音楽だけでなく、様々なライフスタイルの側面で繊細なニュアンスを大切にする方が多く、それが日本人の美徳だと理解しています。先日、秋葉原の高級オーディオ店を訪れ、お客様は商品選びでどれくらい試聴されるかと聞きますと、平均8〜9時間ぐらい、時にはまる2日間という方もいるのだそうです。機器をリスペクトしながら音楽の繊細な再現力にも集中し楽しまれるのは、高級ワインを楽しむ体験のようですね。

日本のオーディオファイルのそんな姿を見て、身の引き締まる思いです。革新的でクリエイティブな製品をつくる目線と、JBL70年、マークレビンソン45年という歴史の信望、その双方を次世代の製品に込めることが大切だとあらためて感じました。

ハーマングループの中での日本法人や日本市場の位置づけは。

TMJBLやマークレビンソンの製品をはじめ、ハーマングループ傘下のブランド製品は、世界で展開されているどの国・地域でもプレミアムクラスのステータスを勝ち得ています。クオリティ志向を極めた製品が持つ普遍的な価値は必ず認められる。だから特定の市場に偏ったものづくりはしませんが、オーディオへの感度が高く、オーディオファイルが多数集まる日本市場は、私たちにとって特別です。日本のオーディオファイルの方々のこだわりに届くよう目指すことは、当社製品の実力やステータスを高めることにつながると感じています。 また、日本の方々は先端のテクノロジーに対する感度が高く、進化のスピードが速い市場だとも捉えています。マルチルームオーディオ、家や車にもまたがるコネクティビティ、新築家屋へのホームシアターの導入など、先端のノウハウを必要とするライフスタイルの多面性に対応するためにも、日本市場と真剣に向き合うことは非常に大切です。

スマートプロダクト、IoTデバイスなども含めたコンバージェンスはこれからますます加速するはず。日本市場で成功するためには、すべてのカテゴリーで妥協なきベストを追求することが必要です。

サムスンとの提携で
さらなるシナジーを発揮

サムスングループとの提携が話題となりました。両社のシナジーはどのように発揮されるでしょうか。

TMサムスンは、企業としての私たちの歴史や功績を大変尊重してくれています。これからもグループの中で、ハーマングループ傘下のラグジュアリーオーディオのブランドは、変わらずに独立したポジションで戦略に沿った展開を続けていきます。ビジネスユニットとして、ハーマンインターナショナルは変わらず独立した体制を継続していきます。

シナジー効果はそれぞれのビジネス領域により、違うかたちで現れると思っています。オートモーティブであれば、BtoB領域でのディスプレイデバイス、また5G・モバイル通信など映像伝送に関する技術をサムスンは得意としており、当社のブランドからはHDオーディオの技術が提供できます。一方、ホームオーディオであれば、AKGヘッドホンやイヤホンは、サムスンのスマートフォンの上位機種やタブレットとの組み合わせで、ラグジュアリーなシナジーが生まれるのではないでしょうか。ホーム製品でもサムスンの5Gやワイヤレスの先進技術が私たちのオーディオ製品に融合する機会はあると思います。

ご自身はどんな音楽やオーディオがお好きですか。

TMいい質問ですね、ワクワクします(笑)。私はあらゆるタイプの音楽が好きです。先日はJBLがパートナーシップを組む六本木の「ビルボードライブ東京」を訪れ、色々な音楽に触れとても刺激を受けました。初めて日本を訪れたときは「演歌」や「カラオケ」にも衝撃を受けましたね。私の息子はハードロックのミュージシャンですし、それぞれの音楽が大好きです。ハーマンに勤めてからスタジオエンジニアやミュージシャンたちとも一緒に仕事をしてきましたし、毎日色々な音楽に囲まれながら暮らしたいですね。バスや山手線で通勤している時にも音楽は欠かせない。学校に通う子どもたちがスマートフォンで音楽を楽しんでいますが、「将来のJBLファンだ!」と歓喜して見ています(笑)。

これからがますます楽しみですね。ご活躍を期待しています。

◆PROFILE◆

トム・メッツガー Tom Metzger
1960年2月9日生まれ。デトロイト出身。1985年 ハーマンベッカー・オートモーティブシステムズ(現ハーマンインターナショナル)入社、オートモーティブ部門にてアジア地域を担当。2009年にハーマンインターナショナルを離れ、車載通信機器ソフトウェア企業のゼネラルマネージャーに就任。2013年 ハーマンインターナショナルに復帰。2014年9月 グローバルセールス&ビジネスデベロップメント部門 バイスプレジデント。2017年6月 ハーマンインターナショナル株式会社 代表取締役社長就任。

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