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公開日 2025/09/05 06:30
連載「遠藤義人の全国のインストーラーを訪ねて」

“無理なく楽しみ続けられるオーディオ”から音楽を聴く楽しみを啓蒙、福岡の老舗マックスオーディオ

遠藤義人

福岡の老舗オーディオ&ホームシアターショップで、九州一円でイベントを開催し啓蒙活動を推進しているのがマックスオーディオだ。今回はその拠点である小倉本店に足を運び、社長の早見 直氏と専務の大原由奨氏に話を聞いた。



マックスオーディオ小倉本店を訪れた。1F展示室の様子


「自宅の空間にコレがあれば楽しい」をもっと普及させたい


マックスオーディオ小倉本店は、1Fにある広いホワイエのような展示室を中心に、右手奥にハイエンドオーディオルーム、左手奥にシアタールームを設置する。ちなみに2Fには外階段から入場するライブハウス「音楽館Twilight」があり、こちらは食と音楽の場を提供したいという大原晴三会長の思い入れがたっぷり詰まったお店。本格的なイタリアンと粋な店内意匠が魅力だ。



入って左手にはケーブルなどのアクセサリー類、アナログレコードを展示




アンプやプレーヤーの試聴機も数多く揃える


「店内は撮影禁止ですよ(笑)」と、さっそくジャブをかましながら、早見 直氏(以下、早見氏)が笑顔で登場。イベントも多いし出張などでてんてこまいの様子だが、じっくり話を聞いてくれる温和なスタイルはいつも通りだ。


老舗オーディオショップ然とした店構えゆえ、はじめての人はやや入りづらいかもしれない。しかし、むしろ物売りが前面に出た量販店などと異なり、長い目でじっくり話を聞いてくれるスタッフばかり。“ホームシアター担当” という特定のスタッフは置かなくていいほど全員がすべてのジャンルに精通しているので、物怖じせず訊きたいことを尋ねて、対話しながらシステムアップしていけばいい。



右手奥にあるハイエンドオーディオルーム


ハイエンドオーディオ主体のイメージが強いが、「ネットワークオーディオってどうすればいいんですか」「ホームシアターをはじめたい」といった漠然とした相談ほど、老若男女、予算にかかわらず助けになってくれるだろう。



左手奥にはシアタールームも完備




シアタールーム視聴位置後方の様子


早見氏は次のように語る。


「一般の方からすれば、オーディオもホームシアターも、高価な製品が多くなってしまっています。一方で、従来から趣味としてオーディオを選んでこられた方は、みなさん無理なく楽しんで続けていらっしゃる。クルマほどの “人権” はありませんが、オーディオもひとつの大人の遊び道具として認められるよう努力しています。『空間にこういうものがあれば楽しいですよ』というのを、もう少し普及させたいんです。


時計だって、お好きな方は一個買って満足することはないですよね。それに、上手くセッティングしてあげたらもっとよくなるし、もうちょっとこうしたいという新たな目標が見つかる。そんなことを積み重ねながら、好きな音楽や映画がどんどんよくなって感動が深まる、というお手伝いをしたいんです」


音楽鑑賞のカルチャーを若い人にも。敷居の高さはむしろウリ


この日は、普段は福岡店にいる大原由奨氏(以下、由奨氏)ともお話しすることができた。店頭はもちろん、YouTubeやポッドキャストでの発信まで日々意欲的に取り組む。


YouTubeに出演していると、九州に観光に来たその足で寄ってくれるお客さんもいるという。番組を視聴して考え方に共感したり熱意にほだされたり、親しみがわき「いつかはマックスに行ってみたい」と。


もっとも、マックスオーディオならではのコンテンツを考えるのはなかなかたいへんなのではないか。由奨氏の悩みも深いと推察される。ハイエンドオーディオのイメージをウリにしつつ、新しいものをカジュアルに取り込もうとするならば必ず失敗する。安易に女性向けとか若者向けとかライフスタイル系に振ると、結果的に「手を抜く」とか「妥協する」ことが起きがちだからだ。


それでも由奨氏は「新しい切り口で提案していきたい」と意気込む。


「ぼくは新しいユーザーを取り込もうと甘言を弄することはしたくない、ウソをつきたくないですね。レコードブームに乗っかりたいがために『パチパチノイズこそが醍醐味だ』とか、いたずらに手間がかかるのが愛着だとか、ノスタルジーに走ったりするのはどうかと思うんです。


むしろ、はじめての方だからこそ、オーディオ専門店ならではの視点からきちんと説明し、ご納得いただいた上で趣味をスタートしてほしいと考えています。そんなちょっと踏み込んだ話は、音声のみのYouTubeやPodcastなどで正直に話しています」


そういった意欲が強いのは、若い人と触れあうことが多い由奨氏ならではの危機感が背景にあるようだ。「どこまで視野を広げるかにもよりますが、いまの若い人は、そもそも音楽を聴かないという人が増えている印象があります」と、衝撃的な発言。


「ぼくなんかは、通学するとき音楽を聴くのが楽しみだった。そのとき聴いた音楽を聴けば当時の思い出が蘇るし、いいオーディオで聴いたらさらに感動するものだということを経験的に知っていました。だから音楽は名刺代わりで『どんな音楽聴くの?』の答えで人柄がわかったんです。


でも、いま音楽を聴かない人とはそういう感動を共有できない。『音楽って、いまわかんないもん』という、まったく音楽を聴かないと言う人が増えている印象があります。さらに最近、オーディオで聴く音楽もクラシックではなくなってきているという実態がある一方、ボカロやK-POPのようなコンテンツを音楽じゃないと言う人もおり、世代間の断絶も進んでいるようにも思います」


多様化が叫ばれる中、余暇が減っているという現実。「趣味は?」と訊かれて音楽や映画と答える人が減っているのは致し方ないとして、「聴いているだけいいと思います。まったく聴かないという人はほんとうにいるので」という由奨氏の問題意識は、オーディオ・ビジュアル業界に身を置く者として重く受け止めなければならない。


「当店の敷居の高さは、いい意味でも悪い意味でもあると思っていて、それは『いつか足を踏み入れてみたい』という憧れとして抱き続けていただければいいんです。ぼくは、YouTubeを使って少し親しみを持ってもらいながら、音楽鑑賞というカルチャーを発信していきたいと思っています。楽しいことがたくさんあります、いつでもお待ちしています、というスタンスで」




趣味を同じくする人が集まる空間をつくるのが専門店


ひとつのことの専門性を突き詰める方が、努力はしやすい。ベテラン、若手おふたりの考え方は、そんなことは承前に、そもそもの「オーディオの楽しみを啓蒙していきたい」という意欲に溢れていてブレがない。


マックスオーディオの敷居の高さは、映画や音楽作品をいい画や音で流しながら、趣味の話をじっくりできる環境をつくるために必要なことなのだと合点がいった。


いただいた珈琲を飲み終えて温かい気持ちになり気がついた。2Fの音楽館Twilightも食を絡めつつ、同じ音楽好きとひとつの空間で趣味を共有する場なのだと。


お問い合わせ先





マックスオーディオ 小倉店


福岡県北九州市小倉北区清水2-10-15
TEL:093-591-0469
MAIL:kokura@maxaudio.co.jp
営業時間:10時00分 – 20時00分
定休日:水曜日




 

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