スーパートゥイーター沼への誘い。フォステクスが引き出すマルチアンプ・パラゴンの桃源郷
栗原祥光耳を近づけても蚊の鳴くような音量でシャカシャカしか鳴っていないのに、システム全体に影響を与えるのがスーパートゥイーターというアイテムだ。今年2月、フォステクスから限定販売モデルの「T925A-ST」が登場したので、拙宅のJBLパラゴンにアドオンしてみた。ヴィンテージスピーカーをお使いの方の参考になれば幸いである。
パラゴンに合うトゥイーター探しの旅
パラゴンは、最初から075というトゥイーターを搭載している。このトゥイーターが出す音や音色に不満を抱いたことはない。だが強いて言えば再生周波数帯域が16kHzまでという1点において寂しさを抱いていた。
スペックにこだわるつもりはないが「CDは20kHzまで入っているのに、そのデカいスピーカーは16kHzまでしか再生できないんですね」と口の悪い友から言われると、やはり気になってしまう。
まして100kHzを超えるデジタルファイルが登場する時代。もう少し高域が伸びた方が、と何度も思った。だからといって075を取り換えるつもりはない。それはミッドレンジを受け持つコンプレッションドライバー375との兼ね合いがあるからだ。375があっての075だし、075あっての375である。この関係を崩すことは絶対にしたくない。現状のまま高域を伸ばす道、それがアドオンである。
だが075に合うトゥイーター選びは難しい。理由は2つ。ひとつは音色や力感という問題。いわゆる相性だ。そしてもうひとつが110dBという高能率だ。
色々と試し行きついたのがカン・サウンドラボのGEM TS-208とMewon TS-001の組み合わせ。TS-208を17.5kHzから上、TS-001に至っては23kHzから先の可聴帯域外を受け持たせた時、不肖にとってのオーディオの終着点を見た気がした。だが終着点への切符の価格は、高級コンパクトカーとほぼ同値。シャカシャカ音しか出ないものに払うには、あまりにも高額で諦めざるを得なかった。
それ以後も色々なトゥイーターを試した。得られるものと失うものを天秤にかけ、多くは消えていった。こうして行きついたもののひとつが、ムラタのES-105だった。075と音色が合い、パラゴンとも合い、これならイケるのでは、という手応えを得た。だが90dB/W/mという能率の低さはいかんともし難いものがあった。
結果、別途プリメインアンプを用意してゲインを稼ぐという荒業に行きつくのだが、今度はアンプの音色がメインシステムの音色と合わないという問題に悩まされた。シャカシャカ音を出すためのアンプまで問われるとは夢にも思わず、未だ結論は出ないまま過ごしている。
低能率で使用シーンも広い
話をフォステクスの限定モデルT925A-STに移そう。このモデルは1994年に登場したT925Aというホーン型トゥイーターをベースに、振動板素材をチタンに変更したモデルだ。それに伴い、磁気回路や内部配線材の見直しや、ホーンとイコライザーの形状を変更が行われているという。確かに見た目はかなり異なる。
スペックシートを見ると再生周波数帯域は6k〜20kHzで、能率は100dB/W/m。T925Aの108dB/W/mと比べると低く設定されている。低能率化(といっても100dBあるわけだが)により、普通のスピーカーなら使いやすくなったといえるだろう。だが人によってはマルチアンプ駆動など何かしらの工夫が必要となる。
接続には少し知識が必要だ。一般的には、別途コンデンサーとアッテネーターを用意し、メインスピーカーに対してパラレル(並列)で同相接続することだろう。今回、フォステクスから本体のほかに、同社が販売するフィルムコンデンサーCXシリーズから、容量の異なる3種(2.2μF・約10kHz、1.5μF・約13kHz、1.0μF・約20kHz)をお借りし、ローカット周波数を変えることにした。
話は逸れるが、コンデンサーの種類で音はガラガラ変わる。それゆえ「〇〇のコンデンサーは音が良い」「△△のスピーカーには××のコンデンサーが使われている」という話が持ち上がる。それは「その人、そのシステム」の都合であり、必ずしも万人にあてはまるものではない。併せて同じ銘柄でも、容量によって音の傾向が異なる場合もある。結果、買って試して、また買って……を繰り返す「コンデンサー沼」に陥りやすい。筆者も何度となく沼で溺れたクチだ。コンデンサー選びは楽しいが、ほどほどで止められることをおすすめする。
T925A-STの接続はメインアンプから直接ではなく、オーラのプリメインアンプ「VA200 Stingray」を用いたマルチアンプ駆動とした。これは拙宅のパラゴンが内蔵ネットワークを使わず、エレクトリック・クロスオーバーを用いて、ユニットごとにアンプを割り当てるマルチアンプ化をしているためだ。そのため高域用アンプにT925A-STをつなげた場合、075との間に能率差(10dB)が発生する。よって変則的な使い方で試聴したことを予め申し上げる。
高域を変えれば低域も変わる
トゥイーターの調整は簡単なものではない。同じ曲の同じ場所を聴きながら、接続(位相)を変え、コンデンサーを変え、レベルを変え、位置を変える。その時は「コレだ!」と思っても、寝て起きたら「コレじゃない!」は日常茶飯事。そして、また同じことを繰り返す。
何も知らない人が見たら「この人は頭がオカシクなったのか?」と思われることだろう。そのオカシクなった先、1.0μF/同相接続/ボリューム位置10時/075より少し前方に配置という段階で、桃源郷の入り口が見えた気がした。再生周波数帯域が20kHzまでのトゥイーターで20kHzから上しか使わないのか? と言われそうだが、それがベストだったのだから仕方ない。
T925A-STは、不肖が記憶しているT925Aよりも暖色傾向で、情報量よりも表現に重きを置いたユニットであると聴いた。ピタリと合わせるとスピーカーから極彩色の音が溢れ出す。とはいえ、大きく主張はしないので、素材の魅力は活かしながら少し手を加えて旨味を引き出す、日本料理のようなトゥイーターといえそうだ。075とつなげる際の懸念点であった力感もキチンとついてくる。
マイルス・デイビスの名盤『Four & More』の1曲目「So What」は、ドラマーのトニー・ウィリアムズが紡ぐシンバルレガートが聴きどころ。当然075が大活躍するわけで、T925A-STが075についてこれるかが勝負となる。
結論は合格。全体的に明るさが増した表現は好みの別れるところだが、スティックでシンバルを叩く度に、金粉をさらに振りまくかのような再現にゴキゲンだ。不思議なのはロン・カーターのベースが、より躍動するかのような表現になったこと。高域を変えれば低域も変わる。オーディオとは本当にミステリアスだ。
ホーン型スピーカーは弦楽器が苦手という声をよく耳にする。不肖はそのようなことはないと思っているのだが、春めいてきたのでヴィヴァルディの四季で試すことにした。指揮者はクラウディオ・アバド、奏者は鬼才ギドン・クレーメルとロンドン交響楽団。
切れ味の鋭い透徹な響きに、T925A-STが僅かな色どりを添えた表現。まさに飛んでくるという言い方が相応しい。高級リボントゥイーターには劣るものの、繊細な表情、細やかさもあり、浸透圧の高さと相まって、我が家のシステムに春の訪れを感じさせた。
最近、中東情勢を見聞きしない日はない。そこで地球環境や戦争などをテーマに、マイケル・ジャクソンが生前最後に歌った曲として知られる「EARTH SONG」を、アナログとハイレゾの両方で聴いた。
マイケル・ジャクソンは、この楽曲内で悲しい問いかけと、壮大なコーラス隊をバックにした魂の叫びという多彩な表情をみせる。T925A-STを加えたことで、その繊細さと力強さが一層引き立たせる。075の強さにT925A-STの繊細さが加わると、このような表情を魅せるのか――。この豊かな表現に、筆者が思い描く桃源郷の入り口が見えた気がした。
アナログは、雄大なステレオイメージはハイレゾに譲るものの、音の厚、声の圧という点で上回る。それに伴ない、楽曲からは、より多彩な表情を覗かせる。恐らくレコードはハイレゾファイルよりも高域は減衰しているだろう。
20kHzでローカットをしているTS925A-STの出番も少ないかもしれない。だが加えると表情が豊かになる。その理由はよくわからない。わからないということがわかった、それだけで十分だ。とにかくこの扉を開けてみたい、そういう気になったところで試聴時間のリミットが訪れた。
そして終わらないトゥイーター探しの旅
T925A-STは、我が家ではハマったものの、読者諸兄全員に合う商品とは思っていない。それゆえ「コレは絶対にイイ」と言うことはできない。強いていえば、貴殿が明快な音像を求め、調整とコンデンサー選びの沼に飛び込む覚悟があるなら、現有システムに加えて試す価値は多いにある。上手くハマれば、音楽がより豊かな表情を魅せ、聴いていて愉しくなるポテンシャルをT925A-STは間違いなく有していると断言できる。
T925A-STをきっかけに、不肖は他の同社トゥイーターを聴いてみたいという気持ちに傾いている。終着点行きの切符は高くて手が出なかったが、幸いにも桃源郷入口の切符は、そこまで高くはない。同社トゥイーターの他製品なら、桃源郷の扉が開くのか、ひょっとしたら終着点までたどり着けるのか――。不肖の中で少し納まっていたトゥイーター選びが、また始まりそうだ。