得意のソフト開発力で独自R-2Rの音を深化!HiBy「RS8 II」のサウンドをプロトタイプで先行体験
野村ケンジ独自FPGAを搭載したファン待望の第2世代
HiByより、新しいフラグシップDAPが約3年ぶりに登場する。それが「RS8 II」だ。今回、『プレミアムヘッドホンガイドマガジン Vol.23』誌の記事用に中国から開発途中のプロトモデルを取り寄せ、いち早く取材を行うことができたので、スペック面の進化とサウンドについて紹介していこう。
詳しい人ならば名称でわかるかもしれないが、RS8 IIはHiBy独自のR-2R回路「DARWINアーキテクチャー」を搭載したハイレゾ対応DAP。DARWINが初お披露目となった2021年10月発売「RS6」から約4年の時を経ており、さらなる進化を果たした第3世代となる「DARWIN III DACアーキテクチャー」が搭載されている。
このDARWIN IIIでは、基盤となるコア設計から上流工程に至るまで、ハイレゾオーディオ再生の全ワークフローを再構築。回路設計の最適化やFPGAの高性能化、抵抗のマッチング向上など、DA変換の過程で生じる誤差を隅々まで精査することで、忠実度の高いDA変換とともに、THD+Nを0.0008%以下に抑制した良質さをも実現しているという。
DARWIN IIIでは、LRの電源分離、多段階降圧回路の採用、抵抗ネットワーク設計と電子スイッチ間のマッチング精度の改善、R-2R回路の自社開発など大きく4つのブレイクスルーを達成。一般的にTHD+Nの数値を下げにくいR-2R DACで0.0008%以下という驚異的なS/Nを実現。これはDARWIN IIとの比較で約10分の1も低歪である
ちなみに、R-2R DACシステムは、無数の抵抗をスイッチとして活用することでDA変換機能を実現するもので、抵抗の精度を揃えなければならなかったり、小さい専有面積で設計することが難しかったりと、良音質をつくり上げるために幾つか越えなければならないハードルがある。
それを、HiByならではのモノづくりの確かさとソフトウェア開発の巧みさによってつくり上げられたのが「DARWINアーキテクチャー」であり、さらに大きく進化したという最新世代には、当然ながら期待が高まる。
なお、DARWIN IIIは単なるR-2Rラダー回路DACというだけでなく、可変FIRフィルターやハーモニックコントローラー、NOS/OSスイッチャー、DSDパススルーなど、音質に関する様々な機能性を持ち合わせた統合的なシステムとなっている。R-2RならではのNOS(ノンオーバーサンプリング=ビット拡張しないそのままの音)が堪能できるだけでなく、音質や音色傾向に関わる様々な調整を行うこともできる。
DSDパススルーによって、よりダイレクトなDSD音源を楽しめるのもいい。それらを一元してコントロールできるのだ。このあたりは、ソフトウェア開発を得意とするHiByならではの魅力といえる。
自動でA級とAB級を切り替えるアンプ技術
そのほかにも、RS8 IIにはフラグシップモデルならではの様々な技術が投入されている。
まず、ヘッドホン出力に関しては、これまで同様4.4mmバランスと3.5mmアンバランスの2系統を、加えてライン出力も4.4mmと3.5mmの2系統を用意。動作電圧を倍以上(3.87Vから7.8V)へと変更することで、最大出力をわずかながらも向上させている。
クラスA/クラスAB動作切り替え、ターボオン動作の設定などは引き続きの採用となるが、高インピーダンスのヘッドホンなどを楽しみたい場合には大変重宝する。
また、搭載されているバッテリーも回路に合わせて7.8V高電圧タイプへと変更されている。こちらによって、より効率的な出力を得るとともに、更なる低歪みを実現しているという。ちなみに、連続再生時間は約18時間と、1bit DAC搭載モデルの「R8 II」(こちらは約20時間)と大差なく、実用的な数値を確保している。
加えて、興味深い機能が新開発の「アダプティブ増幅技術」だ。こちら、入力されてくるオーディオ信号を瞬時に解析して、アンプへの電力供給を瞬時に最適化。常に必要十分な増幅と電力を供給しつつClass Aアンプ品質を維持することで、接続された機器に最適なサウンドを実現。同時に、バッテリー持続時間の延長にも貢献している様子が窺える。
A級増幅は、ゼロクロス歪みという0V付近で出力が途切れることがなく、常にピーク出力を維持できるため優れた駆動力を持つのが特長。しかし、常にバイアス電流を流すことが必要なため、消費電力も発熱も大きくなってしまう。
AB級は0V付近だけA級動作に近い振る舞い方にして発熱を抑制する仕組みだが、歪みや駆動力という面ではA級の方が有利。
こうした両者のメリットを享受するために、HiByでは再生前に楽曲のダイナミクスを解析し、音のピーク出力を自動でカスタマイズして切り替えを行う。A級とAB級の切り替えステップも64段階と細かく、理想的な音質、消費電力、発熱の抑制を得ることができる
もうひとつの新機能「Sankofa AI Tone Cloning」も興味深い。こちらは、オープンリールやレコード、カセット、MD、CDなどのクラシック・メディアを徹底的に研究。実機のサンプルデータを元にリアルタイムの音質シミュレーションを提供するというもの。配信音源や最新ハイレゾ音源などを、オープンリールテープやレコード風なサウンドに仕立ててくれるのは面白い。また、MDはもとより、CD特有のサウンドはどういったものを造り上げているのか、大変気になるところ。
残念ながら、この機能は後日のアップデートを予定しているとのことで、プロトモデルには実装されておらず、試すことができなかった。チャンスがあれば、体験してみたいと思う。
加えて、I2Sモードによるデジタル出力が搭載されているのも興味深い。これは外部DACとの接続を想定したもので、RS8 IIをデジタルトランスポートとして活用するシステムが構築できるという、なんとも贅沢なプランのための出力。確かに、デスクトップシステムなど室内活用で重宝しそう。なお、I2Sはピンアサインが複数あるため注意が必要だ。RS8 IIでは主要3タイプに対応する予定だという。
ちなみに、対応フォーマットは、PCM 1536kHz、DSD1024に加え、MQA16X展開まで幅広くカバー。ハイレゾ音源に関しては、(よほど特殊なものでないかぎり)ほぼ全てを再生することが可能となっている。
ワイヤレスに関しては、Wi-Fi7とBluetoothを両搭載している。Android 13をベースにHiBy独自のカスタマイズを加えた「HiByOS」の採用と合わせて、スマートフォンライクな操作感をも持ち合わせている。この使い勝手のよさもHiBy製DAPの魅力といっていい。
明瞭さとダイナミックな音 そして自然な表現が共存
さて、肝心のサウンドはいかなるものだろうか。一聴して感じたのは、HiByらしいヌケのよさ、ダイナミックな表現と、R-2Rらしい自然な表現との巧みな両立だ。
DAPには大きくわけてふたつ、ありのままの再生を目指すニュートラル派と、音楽を楽しく聴かせる演出派との2タイプがあるが、RS8 IIはどちらかというと後者。彫りの深い躍動感あるサウンドを、生々しい音色で聴かせてくれる。解像度の高さから、ボーカルも楽器も細やかなニュアンスがしっかりと伝わってくるのもいい。
たとえば女性ボーカルは、わずかにハスキーな、凜とした歌声を聴かせてくれる。バイオリンのボーイングも普段より力強く感じるし、ドラムはキックもスネアもスピーディでキレがよく、グルーブ感溢れる演奏が楽しめる。
今回の試聴ではRS8 II最大の魅力であるNOSモードが試せなかった等、すべてを引き出したとはいえないが、それでも、フラグシップらしい魅力溢れるサウンドを聴かせてもらうことができた。是非是非、皆さんもこのサウンドを体験してもらえたらと思う。
製品概要
HiBy ポータブルオーディオプレーヤー「RS8 II」
2026年2月上旬発売予定
オープン価格
【SPEC】●DAC:DARWIN III(第3世代DARWINアーキテクチャー) ●最大対応サンプリング周波数/量子化ビット数:PCM 1536kHz/32bit、DSD 44.8MHz ●アナログ出力端子:4.4mmバランス(バランス/バランスラインアウト)、3.5mmアンバランス(PO/LO 兼用) ●出力:未定 ●内蔵ストレージ:512GB(RAM 16GB/MicroSD最大2TB対応) ●再生時間:約23時間(AB級/3.5mm接続時) ●外形寸法:75.7W×148.5H×24.1Dmm ●質量:約425g
(協力:ミックスウェーブ)
※本記事は、『プレミアムヘッドホンガイドマガジン Vol.23』所収記事を再編集/転載したものです
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