“The home theater” を謳うデノンAVアンプ「AVC-X2850H」の真価をPolk Audio/DALI/B&Wで引き出す
大橋伸太郎エントリークラスから15ch搭載のトップエンドモデルまで、AVアンプのフルラインアップを擁するデノン。その中でホームシアターの奥深い世界への入り口として、ロングセラーを続けていたのが2022年発売の「AVR-X2800H」 。本モデルをベースに音質をブラッシュアップし、新機能も追加した「AVC-X2850H」が今秋に登場した。
そのキャッチフレーズはずばり “The Home Theater” だ。映像面ではコンパクトな4Kプロジェクターや超短焦点プロジェクターなどが登場し、ホームシアターの勢いが増している最中、デノンが多くのオーディオビジュアルファンに贈るモデルは、どれほどの実力を秘めているのだろうか。
本稿では、現在人気のスピーカーブランドの三傑、Polk Audio/DALI/Bowers & WilkinsをAVC-X2850Hのパートナーとして指名。エントリー/ミドル/ハイグレードの3クラスそれぞれで5.1.2chシステムを構築し組み合わせてみた。AVアンプのベストセラーモデルはどのように生まれ変わったのか、その真価のほどを見極めてみよう。
「HDMI入力用ジッターリダクション」でジッターの大幅低減による音質改善に踏み込む
AVC-X2850Hは、最大出力185W(6Ω/1ch駆動)の7chディスクリート・パワーアンプを搭載し、Dolby Atmos/DTS:Xといった主要の立体音響フォーマットをカバーしたミドルクラス。本モデルは3つの大きな進化点を持っている。
高音質を追求したポイントのひとつが「HDMI入力用ジッターリダクション」を搭載したことだ。D/Aコンバーターの音質を損なうデジタル信号の時間軸上で発生する “ゆらぎ” のジッターを低減する機能であり、D/Aコンバーターの動作の精確さが増し、音質の歪をなくすことができる。AVC-X2850Hは最新のHDMI入力ICの投入で、HDMI入力時のジッターを大幅に低減し、音質改善を成し得ている。
チューナーからのノイズ混入を回避し、最新世代のHEOSモジュールに刷新
本モデルの型番が「AVR」から「AVC」へと変化したことに気付かれただろうか。RはFMチューナーを搭載する “レシーバー” の略称だが、AVC-X2850Hでは、チューナーが非搭載となったのだ。そのためチューナーが発する高周波数のノイズが電源ラインを伝ってオーディオ回路に混入することがなくなり、S/Nの向上を実現している。
また上位機種「AVR-X3800H」にも搭載されている高品質パーツの共有化もされている。音質をもっとも左右するブロックコンデンサーにはニチコン製の大容量12,000μF/71Vを採用し、整流ダイオードも上位機から継承している。
そしてネットワーク再生のプラットホームであるHEOSモジュールを、「AVC-A10H」で採用実績のある最新世代モジュールにアップグレードすることで、ネットワーク再生における処理速度を格段に向上させている。
音声信号レベルがリアルタイムで確認できる「チャンネル・レベル・モニタリング」がユニーク
D/Aコンバーターからデジタル部、アナログ部や電源部までピュアオーディオグレードのELNA製コンデンサーを投入。電源部には大型ELトランスを搭載し、パワー部/プリ部用に巻線を分離させ、基板のパターンも厚くし、2chパワーの70%を5ch同時出力時に保証するなど、ミドルクラスの域を超えた充実の内容を誇り、デノンAVアンプの高音質コンセプトである「Vivid & Spacious」がさらに進められている。
そして初お目見えなのが「チャンネル・レベル・モニタリング」だ。再生中の全7chの音声信号レベルをリアルタイムでテレビやプロジェクターなどの映像機器に表示できる機能で、オーディオビジュアルファンのツボを捉えたユニークな機能といえる。
Polk Audio “SIGNATURE ELITEシリーズ” を組み合わせる
Polk Audioの中堅ラインである “SIGNATURE ELITEシリーズ” はテリレン・ドーム・トゥイーターやポリプロピレンにマイカ(雲母)を加えたウーファーユニット、低音の質と量を改善するPower Port構造がシリーズ共通の特徴だ。
フロントLRには、25mmトゥイーター1基と165mmウーファー3基を搭載する、シリーズ最大のフロア型「ES60」、サラウンドLRに同じく25mmトゥイーター1基と165mmウーファー1基を備えるブックシェルフ型「ES20」、センタースピーカーには25mmトゥイーター1基と130mmウーファー2基を投入した「ES30」を組み合わせたシステムになっている。
SIGNATURE ELITEシリーズはイネーブルドスピーカーがラインナップされていることも特徴で、センタースピーカー同様に25mmトゥイーターと130mmウーファーを1基ずつ備えた「ES90」、そしてサブウーファーには200mmウーファーを搭載した「ES8」をチョイスした。
「効果音や細かい音情報を鮮明に拾い上げ、ライブ会場の違いも忠実に描き出す」
試聴してみると、セリフの音離れがよく聴き手に向かって飛んでくるのが印象的。サラウンドのオブジェクトの動線が明瞭そのもので、音が籠らずからりと明るい米国スピーカーのDNAを強く感じさせる。AVC-X2850HのDSPの音場表現力が増しており、オブジェクトの動きが明解でスピード感が豊か。
4K UHD BD『ウィキッド ふたりの魔女』は、Dolby Atmosの音場空間が広く、オブジェクトが縦横無尽に音場をかけめぐり、箒に跨がった魔女がスピード豊かに音場を上昇下降していくのが痛快だ。
新搭載のHDMIジッターリダクションの効果は大きく、4K UHD BD『名もなき者』では、主人公の若きボブ・ディランがギターを弾き歌うN.Y.のライブハウス、CBSレコードスタジオ、TVスタジオ、ニューポートフォークフェスティバルの音響の変化を忠実に描き出す。
効果音や細かい音情報をおろそかにせず、逐一鮮明に拾いあげることも特徴であり、ディランの “裏切り” に困惑した聴衆たちがフェスティバル会場に騒乱を巻き起こす映画のクライマックスは、聴衆のヤジ、怒号が飛び交うアメリカ音楽史上の大事件を目撃する緊張感を生む。
「スピード感や鮮鋭感において著しい進化を感じさせてくれる」
優れたデジタル部が生む明快な移動表現は、AVC-X2850Hの最大の強み。4K UHD BD『キングダム・オブ・ヘブン』は、エルサレム王国を包囲するイスラム軍の放つ投石の巨大な質量が頭上高く試聴室に飛び交い、サブウーファーの低音効果が著しい。アクションシーン、殺到する軍馬の足音、巨大な攻城器の転覆に重量感がある。
AVC-X2850H は、信号経路の短縮、パーツの高品位化でS/Nに優れるアンプであるため、動的表現が鮮やかな分、ドラマシーンの静寂の表現も効果的だ。スピード感や鮮鋭感においてAVC-X2850Hの進歩の歩幅の大きさを知らしめてくれた。
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