“The home theater” を謳うデノンAVアンプ「AVC-X2850H」の真価をPolk Audio/DALI/B&Wで引き出す
DALI “OBERONシリーズ” を組み合わせる
DALI “OBERONシリーズ” は、同社ラインナップの中では入門クラスに位置するシリーズだが、歪みを低減することで、中音域のディテールを豊かに再現する特許技術「SMCテクノロジー」を搭載していることが大きな特徴だ。同社ならではの硬く軽量なウッドファイバー・コーン、クラス最大の大口径29mmソフトドーム・トゥイーター搭載による自然なサウンド表現を得意とするシリーズだ。
メインのフロントLRに29mmトゥイーターと1800mmダブルウーファーを搭載しているフロア型「OBERON 7」、サラウンドLRにフロア型と同一のトゥイーターとウーファーを1基ずつ備える「OBERON 5」、センタースピーカーは29mmトゥイーターと130mmウーファーを2基の構成となる「OBERON VOKAL」を組み合わせた。
イネーブルドスピーカーにはシリーズは異なるが、DALIブランドで共通してシステムに組み込みやすい「ALTECO C1」を選択。サブウーファーには230mmアルミ・ダイアフラム・ウーファーを装備し、OBERONシリーズに組むのに適した「SUBE 9N」を組み合わせたシステムとした。
「一流映画館のようなどっしりとしたバランスで低音の轟きも重厚」
一聴するとしっとりと落ち着いた音調のDALIは、音場型が主流のヨーロッパのスピーカーの中でもっとも音像中心の積極的な描写であり、改めて欧州サウンドと実感させられる。深みのある陰影感は米国スピーカーでは得難いものだ。AVC-X2850Hはタイトで高解像度、明解な音調が特徴のアンプであり、重厚濃密と軽快俊敏という対照的なキャラクターのアンプとスピーカーの組み合わせなのだが、両モデルが補い合い絶妙なバランスが生まれた。
4K UHD BD『パリ、テキサス』の冒頭は、重厚な響きのスライドギターが映像のモハーヴェの荒野と対峙するように試聴室に現われる。終盤の再会した夫婦の対話も落ち着いた厚みのある声音であり、一流映画館で聴いているようなどっしりしたクラシックなバランスが印象的だ。4K UHD BD『キングダム・オブ・ヘブン』は、OBERON 7とSUBE 9Nの威力によって、馬群の跫音が怒濤のように轟き、巨大な攻城器の前進が試聴室の床を這う。
「くっきり透明感のあるナチュラルサウンドでボーカルを美しく表現する」
4K UHD BD『名もなき者』のニューポートフォークフェスティバルのシーンは、エレクトリックサウンドが試聴室に充満し重いビートを刻み、往年の映画館の躯体全体が鳴っているような飽和感にワクワクさせられる。くっきり透明感のあるナチュラルサウンドがDALIの魅力だが、ジョーン・バエズ役モニカ・バルバロとボブ・ディラン役ティモシー・シャラメのデュエットは2人の声が試聴室に冴え冴えと浮かび上がる。
ボーカルの美しさは4K UHD BD『ウィキッド ふたりの魔女』でも発揮され、リリックなアリアナ・グランデとドラマティックなシンシア・エリヴォの声質の対比が明瞭で美しい。再生システムの存在を忘れて映画から音楽にまで入りこめるという点で素晴しい好相性だ。
Bowers & Wilkins “603 S3シリーズ” を組み合わせる
英国を代表するスピーカーブランドのBowers & Wilkinsは、“なにも足さない、なにも引かない” を目指す原音再生に尽きるブランド。“600 S3シリーズ” は、同社のなかでもベーシックシリーズであり、トゥイーターの振動板に、従来のアルミに替えてチタニウム・ドーム、ミッドレンジに “700 S3シリーズ” で実装したコーンFST、ウーファーにべーパー・コーンを採用している。
25mmトゥイーター1基、150mmミッドレンジ1基、165mmウーファー2基を搭載したフロア型「603 S3」をフロントLRとし、25mmトゥイーターと130mmミッドレンジを1基ずつ備える「607 S3」をサラウンドLR、そして25mmトゥイーターと130mmミッドレンジ2基の構成となるセンタースピーカー「HTM6 S3」によるシステムを構築。
サブウーファーはアラミド繊維が含まれたペーパー・コーン採用の250mmウーファーを搭載した「ASW610」、イネーブルドスピーカーは同社にラインナップがないため、今回はDALIのALTECO C1を組み合わせた。
「端正で緻密な再現力と色付けのなさの相乗効果でサウンドデザインの細部も再現」
4K UHD BD『ウィキッド ふたりの魔女』のアリアナ・グランデの歌声に倍音が乗り甘美な艶であり、色付きがないことが相まって明るく美しい。滲み出るような艶やかさであるため、音楽の再現力は明らかに優れる。帯域バランスにムラや付帯音がないため、ミュージカルの要の歌声が伸びやかで活き活きとして歯切れも良い。シンシア・エリヴォの力強い絶唱が、音場を真っ直ぐに貫き快感だ。
続いて4K UHD BD『名もなき者』では、AVC-X2850Hの端整で緻密な再現力とカラレーションのない600 S3シリーズの相乗効果によって、クラブ、スタジオ、フォークフェスと移り変わっていく主人公の演奏現場が試聴室の音場に次々に出現し、サウンドデザイン上の細心の工夫がありありと伝わってくる。
「制作者の音作りへのこだわりまで緻密に表現する高感度な組み合わせ」
4K UHD BD『パリ、テキサス』の冒頭、スライドギターが音場中央に強い音の芯を備えて現われ、AVC-X2850Hと600 S3シリーズの組み合わせならではのリアルな実存感がある。センタースピーカーのレスポンスがよく、俳優の声の演技をきめ細やかに伝える忠実性があるため、終盤の妻との再会、そして対話は囁きあう肉声が嗚咽に変わり、2人の心のあえぎを生々しく伝える。
4K UHD BD『キングダム・オブ・ヘブン』は、馬群の跫音、兵士の喚声、大軍と大軍があいまみえ、ぶつかる巨大な衝撃の立ち上がり収束が俊敏。LFEを含め遅れがなく、映像との完璧な一致が生まれ、映画の作り手が企図した聖地をめぐる戦場の臨場感が現出する。
AVC-X2850Hはどちらかというと力技より緻密な表現が身上のアンプだが、600 S3シリーズとの組み合わせではアクション大作の再現力に手を緩めず素晴しい。映画のジャンルを問わず音作りにこだわった作品ほど威力を発揮する高感度なシステムといえよう。
“The home theater” の惹句にふさわしく、スピーカーの個性をしっかり引き出す
AVC-X2850Hと3通りのシステムを組み合わせてみて印象深かったのは、デジタル/アナログの両面における完成度の高さだ。ことHDMIジッターリダクションの搭載が功を奏しており、Dolby Atmosのオブジェクトの動線描写が精度とスピードを増し、歪みが少なくS/Nの高い音場表現を成し得ている。
ボリュームゾーンのモデルだが、緻密で端正な音質で、癖の少ないアンプである。そこに米国のDNAを受け継いだ少々やんちゃなPolk AudioのSIGNATURE ELITEシリーズが、優等生のアンプから荒々しい活力を引き出していた。
筆者が最も強い印象を受けたのがDALIのOBERONシリーズだ。描き出す音影が濃く、どっしりと落ち着いており、音場が広々と深く大きい。ひとことでいうと映画館的なのである。システムの存在を忘れさせるシネフィル向きのサウンドを獲得できる。
Bowers & Wilkinsの600 S3シリーズは、グレードの高さが着実に表れ、AVC-X2850Hとは鉄板の組み合わせである。透徹した音質はソースを選ばず、映画ソフトからHEOSを使ったネットワーク、ストリーミング音楽再生まで死角はない。
キャラクターが異なる3通りのシステムの魅力をしっかりと引き出すことができたAVC-X2850。“The home theater” の惹句に相応しい仕事ぶりだ。デノンAVアンプの新展開を告げる製品であり、ここからのロングセラーは約束されたといっていいだろう。

[SPEC]
デノン「AVC-X2850H」
●アンプch数:7ch ●定格出力:95W(8Ω、20Hz〜20kHz) ●実用最大出力:185W(6Ω) ●周波数特性:10Hz - 100kHz ●自動音場補正:Audyssey MultEQ XT ●対応3Dオーディオフォーマット:Dolby Atmos、DTS:X ●対応サンプリング周波数/量子化bit数:PCM→最大192kHz/24bit、DSD→最大5.6MHz/1bit ●対応HDRフォーマット:HDR10、HDR10+、Dolby Vision、HLG ●対応音楽ストリーミングサービス:HEOS App→Amazon Music、AWA、Deezer HiFi、Qobuz、Spotify、SoundCloud、tunein 他 ●対応ワイヤレス:Wi-Fi(5GHz/2.4GHz)、Bluetooth Ver 5.4 ●コントロールアプリ:Denon AVR Remote ●主な入力端子:HDMI×6、光デジタル音声×2、アナログ音声(RCA)×5、PHONO(MM)×1、USB Type-A×1、LAN×1 他 ●主な出力端子:HDMI×2(eARC対応)、サブウーファープリアウト×2、ヘッドホン×1 他 ●消費電力(待機時):500W(0.1W) ●外形寸法:434W×167H×341Dmm ●質量:9.5kg
(提供:株式会社ディーアンドエムホールディングス)
