ユニバーサル ミュージック、“キャピトル・スタジオ・クオリティ”のドルビーアトモススタジオを新設
2025/05/30
スピーカー再生の鬼門とも言えるのが「低音」である。現実的なスピーカーサイズでいかに豊かな低音を得るか。それも、音楽再生にとって如何に自然な低域再現を得るのか。これまで様々な工夫が試みられてきた。
その一つと言えるのが、トランスミッションライン方式と呼ばれるキャビネット構造だ。スピーカーユニットの裏側から出た音を、長い音導管を通過させることで低域成分のみを増圧させるもの。この方式は、一般的なバスレフ型と比べて、複雑な構造と計算や調整が必要となるため、現代では自作スピーカーを除けばほとんど見かけることがないものとなっている。
そんなトランスミッションライン方式に一貫してこだわるのが、英国ブランドのPMCである。PMCはBBC(英国放送協会)のエンジニアであったピーター・トーマスが1991年に設立したブランドで、PMC、即ち「Professional Monitor Company」という名の通り、BBC用のモニタースピーカー作りからスタートしたメーカーである。
現在でもキャピトル・スタジオなど世界的なスタジオを始めとして、日本の有名スタジオや企業にも導入されており目にする機会も多く、その実力は広く認められている。
ラインナップとしては、プロ向けモニタースピーカーを中心に、コンシューマー向けも用意されるほか、プロ向けで一般的なアンプ内蔵モデルとアンプ非搭載のパッシブモデルを両面展開するなど、豊富な製品も魅力的だ。
このたび、株式会社エミライが国内代理店として日本展開をスタートさせ、エントリーラインとなる「Prodigy」シリーズと、その上位シリーズとなる「Prophecy」が日本でも新登場したので、早速レビューしていこう。
両シリーズに共通する大きな特徴は2つ。1)先述の通り、キャビネット構造にトランスミッションライン方式を採用していること、2)トランスミッションラインの音の出口にF1の空気制御技術を応用した「Laminair」を採用していることだ。
筆者も以前PMCスピーカーを自宅にて愛用していたのだが、その魅力はモニター然とした描写力と、トランスミッションライン方式ならではの充実した低域再現にあると強く認識している。
一般的にトランスミッションラインは、一定の幅を持った音道をキャビネット内に展開させて1/4波長の周波数を増強させつつ、音道内に吸音材を配置して狙った低域エネルギーだけをポートから取り出す方式だ。よって、一見似た構造に見える、放物線状のテーパーがかかったロードを展開させるバックローデッドホーンとは原理的に異なるものだ。
かつて筆者もPMCで初めてそのサウンドを聴き、スピーカー筐体やウーファーサイズから想像するよりも遥かに深いローエンドと、独特の密度を持った低域の質感に魅せられたことをよく覚えている。
両シリーズでは、PMCが長年のノウハウを元に積み重ねてきた独自のトランスミッションラインである「アドバンスド・トランスミッションライン」方式に、F1カーの流体力学で得られた空気制御技術を応用した「Laminair」を組み合わせることで、最新PMCならではのサウンドが生み出されている。「Laminair」は、ポートの出口に形成された縦方向に配されたフィン形状の開口部だ。ここで空気の流れを「層流(Laminar Flow)」化することで、風切り音や付帯音を抑えてクリーンな低域を実現するのだという。早速、試聴をしてみよう。
エントリーシリーズとなる「Prodigy」シリーズの末弟が「Prodigy1」だ。27mm径のソフトドームと133mm径ウーファーを組み合わせた2ウェイ・ブックシェルフである。
音が出た瞬間に実感するのは、極めて目の細かい粒子がサラサラと流れるかのような、きめ細やかな音の肌合い表現である。音のヒダを一つ一つを丁寧に掘り出していくかのような、きめ細やかな描写が極めて印象的だ。
ソフトドームというと、ともすると、ナチュラルだが解像感は穏やかな傾向も想像しがちだが、本機の描写は、硬さや癖のない音色はソフトドームならではだが、ディティールが深く細かく、そして、しっかりとしたエネルギーで聴き手に迫る勢いがある。その細かさや均質なエネルギー感が、モニタースピーカーならではの所以を感じさせるのだ。
また、スピーカーから発せられる音が、まるで楽器から発せられるかのような、パンッと張った勢いに満ちたものであることも特徴的だ。ヴァイオリンにしろアコースティックギターにしろ、打楽器にしろ、共鳴構造を伴った箱型の楽器で鳴りの良い個体というものは、僅かに触れただけでも明瞭なサウンドが自発的に飛び出してくるものだが、まさにそれのような鳴りの良さ、活きの良さがあるのだ。
また、音色のキャラクターも、本機独特のものがある。中低域に張り出しが豊かで、ヴォーカルやスネアドラムの存在が聴き手へと迫ってくるプレゼンスがある。
総じて、瞬発力の高いサウンドで、次世代のPMCサウンドを象徴している。これは「Laminair」ポートの恩恵かと推察するが、筆者が使用していた初期のPMCよりも、ポートから出てくる低音がプレゼンス豊かで、プッシュされている感じなのだ。ポートから放出される音をなるべく目立たなくする方向性というより、スピード感や抜けの良さを最大限重視しているように感じられた。
続いて、トールボーイ型となる「Prodigy5」を試聴。こちらは「Prodigy1」とユニット構成やクロスオーバーは同一でキャビネットサイズだけが異なるモデルだ。先述した反応の良いサウンドは引き継ぎつつ、ローエンドの充実度がアップしている。低音の量感が上がって低音楽器の支配力が強まり、中域や高域の反応の良さはそのままに、もう少しゆったりと音楽が描き出される。
PMCは以前より、ブックシェルフのTB1とトールボーイのFB1のように、ユニットは全く同一ながらキャビネットサイズを引き伸ばすことで、音質傾向はそのままに低域レンジや量感をコントロールしてモデルのバリエーションを生み出しており、Prodigy1とProdigy5でもその伝統がしっかりと継承されていると実感した。
続いて、上位シリーズの「Prophecy1」と「Prophecy9」を試聴する。Prophecyシリーズは、トゥイーターには軸外特性を向上する大きくなだらかなウェーブガイドが設けられいるほか、さらに進化した「Laminair X」を搭載。「Laminair X」のポートは肉厚な金属製となり、外観的にも大幅に高級感が増している。また、トゥイーターは同じくソフトドームの27mm口径ながら、ウーファーが125mm径となってスピーカーの横幅が少しスリム化した分、奥行きが増大していることも特徴だろう。
2ウェイ・ブックシェルフとなる「Prophecy1」では、ボーカルの存在はさらに色濃くなった。一層精度が高まる印象で、ボーカルは、口元の動きがより細やかな再現になるとともに、エネルギーが漲っており、密度高いサウンドを実現している。
また、「Laminair X」ポートが金属化されたことも大きいのか、低音はより剛性の高い描写で、強度や存在感が大幅にアップしている。それに伴ってボディ剛性自体が上がったせいか、全体的な安定感や落ち着きがあり、例えばアコースティック楽器にはしなやかさが備わるなど、品格が増しているのだ。温かみと輝きとが同居しており、実に快適なサウンドだ。それでいて、125mmの小口径ウーファーから繰り出される低域や「Laminair X」ポートから繰り出される低域はスピーディーで、現代PMCならではの勢いの良さも楽しめる点が白眉である。
最後に、3ウェイモデルとなる「Prophecy9」も試聴する。こちらは、やはりユニットの口径はそのままに、筐体サイズが上下方向に大きく拡大されるとともに、ウーファーがもう1基と、ドーム型のスコーカーユニットが追加されている。このソフトドームのスコーカーは、まさにPMCやATCなどの現代英国モニタースピーカーを彷彿とさせるものと言えるだろう。
一聴して、音楽が展開するスケールが拡大している。描き出される空間やスペースの規模が広がり、全体的な音の分解能、解像力がアップしているのだ。これはまさに、低域再現力の拡大に加えて、3ウェイ化による切り込みの深さが増したことによる恩恵だろう。
「Laminair X」ポートから繰り出される低域は、音道構成に余裕が生まれるためか、独特のプレゼンスを持ちながらも「Prophecy1」よりもニュートラルな方向で、尚且つスピーディーである。
総じて、実体感に富んだリアルな再現力で、合計4基のユニットとLaminair Xポートによる充実した音の出方、伝わり方がありつつ、緻密な解像力を感じさせる高解像な出音が印象的なのである。
PMCの最新ラインナップとなる「Prodigy」及び「Prophecy」シリーズは、現代のPMCならではの溌溂かつ緻密な描写が堪能できるスピーカーシステムである。とりわけ、アドバンスド・トランスミッションラインと「Laminair X」ポートから繰り出される、まるで楽器のような鳴りの良さを持った中低音は、両シリーズならではのレスポンスを体感させてくれる逸材なのである。
(提供:エミライ)