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<IFA>生成AIを搭載する家電も市場投入。欧州&東京のスタートアップの熱気をIFAで見た
山本 敦ドイツの首都・ベルリンで、9月5日から6日間にわたって世界最大級のコンシューマーエレクトロニクスショー「IFA 2025」が開催された。2023年から本格的な対面形式による開催を再開して以来、今年のIFAは出展内容が最も充実して、明るいムードに包まれたIFAだったと筆者は感じた。
IFAで日本企業の存在感を示したパナソニック
パンデミックによりIFAが開催を妨げられる2020年以前に比べると、残念ながら日本から出展する企業の数は少なくなっている。それでも2023年以降パナソニックが継続してIFAにブースを構えて、日本の先端技術と最新のプロダクトを見せてくれたことが日本人である筆者にはとても頼もしかった。
テクニクスからは、Bluetooth再生機能を搭載するアナログプレーヤー「SL-40CBT」が発表された。詳細については既報の通りだが、展示にはドイツのメディア関係者や一般来場者、トレードビジターによる人だかりがいつもできていた。
パナソニックの担当者によると、799ユーロ(約13.8万円)という販売価格とスタイリッシュなデザインは若いテクニクスファンの開拓を意識しているという。実際に、ベルリン市内の大手家電量販店サターンの店内をのぞいてみると、スマートフォンやヘッドホンを販売するコーナーのすぐ隣にアナログレコードの売り場を大きく展開していた。日本と同様にドイツでも、若年層の音楽ファンにもアナログブームが到来しているようだ。
サムスンから生成AI搭載テレビが誕生
かたや、コンシューマーエレクトロニクスにも “生成AI対応” の波が押し寄せていた。サムスン電子は、2025年モデルのQLEDシリーズのスマートテレビへ生成AIモデルをベースにしたAIエージェントを搭載する。IFAでは「Vision AIコンパニオン」として先進的な機能を紹介した。
同社のスマートテレビには、独自に開発するAIアシスタントの「Bixby(ビグスビー)」とスマートOSの「Tizen OS」が長年採用されてきた。Vision AIコンパニオンはテレビに付属するリモコンのAIボタン、または音声操作により “Hi Bixby” と話しかけて、Bixbyを経由してグーグルのGemini APIを起動。自然な話し言葉により、様々なリクエストを受け付ける。
例えば再生している動画配信コンテンツのサマリー、出演者に関する情報などをVision AIコンパニオンが応答してくれる。サッカーの生中継の放送音声にリアルタイム翻訳をかけて字幕を表示する機能も、導入当初から12か国語をサポートする。
Tizen OSをベースにするQLEDテレビのプラットフォームには、独自のテレビ向けアプリストアからコンテンツを追加することも可能だ。サムスンの担当者によると、今後はアプリを追加する形でMicrosoft CopilotやPerplexityにも対応できるようになるという。ユーザーが好みに合わせてVision AIコンパニオンの生成AIモデルをGeminiからPerplexityに切り替えたり、用途で使い分けることができるようになるのだろうか。今後の対応に注目したい。
サムスンは8月に発表した115型のMicro RGB LEDをバックライトに搭載するテレビをIFAの会場に展示した。同社はこれまでにもIFAやCESでMicro RGBの技術デモを行ってきたが、いよいよ商品として韓国と米国で発売することを決めた。
画質については展示会場向けを意識した彩度・コントラストともに “派手め” なデモコンテンツを用いていたので、評価することが難しかったが、色の階調表現に豊かさが得られそうなポテンシャルは十分に感じられた。
欧州の熱いスタートアップがIFA NEXTに帰ってきた
世界のスタートアップが集まるテクノロジーの祭典「IFA NEXT」には、今年は久しぶりにヨーロッパのイノベーティブな企業が戻っていた。
ドイツ南西部の都市、シュトゥットガルトの近郊に本社を構えるニューラ・ロボティクスはまだ2019年に創業したばかりの若いロボット系スタートアップだが、創業からわずか6年で700人を超える従業員数にまで拡大した。
自社でヒューマノイド型ロボット「4NE-1」の設計と開発も行っているが、パートナー企業の依頼を受けて工業用ロボットアームを開発したり、ソフトウェアやAIエンジンの開発を請け負ったり、ロボット開発のあらゆるソリューションを提供している。CEO兼ファウンダーであるDavid Reger氏によると、日本にも川崎重工業やソニーなど大事なパートナーがいるという。
IFA NEXTのブースでは4NE-1が洗濯物を選別して仕分けるデモンストレーションを行っていた。2本の脚の代わりに車輪で移動するロボット、小型のケータリング用ロボットなど様々なタイプのロボットを設計・開発できることも同社の強みだ。
世界の先進国で大きな社会課題として顕在化している少子高齢化、人口減少による労働者不足の課題を先進のロボティクス技術により解決したいとReger氏は意気込みを語った。
ヘルスケアの領域に強いリトアニアのスタートアップ パルセットは、ストレスの緩和、思考の明晰化、睡眠のサポートを促進するネックバンドスタイルのウェアラブルデバイス「Pulsetto Lite」をブースに展示した。
本機は頸部(首)に電気パルスを送り、迷走神経の両側を刺激する。電気的な刺激が副交感神経系に作用し、ユーザーの日常のヘルスケアをサポートする。1日5 - 10分前後のルーティンセッションを1 - 2回実践する。担当者によると効果には個人差はあるものの、同社が実施したアンケートに対して「ユーザーの86%が2週間の使用後にストレスや不安が軽減したと報告している」という。
筆者も会場で本機を試してみた。1度の使用で何らかの効果が得られることはないが、使用感としては首もとをマッサージされるような不思議な感覚だった。刺激の強さ等はiOS/Android対応のPulsettoアプリから微調整ができる。
Pulsetto Liteは同社の公式ウェブサイトで278ドル(約4.1万円)で販売されており、世界中どこからでも購入可能だ。
SusHi Tech Tokyoに参加する日本のスタートアップのユニークな提案
IFA NEXTには、今年も東京都から「SusHi Tech Tokyo(スシテック トウキョウ)」が参加した。
東京都 スタートアップ戦略推進本部 戦略推進部 東京eSGプロジェクト推進担当課長の加来耕大氏は、SusHi Tech Tokyoの活動目的は「サステナブル、つまり持続可能な街づくりを実現する、日本の企業による高い技術力とアイデアを国内外に発信すること」だと説く。
今年はプロジェクトのeSGパートナーとして日ごろから参加する企業から8社を募り、IFA NEXTの展示エリアに大きなブースを構えた。「参加する企業から、とてもよい手応えを得ている」と加来氏は口もとに笑みを浮かべた。
天然木を素材とするスマートホームコントローラー「mui Board Gen 2」は、タッチ操作や音声操作により宅内のIoTデバイスを操作したり、ChatGPTとのAIチャット機能を搭載する。
タッチパネルに手書きで「Focus!」と書いて、スマート電球の明るさを調整したり、オン・オフを切り替えるデモをブースで体験した。デバイスのデザイン、ユーザーインターフェースをともに生活に溶け込ませることが、開発するmui Labが目指すところだ。
ヤマハ発動機も、SusHi Tech Tokyoのブースの中で一際注目を浴びていた出展社のひとつだ。同社の経営戦略本部 新規事業開発統括部は「バッテリーユニットを月額固定で交換しながら長く使える電動自転車」のサービスを、ドイツのベルリンとオランダのアムステルダムで2026年春に開始する予定だ。同サービスを欧州で広く展開するため、2023年12月に新会社のENYRING(エニリング)を立ち上げた。
同社が立ち上げるサービスは、正確には「小型電動車両用交換式バッテリーのサブスクリプションサービス」だ。ブースでインタビューに答えていただいたヤマハ発動機の飯塚祐太郎氏によると、通常の電動自転車の場合、バッテリーユニットは2 - 3年前後に経年劣化して使えなくなってしまう。交換費用も高くつくことから、ユーザーの負担を軽減しながら、同時に小型電動車両のライフスパンを5 - 8年前後まで長くするためにバッテリーユニットのサブスクを提供するのだという。
現在の計画では、ベルリン、アムステルダムの市内に2kmごとにバッテリーステーションを配置して、充電が切れかけているバッテリーパックをユーザー自身で交換できるプラットフォームを作る。1回のフル充電から走行できる距離の目安は約60km。サブスク費用については現在検討中だ。
電動自転車はシティクルーザータイプ、スポーツタイプ、ファミリータイプ、そしてBtoBカスタマーを想定して大きなカゴを搭載する車両など、複数の車種を用意する。車両は買い切り販売が基本形になる。
最初は2つの都市からサービスを導入してから、欧州の各都市に拡大する考えだという。今後の展開がとても楽しみだ。