英国名門 PMC、その徹底したエンジニアリングへの信頼。トランスミッションラインの進化の詳細をCEOが解説
2025/11/25
イギリス・BBCモニターの系譜を継ぐ名門スピーカーブランドは数あれど、創業当初の理念を大切にしながら、最新テクノロジーを貪欲に血肉化し、音質という“カタチなきもの”にメスを入れ続ける。イギリスのスピーカーブランド・PMCは、いま新世代のCEOを迎え、技術的・音質的に新たな飛躍を遂げようとしている。
新CEOの名はオリバー・トーマスさん。2025年初頭に、父ピーター・トーマスさんから2代目CEOを継承した。昨年秋にオリバーさんが来日した際に、貴重な単独インタビューの機会を得た。レッドブルでF1レーシングマシンの開発にも携わり、徹底した“エンジニアリング”に軸足を持つオリバーさんに、PMCというブランドの目指すところを語ってもらった。
PMCは、BBCのスピーカーエンジニアとして働いていたピーター・トーマスさんによって、1991年に立ち上げられたブランドである。PMCとは「Professional Monitor Company」の頭文字から取られたものであり、文字通り“スタジオモニタースピーカー”を開発する会社としてスタートした。
その理念は、創業30年を超える現在も変わらず引き継がれており、スタジオ向けのスピーカー、ホーム向けのスピーカーとそれぞれに強力なラインナップを擁する。
現在スタジオ向けはミックスウェーブが、ホーム向けはエミライがそれぞれ国内代理店を担当。他にも、カスタムインストール(店舗やホームシアター等)向けの製品ラインナップも取り揃えており、アメリカやアジア諸国にて大きな市場として成立している。
まずはホーム向けの最新スピーカー「Prophecy」の技術背景について語ってもらった。最大の進化点は、創業当初から採用してきた低域増幅方式「トランスミッションライン」を、現代のテクノロジーでさらに洗練させたことにある。
トランスミッションラインの採用を決断したのは父親のピーターさんであろうが、オリバーさんにとってのこの方式の魅力はどこにあるのだろうか?
「それは低歪みと自然な低音再生ができることにあります。そしてこの技術を、いかに最新の測定や解析技術で進化させていくか、ということに私の問題意識があります」
トランスミッションラインは、低域を長い音導管(チューブ)を通して増幅し出力することから、かつては“遅い”と評価されることもあった。しかし、オリバーさんはその認識を明確に否定する。
「確かにトランスミッションラインが遅いと言われてきた事実はありますが、それは、60〜70年代の、設計上の課題から生まれた過去のイメージです。正しく設計されたトランスミッションラインは、決して遅くはないのです」
低域のスムーズな応答性を実現するべく、PMCは高度なシミュレーションソフトや測定機器を導入。詳細は別記事を参照してほしいが、その一つがチューブ内の吸音材の素材と配置場所にこだわった「アドバンスト・トランスミッションライン」(ATL)。
もう一つがポート部分の“乱流”を整える「Laminair X」。F1レーシングマシンで開発の開発にも携わっていたオリバーさんの知見も込められているそうで、いずれもコンピューターシミュレーションを用いて綿密に設計することで、遅れのない俊敏な低域を実現できたのだという。
R&Dのチームが、目先の製品開発に追われず、時間をかけて音質改善のアイデアを掘り下げることができるようにするというのがその目的だが、そこで培われた技術は、迅速に製品開発にフィードバックされていく。
「今回のLaminair Xもそうですが、Prophecyは、ちょうど開発中のモデルに新技術を組み込めた良い例でした」。チームを分けたことによる技術開発の好循環が生まれているようだ。
PMCは「active twenty 5」といったアクティブスピーカーも積極的に提案している(現在ホーム向け製品の国内導入は未定)。グローバルに見ても、ハイエンドオーディオブランドがアクティブスピーカーを開発する例も増えているが、オリバーさんはアクティブスピーカーをどう捉えているのだろうか?
「技術的に見れば、アクティブスピーカーは常により正確です。アンプとスピーカーユニットをセットで開発できますから、クロスオーバーでのロスが少なく、理想的なマッチングを組むことができます。市場としてパッシブスピーカーの魅力も十分理解していますが、長期的にはアクティブの可能性はとても大きいと考えています」
だが、現時点でのPMCのアクティブラインナップはあくまで「アンプのみ内蔵」モデルであり、ストリーミングとの連携やDACを搭載したものはない。
そういった製品開発について尋ねると、「オールインワンのスピーカーというのも非常に重要なテーマだとは考えていますが、安定性と音質が十分に高いレベルに達していることが前提になります」と課題も明らかにする。あくまで信頼性を軸に置くPMCらしい考え方である。
実はオリバーさんは、同時期に開催されていたInterBEEにも来場し、音楽スタジオのドルビーアトモス環境整備にも力を入れている。PMCのスタジオ向けスピーカーは、アメリカのキャピトル・スタジオや、ユニバーサルミュージックジャパンのスタジオなど、世界各地の著名スタジオに導入されており、スタジオ関係者からの信頼も厚い。
それでは、プロ向けとホーム向けで音作りの考え方に違いはあるのかと尋ねてみた。
「いいえ。私たちは変えていません。正確なスピーカーは、スタジオでも家庭でも同じ価値を持つと考えています。良い録音は素晴らしく鳴り、そうでない録音はそのまま表現される。それがモニターであり、同時に理想的なハイファイスピーカーだと思っています」
オリバーさんは、「今再び日本市場に本格的に向き合うべきタイミングと考えています」と期待を強める。「新しい製品と新しい体制で、日本のオーディオファンの皆さんと長期的な関係を築いていきたいですね」。
音質クオリティにシビアな日本のユーザーの声をしっかり反映しながら、今後も技術への誠実さを核とした製品開発を続けていきたい、と今後の展望を熱く語ってくれた。
(提供:エミライ)