従来の省エネテレビといえば、画面が暗いなど、なんらかのエクスキューズがつきまとったものだった。LED AQUOSの第2弾であるSシリーズは、業界No.1の省エネ性能を誇りつつ、LXラインと同様、妥協の無い高画質を実現しているのは特筆に値する。

画質の基本となる液晶パネルとバックライトは、定評のあるLXラインを踏襲し、直下型の白色LEDとシャープ独自のUV2A液晶パネルを採用している。高い発光効率を持つLEDバックライトは、低消費電力でもパワフルな輝度を実現。また、光の透過率が高く、それでいて光漏れが極めて少ないUV2A液晶パネルは、LEDバックライトの輝度を損なう事なく、同時に黒の沈み込みをも実現し、明るい部屋でも鮮やかで高コントラストの映像表現が楽しめる。

この冬、昼時の直射日光が差し込む明るいリビングで、フィギュアスケートを観戦する機会があったが、スケートリンクの氷は、日光の明るさに負けず白く輝き、さらに観覧席や選手の衣装の黒もしっかりと表現されていて、日常生活空間での画質の高さに感心した。画面表面の艶を適度に抑え、映り込みが少ないのも、外光や照明の強い部屋での鑑賞にはプラスとなるはずだ。

 

パネルの後方にLEDバックライトを多数配置する、いわゆる「直下型」を採用したことにも重要な意味がある。直下型は画面の隅にLEDを配置するエッジライト型に比べ、エッジライト型で必須となる導光板による光のロスが無い。その結果、より効率よく光を取り出すことが可能になり、同じ消費電力の場合、より明るい映像を実現できる。これがコントラスト性能の向上に寄与するのだ。

直下型とエッジライト型の構造イメージ図。エッジライトではLEDをパネルに対して垂直に配置し、光を導光板で拡散させる。これに対して直下型ではパネルの後ろから直接前方に向けてライトを当てるため輝度ムラが起こりにくい

また、直下型では多数のLEDを画面の隅々から中央部までバランス良く配置しているので、エッジライト方式に比べ、画面全体を均一に照らす事ができ、輝度ムラが少なくなる。だから、画質で最も重要な指標とされるユニフォーミティー性能も極めて高い。このユニフォーミティー性能の高さを確認したいなら、フィギュアスケートなど動きの速いスポーツが適している。選手を追うようにカメラがパンするシーンで画面の半分を占める氷の表現に注目して欲しい。ユニフォーミティーが悪いと輝度ムラが目に付き、映像が止まったかのように感じる瞬間があるが、Sシリーズにはそれが無いことがわかるだろう。

また52V/46V/40V型のSE1ラインは、LXシリーズと同様、LEDをいくつかの列に分割し、画面走査のタイミングに合わせ、順次、時間差をつけて点灯および消灯させ、残像を低減する「スキャン倍速」機能を搭載している。これも直下型ならではの技術で、高速点滅に強いLEDバックライトを活かした好機能だ。UV2A液晶パネルは応答速度が速く、素の状態でも残像感が少ないが、「スキャン倍速」で、さらに持ち味を引き出している格好だ。

このスキャン倍速も、同じくスポーツ観戦でそのメリットを実感しやすい。横に動く背景の観客や文字に注目してみよう。一般的な液晶テレビでは残像感が気になりやすいポイントだが、Sシリーズにはそれがほとんど感じられないのだ。

もちろんエッジライト方式を否定するわけではなく、エッジライト方式には超薄型を実現できるというメリットがある。ただし画質を重視した場合、現時点では直下型が適切な選択肢と言えよう。

 

画質を語る上で、映像エンジンは非常に重要だが、単に処理速度が速ければ良いというものではない。映像エンジンには、設計者の画質に対する考え方、表現方法といった「思想」が込められていると言っても過言ではない。

映像エンジンの基本的な役割は、入力した映像信号を、パネルの画素に割り当てる事である。画素数の少ない映像の場合は、アップスケーリングと呼ばれる画素補間を行う事になるが、この場合、映像エンジンの善し悪しで解像感が左右されてしまう。例えば地上デジタル放送は1,440x1,080画素での放送が基本であり、1,920x1,080画素のフルHDテレビではアップスケーリングが必要になることから、日常的に視聴する地上デジタル放送においても映像エンジンの性能は大きく影響すると言える。

また地上デジタル放送では、ビットレートの制限によって、映像が複雑だったり動きが多かったりすると、放送局でエンコードする時点でブロックノイズが発生する。これをテレビで見る際に気にならないよう改善するのも映像エンジンの役割だ。「AQUOS高画質マスターエンジン」では「高画質アクティブコンディショナー」機能がこれに相当する。

さらに、動きの速い映像の残像感低減に貢献する「AQUOS高画質Wクリア倍速」や、前述のLEDバックライトをコントロールする「スキャン倍速」も「AQUOS高画質マスターエンジン」の一部だ。Sシリーズは、アンベールコントロール以外の全ての高画質性能をLXシリーズから引き継いでいて、画質面での抜かりは感じられない。

 

LXラインから引き継いだ機能として「好画質センサー」も忘れるわけにはいかない。非常に画期的かつ効果的な機能なので、改めておさらいしておこう。

「好画質センサー」機能は大きく分けて2つの要素から成り立っている。まず1つめの機能は、周辺の環境光を、明るさだけでなくRGBセンサーによって色温度までも捉え、映像の色合いが常に一定に見えるようコントロールするというものだ。

SHARPロゴの下にある黒いセンサーが「ムーブセンサー」。明るさセンサーはその右側に装備する

人間の目は色順応という機能を持ち、白い物を常に白と感じるよう、無意識のうちに脳で補正している。昼間や青白い蛍光灯の下で白に見えるテレビが、電球の下で見ると青白く感じるのはこの「色順応」が関係している。「好画質センサー」機能を使えば、テレビが環境光を検知して、色温度を自動的に補正してくれるので、常に制作者の意図した色合いで視聴できるということだ。

2つめの機能は“好みの反映”で、「お好み画質設定」というメニューで設定が可能。制作者の意図を忠実に再現する事は非常に重要だが、色合いや色の濃さには、人それぞれ好みがあるのも事実。好みに合わないと違和感を覚える。この機能では、従来のように、色の濃さや色合いといった調整項目を操作するのではなく、画面に表示されるサンプル画像から好みのものを選択するだけで、その人の好みに合わせた調整が行われる。明快で実用的な映像調整機能として評価したい。

   
「お好み画質設定」の設定画面では、フィルム映像(左)、ビデオ映像(中)、スポーツ映像(右)のサンプル画像の中から好みのものを選択すると、最適な画質設定を行ってくれる