ノイズキャンセリング・ヘッドホン「QC3」の新しい魅力とは − ボーズ・キーパーソンに訊く

公開日 2006/08/25 17:23
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Patricia Centola氏(左)とVishu Singh氏(右)にお話をうかがった
別項新製品発表会のニュースでお伝えしたとおり、ボーズからノイズキャンセリング・ヘッドホンの新製品「QuietComfort3」が10月2日より発売される。このたびPhile-webでは、新製品の開発に深く関わったキーパーソンであるPatricia Centola氏、Vishu Singh氏の二人に、新製品の開発背景などについて独自にお話をうかがった。

−−−はじめにボーズのノイズキャンセリング技術の歴史からお聞かせ下さい

ボーズのノイズキャンセリング技術の歴史は古く、1987年に基礎研究に着手して以来、現在までおよそ28年に渡る研究を続けています。始まりは軍事用途として、ノイズレベルがおよそ110dBと非常に高い過酷な環境下でも高精度な通信が可能なヘッドセットの製品開発からスタートしました。


手前左から「QC2」「QC3」。右奥は「Aviation Headset X」
その後、1989年には航空機用のアクティブ・ノイズキャンセリング・ヘッドセット「Aviation Headset X」を発表し、90〜95dBとノイズの多い環境に晒されるパイロットたちから、クオリティの高い通信環境を提供するヘッドセットとして好評を博しました。

やがてプロフェッショナルの現場から、一般コンシューマー向け製品の領域に拡大し、2001年に日本国内でも発売されたノイズキャンセリング・ヘッドホン「QuietComfort」を世に送り出しました。コンパクトで、快適な装着感を実現した本製品が、オフィスやプライベートのリスニング環境において高い評判をいただき、またたくまにノイズキャンセリング・ヘッドホンの市場を確立して行きました。

−−−アクティブ・ノイズキャンセリング方式により、日本国内でも多くのファンを獲得した「QuietComfort2(以下:QC2)」ですが、「QuietComfort3(以下:QC3)」になって、進化した各ポイントを教えて下さい。

「QC2」の特徴であり、多くのユーザーからの指示を獲得したポイントは以下の3つに代表されます。

・軽く、圧迫感を抑えた優しいかけ心地
・優れたオーディオリスニング性能
・高いノイズキャンセリング効果

「QC3」では、これら「QC2」の持つ魅力を継承しながら、新たな製品としての革新を実現したいと考えました。


左が「QC2」、右が「QC3」

アラウンドイヤータイプの「QC2」

オンイヤータイプの「QC3」
新製品の開発に着手する段階にあたって、「QC2」のユーザーにアンケートを行ったところ「旅行など移動中に音楽を聴く時」「家庭のオーディオリスニング」など、その使用シーンは様々でしたが、多くの方々から「より製品がコンパクトになれば、もっと使い勝手が広がるはず」という意見をいただきました。そこで、今回の「QC3」では、「QC2」と同等の性能を持つ「よりコンパクトなヘッドホン」の実現がテーマとなりました。

「QC3」で実現された主な革新的な技術と呼ぶべきポイントは、主に以下の3つです。

【1】アクティブ・ノイズキャンセリング領域の拡大
ノイズキャンセリングの手法には、電気的なアプローチによる「アクティブ方式」と、ヘッドホンと耳の密着度のコントロールなどによる物理的なアプローチとなる「パッシブ方式」の二つがあり、両方を組み合わせることにより「QC2」は優れた効果を獲得しています。その「QC2」と同じノイズキャンセリング効果を、より面積が小さくなったイヤーカップで実現するためには、アクティブ方式でのノイズカット性能を拡大する必要がありました。「QC3」では、従来は低音域のみのアクティブ・ノイズキャンセリングだったものを、中高域まで帯域を拡大することで、オンイヤータイプの形状でも高いキャンセリング性能を実現しているのです。

【2】クッションデザインの改良
イヤーカップ内には独自に開発したイヤークッションを用いています。「形状記憶フォーム(Open Cell Foam)」という発泡素材を用いて、パッシブ・ノイズキャンセリング効果を高めるための耳への密着度を確保しながら、耳を圧迫することなく快適な装着感を実現しています。

イヤーカップ内には独自に開発したイヤークッションを採用

耳への密着度が高まり、快適な着け心地とパッシブ・ノイズキャンセリング効果を実現している

【3】イヤーカップの小型化
ヘッドホン自体についても快適な掛け心地を追求しています。イヤーカップの取付け角度や調整角度にも、人間工学に基づく緻密な計算と独自のノウハウを活かして、頭を挟み込むクランプ圧を軽くして長時間の装着時にも快適なかけ心地を実現しています。

−−−アクティブ・ノイズキャンセリングを実現する電子回路について、改良が行われたポイントについて教えて下さい

より小さくなったイヤーカップの容積に「QC2」と同じ電子回路を組み込むことは大変困難な挑戦でした。今回は使用部品を一から見直して開発を行い、基板、および部品の小型化を成功させたことでこの難題をクリアしました。

小型化したイヤーカップ内にQC2と同じ電子回路が組み込まれている

−−−その他にも「QC3」が新しく採用したスペックについてご紹介いただけますか

駆動電源には専用リチウムイオン充電池を採用しています。今回はとてもユニークな試みを行っており、製品本体へ直にはめ込む仕様となっています。そのため電池自体もカスタムデザインとし、パーツを一から起こしてつくりました。その他、ユニバーサル仕様の充電器も付属していますので、世界中どこでも使うことができます。また、飛行機の旅でも活用いただけるよう、変換プラグも付属品一式の中に同梱しています。

本体とデザインマッチングを図った専用充電池

本体に装着するタイプとし、小型化にも貢献させている


専用の充電器も付属する

航空機内でも楽しめるよう、変換コネクターも同梱する


専用ケース

同梱物一式をコンパクトに収納できる

−−−「QC3」がコンパクト化を遂げた背景には、やはりアメリカでもよりコンパクトなノイズキャンセリング・ヘッドホンをユーザーが求めるようになったからなのでしょうか

アメリカのユーザーがノイズキャンセリング・ヘッドホンを活用するライフスタイルは実に様々です。「QC2」は飛行機での旅行をはじめアウトドアレジャーやビジネスシーン、ジムでのトレーニング時など、色々なかたちでご愛用いただいています。「QC2」と同等の優れたノイズキャンセリング効果と、音響レベルを備えた“よりコンパクトな製品”を渇望する声は確かにアメリカでも多くありました。今回「QC3」は、シリーズの新たなラインナップとして加わるかたちとなりますので、ユーザーの方々がそれぞれのライフスタイルに合わせて、「QC2」と「QC3」を使い分けていただきたいと考えています。

−−−音質面で変更された点はあるのでしょうか

ボーズの一般コンシューマ向けのノイズキャンセリング・ヘッドホンとしては、既に「QC2」の時点でリファレンスの音というものが完成していました。その高い性能を引き継ぎながら、これだけコンパクトになった製品で同じクオリティを実現することが今回の課題であり、その成果は大きなものを得ることができたと確信しています。

−−−アメリカで「QC2」を活用している主なユーザー層を教えて下さい

かつてボリュームゾーンとなるユーザー層は40代から50代の男性、或いは飛行機によく乗るビジネスマンの方々が中心でした。やがて彼らを発信地として「ボーズのノイズキャンセリングヘッドホンは音質が良い」といいう評判が広まって行き、オーディオファンを中心とした一般層にも一気に拡大したことにより、ボーズのオーディオヘッドホン「Triport」が誕生していったという経緯があります。現在はMP3プレーヤーの普及も拡大したことにより、女性層をはじめボーズのヘッドホンのユーザーはますます広がりつつあります。

−−−まだ「QC3」が発表されたばかりですが、今後ボーズのノイズキャンセリング・ヘッドホンにはどんな新しい製品が計画されているのでしょうか

確かにまだ「QC3」をご紹介したばかりですので、まずは本製品が多くのユーザーに受け入れてもらえればと期待を膨らませています。現在ボーズは、これまでの研究成果を活かしながらあらゆるタイプの製品開発に対応できる体制を整えています。今後、ユーザーの方々からのニーズに対応しながら様々な製品を実現していきたいと考えています。ぜひ今後のボーズのノイズキャンセリング・ヘッドホンの動向にも期待して欲しいと思います。

−−−今後のご活躍に期待しています。本日はありがとうございました。

(Phile-web編集部)

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