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【第172回】ミヤザキタケルの気軽にホームシネマ

綾野剛、R18作品に挑む。2人の男と1人の女が織りなす、切なくも純粋な愛の物語

公開日 2025/06/20 06:30 ミヤザキタケル
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サブスクで映画を観ることが当たり前となりつつある昨今、その豊富な作品数故に、一体何を観たら良いのか分からない。そんな風に感じたことが、あなたにもありませんか。本コラムでは、映画アドバイザーとして活躍するミヤザキタケルが水先案内人となり、選りすぐりの一本をあなたにお届け。今回は2023年公開の『花腐し』をご紹介します!

『花腐し』(2023年・日本)
(配信:U-NEXT/Netflix/DMM TV)

『花腐し』U-NEXTほか各動画配信サービスで配信中


 第123回芥川賞に輝いた松浦寿輝の同名小説を、『火口のふたり』の荒井晴彦監督が映画化。ピンク映画の監督である栩谷(綾野剛)は、滞った家賃の支払いを大目に見てもらう代わりに、とあるアパートに居座る住人の立ち退き交渉を依頼される。アパートの住人で脚本家志望だった伊関(柄本佑)と口論になるも、言葉を交わす内に打ち解けていく2人。それぞれに愛した女の話をしていると、2人が愛した女は同じ女・祥子(さとうほなみ)であったことが分かり……。

(C)2023「花腐し」製作委員会

ひょんなことから出会ったピンク映画監督の男と、脚本家志望だった男。そんな2人が、雨に降られ、酒を飲み、煙草を吸い、1人の女について語り合う。まるで境界線の如く敷かれた雨の向こう側で繰り広げられていく人間ドラマは、どこか霊的でもあり、目にする者を思考の波に飲み込んでしまうことだろう。花がやがて枯れるように、形あるものはいつか壊れゆく。花の彩りを味わい、その尊さを噛み締めるのと同時に、新たな種を植え、育み、咲かせることを繰り返していかなければ、花の彩りとは無縁の時間が訪れる。

(C)2023「花腐し」製作委員会

そんな時間を生きる男たちの“今”はモノクロームで描かれ、女が一緒にいた“過去”は彩り溢れるカラーで描かれていく。廃れゆくピンク映画界の現実と、1人の女を愛した2人の男と、2人の男を愛した1人の女が織りなす愛の物語。正しい解釈や正解を求めることなく、作品世界に身を委ね、想いのままに味わってみてください。

(C)2023「花腐し」製作委員会
※本稿記載の配信サービスは執筆時点のものになります。

ミヤザキタケル
1986年生まれ、長野県出身。2015年より「映画アドバイザー」として活動を始める。 宝島社sweetでの連載をはじめ、WEB、雑誌、ラジオなどで、心から推すことのできる映画を紹介。そのほか、イベント登壇、MC、映画祭審査員、BRUTUS「30 人のシネマコンシェルジュ」など、幅広く活動中。

 

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